また、
死ネタ第三弾。現在書き溜めたやつをちょっと手直ししてるだけでやっぱり駄文。更新速度がカタツムリからネズミにレベルアップ。でもまた滞ります。
自己満足分ですがよろしければどうぞ。
誰にも言っていない僕の秘密。実は、僕は原因不明の不治の死の病にかかっている。それは、最初は若干だるいなどと気が付きにくいものだが、その内喀血や激痛等の症状が出てくる。そして、その激痛が無くなったら死が目前に迫っている証拠だ。
この病は、どうしてかは謎だが手の甲に紅い花のような模様が浮かんでくることから『紅華病』と呼ばれている。
僕が紅華病になっているという事を知っているのは、僕と知り合いの闇医者だけだ。その闇医者の事は僕しか知らない。
…まあ、昔ちょっとヤンチャした時に知り合った奴だけど、結構信頼出来る奴だったから今でも交流を続けてるんだけどね。意外と人がいいから、俺の決意を聞いたとき顔をしかめてた。
「この病にかかった人は本当に少ないし、私もはじめてのことだからほぼ手探り状態だ。だが、おそらくお前のその作戦は実行できまい。…だから、大人しく看取られればいいのに」
「お前にはまだ看取ってくれる人間がいるんだ。この贅沢者め」
それにしても、今まで散々色々やってきて裏じゃちょっとは名の知れたこの僕の終わりが、こんなに呆気ないなんて笑えてくる。
今さら死は怖くないけど、少し寂しい。漸く普通の生活にも慣れて、そんで笑顔で『また明日!』なんて当たり前のように何気ない約束を出来るようになった。漸く笑顔で約束とかできるようになったんだけどな。
皆との笑顔の約束の破り方を知っていたら、なんて思う事もあるけど、やっぱり知りたくなかったりするんだ。だって、最後の瞬間暖かいモノ抱いていたいし。
僕が死ぬってことを皆に教えていないのは、最後は一人で迎えたいから。まあ、それは最後だからって色々口走りそうだからなんだけどね。それだけは阻止したい。恥ずかしいから。
昔の自分からは想像もできない程穏やかな僕は、最後は猫のように姿を消そうと思っている。死んだあと大泣きしそうな奴に何人か心当たりがあるからだ。
姿が無くなっていた方が、死んだなんて思われにくいでしょ?それに、僕昔猫みたいな暮らししてたし、最後に観るのが泣き顔なんてやだし。
「さーくーらー?朝よー?」
一人で死のうと思ったけど、あの闇医者が言ったとおりちょっと無理っぽい。何故なら、眼が覚めたら動けなかったからだ。理由は簡単。今まで僕を蝕んでいた激痛が無くなったせいで、酷く身体がだるい身体。起き上がる動作をするだけで全身汗びっしょりだ。
母さんが呼んでいるけど、それに返事すらできない。…これだと、持って一日もないかもしれない。
「桜!?どうしたの!?」
「あはは、ちょっと…体がだるくて動かな…いだけで、別に…大丈夫…ですよ」
僕の部屋に入ってきた母さんは、僕の異常に気づいたようだ。でも、命にかかわるものだとは気が付いていないみたいだ。良かった。まあ、言い訳はすぐに見破られたけど。て言うか、きっと酷い顔色してるんだろうな。母さんが泣きそうな顔してる。そんな顔させたい訳じゃないんだけどな。
「ちょっとどころじゃないでしょ!今日は学校休みなさい」
「いえ、遅刻で良いんで行きます。…約束したから」
母さんが心配してくれているのは分かる。でも、それとこれとは別。今日僕は最後の約束を果たす。
顔は真っ青で脂汗だってかいているというのに、表情だけはいつもの笑顔。それはきっと不自然だと分かっているけど、僕にとって他人を安心させる方法は笑顔しかないんだ。
どうしても引く様子の無い僕を見て、母さんは渋々と言った感じで了承してくれた。その代わり、学校まで車で送っていくと言ってくれた。それは今の僕にとってかなりありがたい申し出だった。
学校に着くと、ふらつきながらも自力で教室までたどり着いた。ドアを開けた途端、先生が僕の顔色を見て「帰れ」と言ってたけど、無視して席に着く。今日は一日中教室授業だったから、多分大丈夫。
南田や西宮とかが心配してくれたけど、それに答えて行くのもちょっと大変。流石にヤバいかもしれない。これじゃ、こっそり猫の様に消えるなんて無理か。でも、出来るだけいつも通りで居よう。最後だからって特別にしたくない。
何とか5時限目まで耐えたけど、それまでが限界だった。五時限目が終わると同時に、僕は倒れた。そして、気付いたら僕は自分のベッドで寝ていて、その枕元には父さんと母さん、それと学校の友達と先生が居た。
ただ、若干視界が不明瞭なせいで表情がぼやけている。ちょっと残念だけど、大体は気配で分かる。なにせ昔色々やってたから気配には敏感なんだよね。しかも今ほとんど目が見えてないから、その分他が鋭くなっているみたい。
担任の鳥羽先生と父さんと東野先輩と南田が怒っていて、母さんと西宮が泣いていた。
「…どうしてそんな弱っていたのに学校へ来たんだ…」
先生のメッチャ怒りを抑えた声、でもその程度じゃ僕は怯まない。どうせもう駄目だと吹っ切れたからばらしまくって先生泣かせてやる。
「別れを言うためですよ。僕はあの後姿を消すつもりでしたから」
その言葉に、驚きの声が上がったけど、先生はそれを黙らせた。ちょっと怖い。いつも怖いけど、今はいつも以上に怖い。ふと、噴火直前の火山ってこんな感じなのかなって思った。
「どうして姿を消そうとしたんだ?それはお前の手の甲にある紅い花みたいな模様と何か関係があるのか?」
きつく包帯を巻いて隠してたのに、なんでばらしたんだという目を向けると、母さんが申し訳なさそうにした。きっと怪我の手当てをしようとして、バレテしまったんだろう。
「はい。むしろ、それが原因ですね。先生は知っていますか?『紅華病』」
「イヤ、知らない。が、それがどうした」
「紅華病は、原因不明の不治の病です。そして、僕はそれにかかっています。持ってあと一日位だと思います。あ、大丈夫ですよ?これは感染りません」
淡々と話す僕。でも、周りの皆はその事実を受け止めきれないみたいだ。いや、受け止めたくないのかもしれない。でも、僕は話し続ける。たとえ不治の死に至る病だとしても、この病は最後まで僕の言葉を奪わないでいてくれるから、心置きなく話すことができる。それだけは感謝した。
「僕は、自分の死に際を見られたくなかったので、姿を消そうとしていました。僕は猫と同じですから。今日無理して学校に行ったのは、僕が初めて笑顔で出来た約束を果たしに行こうと思ったからです」
「初めての約束…?」
「そうですよ、東野先輩。きっと何気なく言われるものだから誰も気にしていないかもしれない、本当に些細なこと」
「『また明日』ただ次の日も会おうって言う、至極当たり前の約束です」
「そんな事の為に無理してまで来るんじゃねーよ!…お前が倒れた時、どんなに怖かった分かってんのか!!」
少し泣きそうな声で言う南田には一寸罪悪感。でも、そんな事なんかではない。僕にとって一番光をくれた様なコトバだからだ。
「今日は、皆に『また明日』の代わりに『サヨナラ』を言おうと思っていたんです。でも、ここに居る人だけに特別なサヨナラをあげます」
もう、本当に時間が無いから、最後の力を使ってとびきりのサプライズしてあげよう。冷や汗が止まらないし、意識も朦朧としてるけど。伝えて見せる。だからどうか、もう少しだけ。
「父さん、若干頼りないとか思ってたけど、ひょろりとしているのに大きな手でなでてくれるの、実は安心できて好きだった。これからは、お母さんと笑って僕の分まで長生きして」
父さんは、さっきまで怒っていたのがウソのように、静かに涙を流した。もともと口数の少ない人だったけど、その分気配でモノを言うから、父さんの気持ちが痛いほど伝わってきてビリビリする。
「母さん、偶に口うるさいとか言っていたけど、こんな僕にこんな暖かな居場所をくれて本当にありがとう。これからは、父さんと支え合って、僕の分まで笑顔でいて」
母さんは涙を流しながら笑顔で父さんに寄りかかった。たぶん、悲しそうだけどとても優しい笑顔を浮かべてくれてるんだろう。母さんって強いから。それが見えないのが、すごく残念だ。
「鳥羽先生、いつも口うるさいって色々悪口言ってゴメンなさい。でも、先生に褒められるのは意外と好きでした。先生は、生徒に笑顔を与えられる人のままでいて」
「言われるまでもない」
でも、そう言った先生の目には光るものが見えた気がした。ちょっと成功した気分。だってほとんど感情を表現してくれない人だったから。今目がほとんど見えないのが凄く残念だなーって思った。
「先輩、先輩はいつも僕をあきれさせたけど意外と頼りがいがあって、僕にとって頼れる兄のような存在でした。社会に出ても、先輩は自分の信念を曲げないで生きて」
「桜のくせに生意気だぞ。言われなくても俺は俺らしく生きてやるよ」
先輩は泣きながら笑顔で言ってくれた。いつも見せてくれてた、頼もしいお日様みたいな笑顔だったんだろうな。ちょっと鼻声だったけど。ホント、先輩が兄さんだったら良かったのに。
「西宮、キミは僕にとって唯一の女友達で、いろいろと相談出来た。同い年なのに、僕にとってはお姉さんのような気がしてた。キミはその優しい強さを失わないように生きて」
「……うん…分かった……」
嗚咽交じりに返事をくれた西宮は、それでも取り乱してはいなかった。しっかり者で、だけどちょっぴり甘えん坊だって知ってた。母さんと同じで、僕が甘えると嬉しそうにしてたよね。だから思わず甘えすぎた気がする。
「南田、お前はいつも乱暴で、一番良く喧嘩した。でも、お前は僕にとって背中を預けるに値する奴だったよ。お前はその熱い心を忘れずに生きて」
「…当たり前だ!!」
俯いていて良く見えなかったけど、泣いているのは分かった。鼻をすする音が聞こえたし、何よりこいつは意外と涙もろい。不良ぶってるけど、ホントはただ情に厚くて口より先に手が出ちゃうそんな奴。一番気を許した相手だ。こいつと喧嘩してる時が一番楽しかった。たぶん、お前が僕の初恋…なんて言ってやらないけど。
「最後に、僕は皆に会えてよかった。はじめて言えた約束はもう果たせないけど、意外と満ち足りた気分だ。皆、サヨナラ、ありがとう」
最後の方はちょっとかすれちゃったけど、ちゃんと聞こえただろうか。でも、そろそろこの眠気にあらがうのも無理っぽいから眠ってしまおう。
でも、我ながら暖かな終わりだったと思う。最後に思わず素の笑顔になってしまう位に。ああ、幸せだった。閻魔様に会えたら、僕はとても幸せでしたって胸を張って言える位に。
「…けど、お前がいなきゃ面白くねーんだよ…バカ桜…っ」
「言いたい事だけ言って逝っちゃうなんてずるいよ…桜ちゃん」
桜が静かに息を引き取った。その瞬間、桜に一番近い所にいた二人は泣き崩れた。西宮は呼吸さえままならないかのように号泣し、南田は歯を食いしばって静かに涙を流してた。
それを皮切りに、桜の部屋に嗚咽と涙が溢れた。
「桜アァァァァァァ!!!」
桜のお母さんが泣き崩れ、桜のお父さんはそんなお母さんを抱きしめたまま泣いていた。自分の涙をぬぐいもせず、自分の服が濡れる事を厭わず、まるで涙腺が決壊したかのように泣いてた。
「…バカ者……サヨナラだ、高崎…」
先生は声を出さずにただただ涙を流していた。そして、先生はその涙をぬぐうことなく立っていた。歯を食いしばって、白くなるまで握りしめられたその拳が、先生の表に出しきれない程の感情を表してるみたいだった。
そして気付いたら、俺も子供のように声をあげて泣いていた。普段だったら、男だし、いい年になってみっともないって思うけど、今は。今だけは、別れを惜しむ涙を流させてほしい。みっともなくても良いから。
「好き勝手言って、勝手に逝くなよ桜…。そんな顔されたら怒るに怒れないだろ…?」
息を引き取った桜は、今まで見た事もないほどに穏やかで、幸せそうな笑顔だった。それがなおのこと、俺達の胸を締め付けて涙を流させる。
ホント、最後までズルイやつ。
待ってる。輪廻転生とかいうのがあるのを信じて、お前にまた会える時を。きっと律儀なお前のことだ。また俺たちのそばに、お前の両親の子供として生まれてくるんだろう?
だから、今はさよなら。
またいつか、お前と笑い逢える日がくることを祈ってる。
また明日って、考えてみればちょっと話できるかな?の結果がこれです。うまく表現できないのがもどかしい。
とりあえず、ここまで見てくれた人へ。ありがとうございました。