シリアスもどき(ただしハピエン)
前回に引き続き自己満足低クオリティ。いまいちシリアスになりきれない感じを目指してみた。そして何か吹っ切れてきたかもしれない今日このごろ。
駄文で良ければどうぞ。
突然突き飛ばされたのと、ついさっきまで俺がいた所から嫌な音がしたのは、ほぼ同時だったと思う。背中に何か温かなモノを感じて、何故かとても振り返りたくなかったけど、振り向かなきゃいけないような気がした。
そして、見えたのは。さっきまで一緒にいた悠の、血塗れの姿。ヤツは俺を見て笑った。
「無事…で……よ…かっ…た」
凄くうれしそうに笑って、俺の方に手を伸ばした。慌ててとったヤツの手は、段々と冷たくなっていく気がして。救急車を呼ぶ声や、悲鳴がそこらじゅうからしてるハズなのに、何も聞こえなかった。世界の音が消えたみたいに感じた。その中で、だんだん悠の息が小さくなってくのと、自分の心臓の音がやけにはっきり聞こえていた。
道路に広がる赫と比例するように、どんどん悠が冷たくなってく気がして、手をずっと握ってた。どっかいかないように悠の名前を呼び続けた。握った手から力が抜けてだらりとした時、芯まで冷えて、何か罅が入ったような音がした気がした。
そして、俺は悠の手を握ったまま救急車に乗って。必死で呼びかけて。気がついたら手術室の前で悠の両親と俺の親父と一緒になって座ってた。全ての時間が曖昧だった。まるで一瞬の出来事の様な気がした。でも、結構ゆっくりだった様な気もする。
世界の全てが、まるで壁一枚隔てたかのように曖昧だった。悠の両親が泣いているのも、親父が休めと言っているのも。俺が未だに血塗れだってことも。全てどうでもよくて。ただ、壁一枚向こうにいる悠の事だけが、俺をつなぎとめていた。
「一命は取り留めました。しかし、いつ目が覚めるかは彼の生命力次第です」
その言葉が、俺の頭を覚醒させた。悠が助かって嬉しいと思う心と、生命力次第って投げやりだろお前っていう怒りの感情。ともかくごちゃごちゃしてたけど、手術室から出てきた悠は、あの時よりの少し顔色が良くなっているような気がした。それだけでも、酷く安心した。その後の事は覚えてない。親父曰く、確認して気が抜けたと言わんばかりにぶっ倒れたらしい。
あれから一カ月。毎日時間の許す限り、俺は悠に会いに来ているけど未だに悠は目覚めない。毎日、学校であった些細な話をする。楽しい話。けど、いつもそれを聞いて腹を抱えて笑ってくれるお前が反応しないなら、楽しさマイナスだぞこのヤロー。
悠を轢いたのは、トラック。原因は携帯していた事に寄るよそ見。悠が思いっきり俺を突き飛ばしたのか、悠が吹っ飛んできた位置と大して変わらない所にいた。トラックの運転手は逃げようとしたけど、何人かの善良な人に寄って止められた。ちなみに俺は思いっきり殴った。でも悠のお母さんのが凄かった。平手で人が吹っ飛ぶのを初めて見た。
毎日、お前の目が覚める事を祈って。でも、実際は会えないお前に絶望して。今日もきっと目覚めてないだろうなーと思ってた。どこの眠り姫だお前は。王子のチューで目が覚めるんですかでもお前男だから姫さんのチューか。まあいい。早く目覚まさないとまたアホなことやらかしちゃうかもよ?俺。
「…えと、おはよう?」
前言撤回。チューは必要なかった。悠は目覚めた。
「今は夕方だからこんちにわだろ。…寝すぎだぞアホ」
「あはは、ゴメンね?うっかり体が動いちゃった」
「危なくなったら俺を盾にするとか言ってたくせに、何言ってんだよ」
「うん。ゴメンね」
どうか、気付かないでほしい。さっきから俯いて動けなくなっている俺の声が震えている事に。俺の目から水が出ている事に。こんな俺情けなくて見せられねえ。ああ、もうグチャグチャだ。でも、これだけはわかる。自信をもって言える。
「また会えて良かった…!!」
縋りつく様に抱きついた。これでヤツに俺の顔は分かるまいフハハハハ。前より少しやせた体は包帯やギプスでいっぱいで。でも、今俺の腕の中にいる悠はちゃんと暖かくて、心臓も力強く脈を打っていた。酷く、安心した。この温もりが消えなかった事に。
チクショウ頭をなでんじゃねえよガキじゃねえんだぞってか断じて俺は泣いてない目から垂れ流してるのはただの塩水だ心配させんじゃねえよお前どんな眠り姫気取りだよ。
そう言いたいのに、出てくるのは嗚咽としゃっくりばかりで。しばらく俺は顔を上げられそうにありません。いつだってこいつは俺の上を行くから嫌いだ。確かにお前には毎日会ってた。でも、『お前自身』には会えなかった。凄く、凄く会いたかったんだぞこのヤロー。
抱きついてるから、悠が俺の顔を見る事が出来ない。同時に、俺も悠の顔が見れない。それは残念だ。こいつの笑顔が見たかったんだからな。けどもうちょっと待ってて。
「帰ってくるのが遅すぎんだよバカ…。1カ月…待たせすぎだ」
「はは、ちゃんと待ってくれてたんだろ?」
「俺は某忠犬じゃねえんだぞ」
「僕はちゃんと帰ってくるよ。君が待っててくれる限りは」
「はは、すっげえ告られた気分。女の子にも告られてないのにー」
軽口をたたきながら、やっとお互いの顔をまともに見た。いつもさりげない毒舌を吐く悠も、俺と同じ位泣いてた。けど、結構レアな、こっちの胸まであったかくなる笑顔を浮かべてる。そう。これが見たかった。ようやく見れた。
「君、顔中汁だらけだよ?僕の服についたらどうしてくれるのさ」
文句を言いながらも肩を貸してくれるから、遠慮なく汁まみれにする。昔は俺がやられてたんだから思い知るが良いフハハハハ。この汁の原因はお前です。悠のあったかさが、俺の中の凍りついてた何かを融かしてるから。現在解凍中。ようやく俺も笑えるよ。
俺はきっと、握っていた悠の手から力がぬけてだらりとしたあの瞬間を、失うかもしれないという恐怖に押しつぶされたあの瞬間の冷たさを忘れることはできないと思う。でも、それと同じかそれ以上に、悠と『逢えた』あの時のぬくもりを、再び笑い会える日が来た幸せを忘れることもないと思う。
これから、悠はリハビリとか色々あるし、それ以外にも沢山辛いこともあると思う。けど、俺はこの二つと悠がいれば、意外となんとかなるような気がした。
「ところでさ」
「なんだよ」
「言い忘れてたんだけど」
「何を」
「その、ただいまを」
「おかえり、悠。一体この一ヶ月どこまで行ってたんだよお前は」
「三途の川っぽいところでひいじーちゃんひいばーちゃんその他諸々とエンカウント&バトル」
「ほんと何してきたのお前ぇ!!」
ハッピーエンド主義者。だから最後にギャグ投入して空気を壊してみた。そしていつもの残念クオリティ。にもかかわらずここまで読んでくれた人ほんとにありがとうございました。