ファンタジー・ブレイカー
男前な人魚ってどうだろう。そして気づいたら出来上がってた。駄文&短いですがよろしければどうぞ。
それまで僕が持っていた人魚像は、その日を境に木っ端みじんにされた。正確に言うと、人魚に対するイメージだけど。
その日僕は、何故か学校の人達に引きずられるまま海に来ていた。何でも、そこはアウル君(ハーフのイケメンなお金持ちの坊っちゃん。実にハイスペック)の家のプライベートビーチらしく、人影は僕達のしかないし、何よりもとても綺麗だった。
だけど、僕は彼らのいじられ要員であったため、素直に喜べなかった。きっと何かあると。そして、予想通り着衣のまま海へ投げ込まれた。制服じゃなかったのが幸いだったけど、両手両足を掴まれて、振り子みたく投げられたもんだから結構飛んだ。そして、派手な水しぶきと全身に感じた痛みを境に、僕の意識はブラックアウトした。
気がついたら、岩礁の上に仰向けに寝かされていた。そして、僕の頭の近くには美少女と言っても過言ではないくらいきれいな子が居た。しかも、彼女の、本来足であるはずの部分は、魚の尾びれの形をしていた。
「…人魚姫…?」
「んな寝ぼけた事言えるんだったら大丈夫そうだな」
…あれ?僕さっきの衝撃で耳でもやられちゃったかな?そうちょっと悩んでると、再び彼女が凛とした綺麗な声で話しかけてきた。
「オイ少年、人が話しかけてるってのに無視するたあいい度胸だな。しかも助けてやった礼も何もなしかコラ」
……腰のあたりまである艶やかな黒髪、強い光を秘めたアメジストの瞳、すっと通った小ぶりな鼻に小ぶりのピンクの唇。贅肉なんて欠片もないし、胸は貝殻のアレで隠されてるけど結構大きめだ。そんな、理想の女の子そのものみたいな可愛い人魚姫が、とても男らしく見える。言葉づかいも含め。
「…いえちょっと現実って厳しいんだなって再確認してただけです。助けてくれてありがとう」
「?そうか。たまには現実から目をそらしたくなったりするよな~」
若干遠い目になりかけながらもきちんとお礼を言うと、何故か同情された。何故だ。
「あ、僕は東雲涼といいます」
「ああ、俺はセレーナだ」
…無駄に高い順応性がこの時は少し恨めしい。とても男らしい口調で話す人魚姫と、普通に自己紹介から世間話までする仲になってしまった。話している内に、彼女とは結構いい友達になれそうな気がした。
「それにしても、人魚って物語の中だけの存在じゃなかったんですね~。事実は小説よりも奇なり、で
す」
「ああ、でもあの話はほとんど実話だぞ。俺達人魚は恋愛が大好きだから、その為なら命をかけるのも不思議じゃない位だし。まあ、皆がそうとは限らないけどな」
「セレーナは何となく恋愛よりも身体を動かす事の方が好きそうだよね~」
「さっすが涼!その通りだぜ。でもなんでわかったんだ?」
「…誰でも君の言動その他諸々を見ていればすぐわかると思うよ」
それから日没までそこに居て、あまり遅くなるとお互い周りの人間がうるさいという事で帰る事にし
た。いつか再び会う約束をして。
「お前潮に流されて結構遠くまで来てたんだよ。まあ、気絶してたから水も飲んでなかったし、俺がすぐに助けてやったから大丈夫なんだけどな」
「結構危ないは足わたってたんだ、僕…。でも、結構遠いなら、僕帰れないかも」
「近くまで送ってやるよ。まあ、さすがにその他大勢に姿を見せるわけにはいかないから、ある程度したら自力で帰ってもらうけど」
「大丈夫。色々と無茶に巻き込まれたせいで地味に逞しくなってるから」
「お前普段何されてんだよ」
世の中には知らないほうがいいことがたくさんあるんだよ?ってにっこり笑ったら、顔青くさせてものすごく頷いてた。やだなあ、僕脅してないよ?
セレーナにビーチの近くまで連れてってもらって、そこで別れた。ちなみに、道すがら聞いた事実として、姿を見せちゃいけないのは禁忌とかじゃなくただ単にめんどくさいからということ。夢って儚い。ある程度泳ぐと岸にたどり着いたのでホッとしてたら、僕を海に放り込んだ連中が顔中汁まみれにして出迎えてくれた。さすがにやりすぎたと思ったらしい。
「でもこれ、僕の運が良かっただけだから。普通なら死んでたよ?」
そう言って笑ったら、しばらくの間皆大人しくなった。ついでに冷や汗ダラダラ。おかしいな。僕はおどしたつもりないんだけど。まあ、それ以来やりすぎないよう気を付けてくれるようになったから良いんだけど。
だけど、暇を見つけてはセレーナ似合いに行ったけど、何故か会えずじまいだった。もしかして、あれは頭を打ち付けた時に見た幻覚か何かだったのかと思うくらいには、時間が過ぎていった。
だけど、それからしばらくして、今度は陸で彼女にあった。その時はちゃんと人間の足が生えていたし、男物だけど最近の服に身を包んでいたけど、間違える事は無かった。
「セレーナ?どうしてここに?」
「あ!涼!!探したんだぞ。テメエ俺が待ってたってのに全然来ねえから、俺がお前を探しにここまで来
てやったってわけさ!」
「とりあえず大声はやめて。そして僕だって毎日じゃないけど君を探しに行ったんだけど?」
「ありゃ?行き違いだったか?」
「多分そう。あ、この前の御礼、何が良い?」
「とりあえずお前の所に住まわせろ」
「良いよ~…ってえ?うそなんで?」
「ちょっといたずらが過ぎて海から追い出されて行く場所がねえ」
久々にあった彼女は、とても綺麗な笑顔を浮かべているにもかかわらず、とても男らしくずうずうしかった。幸い、僕は一人暮らしだから何とかなったけど。
こうして、僕と人魚の不思議な同居生活は始まった。そして、ある意味日々夢を破壊されていて、眼から鱗の勢いだ。
「オイ涼~。座敷わらしつれてきたぞー」
「はじめましてなのですぅ!とりあえず俺様に跪けですぅ!」
「ああ、また夢が…」
「でも楽しいだろ」
「否定できない…」
それでも、彼女が引き連れてくる個性豊かすぎる面々に、苦笑しつつも普通にお茶をすすめてる僕もそうとう変わってるんだろうなーと思いつつ、楽しいから流されていたいと願う今日この頃。
これの続編はありませんが、要請・妖怪その他もろもろのイメージを壊してみたいと言うリクエストがあったら、頑張って書いてみようとは思っています。
さあ以後まで読んでいただきありがとうございました。