ある夫婦の話
最近ギャグしかやってなかったので、シリアスでネタ出しします。更新が相変わらずカタツムリ以下です。楽しいかどうかはわからない自己満足でもよければ読んでください。やっぱ文才欲しいです。
side:小説家の妻
騒がしくなった病院のベッドの上で、私は君と今まであったことを振り返っていた。
私たちが初めて会ったとき、私は男勝りなじゃじゃ馬で、君は本が好きな大人しい人で。普通だったら、接点なんてかけらもないような二人だったね。
あの頃の私は、ともかく強く在りたくて。だから、女の子らしいこととか室内系のものは嫌いだったし、本なんか大嫌いだと言って、男なのに本ばかり読んでる君に絡んでた。あんなの、ただの八つ当たりなのに、その時は私のほうが正しいんだって思い込んでた。
ある時、私が本が嫌いだっていったあと、その時君が読んでた本を読みもしないのに馬鹿にしたことがあったよね。でも、その時初めて君がまっすぐ私を見つめ返してくれたのを覚えてる。だって、恥ずかしながらそれが恋に落ちた瞬間になったから。
それまでは結構曖昧な笑ではぐらかされて相手にもされていなかった。でも、その時君は、それは違うと言って見つめ返してきたその瞳があまりにも真っ直ぐで。そして気づいた。私がこんなにも彼に絡んでたのは、無意識のうちに気になってたから。本が嫌いだといったのは、君が本ばかり見てるから。それが悔しかったんだって、その時初めて気づかされた。
そんな私の複雑な感情を知ってか知らずか(多分分かってなかったんじゃないかな)、それ以来私にいろんな物語を教えてくれるようになった。勉強とか、あまり得意ではなかった私でも読みやすいような簡単なものから、だんだんグレードアップしていった。それでも本が嫌いだと言っていた私がそれらを読めたのは、きっと君のおかげだと思う。
君が勧めてくれた本を読んで、どこkがどんな風雨に面白かったか伝えたときの君の顔が、本当に嬉しそうに笑ってて。感想を言い合いながら笑いあえたあの時間がひどく優しくて。気がついたときには立派な活字中毒者になってた。
そんな私たちは、周りには良く男女逆転夫婦のようだとからかわれたりしたけど、それでバランスが取れていたんだからいいじゃない。
君が私にたくさんの物語を教えてくれて、私はそのお返しに君を太陽の下に引っ張り出した。二人して相手の笑顔を望んだ。
卒業したあとも、なんやかんやと関係は続き(でも、実は告白もしてなかった)、気がついたら結婚してないのに同棲までしてた。良くそれで結婚してないなと驚かれてたっけ。
プロポーズは君からだった。まあ、本当は私の方からしようと思ってて、夕飯の時にポロリと
「あたしから君にプロポーズしようと思うんだけど、指輪のサイズっていくつ?」
っていったら、ご飯吹き出すくらい驚いてたね。色々と大惨事だったのに、君が必死になって
「それは男としてちょっとどころじゃなく譲れないものがっ///」
って必死になって説得しようとしてたから、思わず声を上げて笑っちゃった。
次の日に、真っ赤なバラの花束を抱えて(半ば埋もれて見えた。後から聞いたら108本もあったらしい)プロポーズしてくれた君は、バラと同じくらい真っ赤で。とても可愛かったけど、それと同じくらいかっこよかった。
物語を愛した君は、それと同じくらい物語に愛されていたね。君は自分の趣味だからって私以外にはあまり見せようとしなかったけど、欲目抜きに全て輝いて見えた。君が書いた物語は、それらすべてがいつも私の自慢で。実はこっそり家族や友達に見せてたの。ゴメンネ。でも好評だったよ。君が綴る物語の数々の綺麗なことといったら!!正直、これが世の中で評価されなくて結構本気で悔しかった。
だからね、君が本当には小説家になりたかったって聞いたとき、私キレた。だって、君がその夢を諦める理由の中に私がいたんだもの。
「いざとなったら紫蘭君養うくらい簡単なんだから!!私が腹括ったんだから紫蘭君も覚悟決めて小説家になりなさい!!」
って、盛大に吠えちゃったわ。それで、君もやる気になったみたいで、これでダメだったらって出したら、それが予想以上に売れて驚いてたっけ。あっという間に人気作家に仲間入り出来たんだし、やっぱり才能あったんだよ。
私だけの物語じゃなくなったのは少し残念な気もしなくはないけど、それ以上に君の物語がたくさんの人に夢を与えてくれることが嬉しいの。…うれしかったの。
でも、でもね。これは神様が君に与えた罰なんかじゃないよ。君は無力なんかじゃなかった。頼りなくなんてなかった。だから、どうか自分を責めないで。これはね、私の自業自得なの。
買い物をした帰りに、ふらりと寄り道してたら交通事故に遭った。しかも、どうやら打ちどころが悪かったらしい。入院をして、表面上の怪我が治ってきているのにもかかわらず、私は衰弱していくばかりで。きっと、来年の桜を見るどころか、これじゃあ雪を見ることすら怪しいかもしれない。
ほんと、物語のように思い通りにはならないものね。昔は君をいじめる連中を蹴り飛ばして、つい最近まで職場を駆け回ったこの足が、今じゃもう感覚すらない。君の涙を拭いたいのに、手がまるで鉛で出来てるみたいに重くて、なかなか君に届かない。
それにしても、ホント、ついてないわ。
小説家だから、仕事関係で死に目に逢えないなんてことにはならずに済んだって君は笑ってたのに、偶々着替えとかを取りに家に戻った先で渋滞に巻き込まれて、後最低5時間は戻ってこれそうにないらしいけど、ゴメンね。ちょっとそれまで持ちそうにないっぽい。自分の体のタイムリミットは自分がよくわかるし、今お医者さんたちが動くのを諦めだしたんだもの。
side end
side:弟
袖をつかまれた。そして、伝言を頼まれた。…頼まれたくなかった。俺に伝言を頼んだその人は、俺の姉ちゃんだったけど、酸素マスクをつけて点滴を受けてて。素人の俺でもわかるくらい、姉ちゃんは死期が近づいてるように見えた。
「本当は、こんなこと竜ちゃんに頼んじゃいけないとは思ってるけど、お願い。これから言うことを、紫蘭君に伝えて欲しいの」
「ねえ、私は死んでも紫蘭君を愛してる。だから、忘れられるのはちょっとイヤ。でも、私が死んだあとに紫蘭君に好きな子ができたら、私を理由にしてその恋を諦めるようなことをしないで欲しいの。紫蘭君が、私が愛したあの人が幸せだと笑顔になれる事が私の幸せだから。
どうか、幸せに。それが、私の最後の願いです」
自分の口から言えよ。なんで俺がって口から出そうだったけど、喉に引っかかって出てこなかった。口を開いたら、きっと出てくるのは言葉じゃなくて嗚咽になると思ったから。
それこそ、生まれた時からの付き合いで。年は離れてたけど、結構姉弟仲も良い方で。だから姉ちゃんの内側も外面も結構知ってるつもりだった。勿論、姉ちゃんも俺が生まれた時から俺のことを知ってる。だから、俺の心の中もお見通しだと言わんばかりに苦笑された。
まるで、すがるように俺の袖を引っ張ったその手は微かに震えてて。もうすぐ死ぬかもしれないってのに、その目は怖いくらいに真剣で。これから死んでしまうはずのこの人が、これほどまでに真剣な『アイ』をもって揺るがないでいられたこの人を、不謹慎にも心底羨ましいと思ってしまったから。
泣きそうなのを堪えている俺を慰めるかのように、ゆっくり撫でてくれたその手は相変わらず優しいのに、その細くなってしまった指が、冷たい手が、余計に俺の涙腺を刺激した。
そして、その直後だった。姉ちゃんの手が滑り落ちたと思ったら、機械が異常を知らせてた。俺は慌ててナースコールを押したけど、なんとなくわかってしまっていた。
姉ちゃんはもう、助からないのだと。
side end
side:小説家の妻
伝言を頼んだ。遺書は正式なのとそうでないのを書いた。君が一人になれないように、できる限り手を回した。
やだなー、死にたくないなー。というか、こんな時まで君のことばかりってどんだけよ私。…まあ、愛してるからなんだろうけど。
自分のことや家族のことより、君のことが気になって仕方ない。大人しいくせに、たまにとんでもない無茶をする君のことだから、無理して怪我しなきゃいいんだけど。
ああ、やたらとまぶたが重いし体は指ひとつ動かせない位重いのに、どこか軽い気がする。ついでに、すごく眠い。竜ちゃんとか、お医者さんとかが呼ぶ声が聞こえる。竜ちゃんは泣いてるみたい。
せめて、最後の息に乗せた言葉が、届けばいいな。なんて、望みすぎかな?
「 す き 」
ピーーーー。
最後に何か、聞こえた気がした。
side end
それはきっと、奇跡でした。
side:小説家
竜君から華凛が危ないと連絡が来た直後、ちょっと無茶をして、全速力で走って。5時間はかかるだろうと言われたけど、2時間半位に縮めた。だけど、間に合わなかった。
いつも笑顔で僕を迎えてくれた君の顔に白い布がかかってて。でも、その意味を理解したくなくて。走ってきたから汗びっしょりで体中湯気が出そうなくらい暑いのに、指先はひどく冷えてた。だけど、触れた君の手の方がもっとずっと冷たくて。僕の体温を移そうにも、まるで拒絶するかのようなその温度が、まるで僕を侵食していくかのように目の前の現実を突きつけてきた。
あまりにも悲しすぎて、僕の心が裂けてしまいそうだった。
きっと、どこかで信じてた。キミが死ぬはずがないって。でも、キミは死んで、僕は間に合わなかった。いっそのこと、キミのこの冷たさで凍死したいと思った。
不思議と涙がでてこなかった。涙が頭が心が凍りついてしまったのかもしれない。そんなことをぼんやり考えながら、僕はただただ華凛の手を握ったまま立ち尽くしていた。
どれほどそうした居たのだろうか。気がつくと、君の担当医と竜君がいることに気がついた。担当医からは、淡々とキミの最後を伝えられた。泣きはらして真っ赤な目をした竜君からも。
「最後まで、強い方でした」
「伝言を、頼まれた」
「アンタを愛し続けるって」「アンタといて幸せだったって」「忘れられるのはイヤだって」
「幸せに、幸せになって欲しいって」
「姉ちゃんは、最後の最後までアンタの幸せを願って、アンタを愛してた」
あまりにも哀しすぎて、気がついたら熱い何かが頬を濡らしていた。気がついてしまったあとは、なし崩しにボロボロボロボロ涙が溢れた。歯を食いしばっても、嗚咽が漏れ出した。
担当医と竜君が気を利かせて君と二人きりにしてくれたようだったけど、それに気づく余裕なんてなくて。
僕はただただ、溢れるナニカに身を任せて、叫んで泣いた。
気が付くと、竜君と一緒に家に帰っていた。君もようやく帰ってこれた。けれど、ただいまを言う人は居なかった。お帰りを言ってくれる人もいなかった。
もともと、竜君が生まれてしばらくしてお義母さんは亡くなって、お義父さんもキミが卒業する直前に死んでた。僕の両親とは別居しているため、いつもおかえりと僕らを迎えてくれるのは、華凛、君だった。
竜君も、僕も、何も言わずに仏間にいる君のところに座り込んでいた。ポツリポツリと君の思い出を語らいつつも、言葉と同じくらい涙も溢れた。
そんな時、チャイムが鳴った。華凛の死を聞きつけてやってきた友達だと思ったため、僕が玄関に向かった。予想通り、高校時代からの友人の斎川夫婦だった。なぜか、ラブラドールレトリバーの子犬と、キャリーバック、それから犬用猫用のペット用品とエサを持って来ていた。
「華凛ちゃんから、最後のプレゼント、預かってきた」
「犬の方はカラン、ラブラドールレトリバーで四ヶ月半くらいでトイレのしつけも済ませてある。こっちは猫のローダ。見てのとおり虎猫で以下略。ちゃんと渡したからな」
彼らはそれだけ言ってさっさと仏間に行ってしまった。玄関には大量のペット用品とカランと紹介された子犬だけ。どうやら猫の方は竜君らしい。
訳が分からず呆然としていた僕は、下から聞こえる切なげな声を聞いて少し我を取り戻した。最出した僕の手を、カランは遠慮がちに匂いを嗅いだあと、甘えるようにペロリと舐めた。そして、怯えさせないようにゆっくりとなでると、気持ちよさそうに目を細めて体を押し付けてきた。
カランの体は、暖かかった。生きている温かさが、いつの間にか冷えていた僕の体をじわりと温めてくれて。僕はカランを抱きしめたまま、また少し泣いた。カランはしっぽを振りながら、静かに僕の涙をぺろりと舐めた。
しばらくして、カランの首輪に小さな手紙を見つけた。それは、君からだった。
『紫蘭君と竜ちゃんへ
私はもう体が動きそうにないので、カランに紫蘭君を太陽の下に引っ張り出す役割をバトンタッチします。竜ちゃんはローダくんに振り回されてもらいます。私はきっともう二人の涙を拭いに行けないから、この子達に拭ってもらってね。
私たちには子供ができなかったけど、この子達を子供だと思って、大切にしてあげてください。
この子達も、紫蘭君や竜ちゃんより先に天国に行くけど、すぐじゃないから。皆で笑ってハッピーエンドになるような土産話沢山持って、よぼよぼのお祖父さんになるまでこっち来ちゃダメだよ。
ちゃんと待ってるから、急がずゆっくり、幸せを感じて生きてください。
華凛より』
いつの間にか斎川夫婦は帰っていた。僕がカランを連れて仏間に行くと、僕と同じように泣きはらしつつもしっかりと子猫を抱えてる竜君がいた。ローダ君は大人しく竜君に抱きしめられたまま、小さく鳴いて挨拶をしてくれた。なでるとやっぱり暖かくてふわふわしてた。
ねえ、華凛。この子達を僕らの新しい家族にするって決めたのはいつだったの?聞きたいけど、もう君の声は僕に答えてくれない。それがまた、堪らなく悲しかった。
もし、叶うなら。君と、竜君と、僕の三人でこの子達の名前を決めたかった。
side end
『私はね、いつも紫蘭君に恋してる。自分の意思を伝える時のあのまっすぐな瞳に宿った光とか、照れたようにはにかむ顔とかペンだことか色々ある私より大きな手のひらとか、しょっちゅう寝癖まみれになってるサラサラの髪の毛とか、もうとにかくたくさん!!ふとした瞬間に、ああ、私紫蘭君のこと好きだなー、って思うんだ。
なにげない動作のはずなのに、なぜか紫蘭君にだけキュンキュンと心の危険信号が鳴るの。これ以上は心臓に多大な負担が掛かります!!てね。だって、心がキューってなって顔が真っ赤になって心臓がバクバクして頭がパンクしてとろけそう。物語の中の恋する少女達の気持ちがよくわかった気がするわ。
あと、背中とか。特に、物語と向き合ってる時の背中が好き。その背中に寄りかかってまどろむのが好き。君のキーボードを叩く音を聞いてると、不思議と幸せな気分になってくるの。なんでか分からないけど、君の背中は無条件に私を許してくれるような気がするの。ご飯を作ってる最中にちらりと見える背中は、まるで旅立っているみたいに見えたりもするけど、ちゃんと帰ってきてくれるって知ってるから、その背中を見送るのも嫌いじゃない。
でも一番好きなのは腕の中。ぎゅってされると包み込まれた感じがして、とても安心できるの。心臓バクバク言ってるけどね。二人でギュッてし合ってるのも、竜ちゃんを挟んでやるのも好き。
多分これを紫蘭君が読んでるって事は、私はもう死んでるんだと思う。つまり、私が送られる側になってしまったって訳だよね。
でもね、私は生き続けるよ。みんなの心や記憶の中とか、紫蘭君の書く物語の中に。みんなの中に、きっと私のかけらはあると思うから。
最後に、送られる私から残される君へ
貴方は私の最愛です。きっと、これから先もずっと。そして、君のこれからの人生に精一杯の祝福を』
by『小説家の妻』の最後のラブレターより
ある作家が新作を出した。『カナシ』と名付けられたその物語は、作家とその妻の実録に、ほんの少し手を加えただけだという。
その作家は、一年前に最愛の妻を亡くしていた。初版の発売日がその妻の誕生日だったということもあり、手に取るものは多かった。なかには、からかいや冷やかしの気持ちをもっていたものも少なくないだろう。
その物語は、クチコミや書店員の手描きのポップなどにより、爆発的に広がっていった。
二人を分かつ悲劇が悲しかった。相手を想い合う気持ちが哀しかった。二人や周りの人の愛が愛しかった。悲し、哀し、愛し。読んだ人は口々にそう言った。
ある日のこと。彼は、『一番泣けた本』の作者としてインタビューされることになった。
「僕は、間にあいませんでした。だから、間に合わせてあげたかったんです。せめて、最後に彼女の名前を届けたかった。最後に愛を伝えたかったから」
「奥様のこと、とても深く愛してらしたのですね」
「ちょっと違います」
「?違う、とは?」
「彼女は今でも僕の最愛のままです。今でもまだ、愛しているんです」
そう言った彼は、擦り寄ってきた家族の頭を優しく撫でていた。
思いつきによる適当クオリティ。丁寧さはログアウト。とりあえず死ネタで泣ける話が書きたかったけど残念仕様。でも書きたかった自己満足。ここまで読んでくださりありがとうございました。