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第17話 真実

「おかえりなさい」


私がもう一度そう言うと、パパは金縛りから解かれたように我に返り、

慌てて手に持っている荷物を身体の後ろに隠した。

でももう遅い。

私はバッチリそれを見たし、隠したところで隠しきれる大きさじゃない。


「・・・ただいま」

「随分早いのね」

「・・・」

「ママは?」


パパが少し振り向くと、

両手にボストンバックを持ったママがフウフウ言いながら改札から出てきた。

そして私を見て目を丸くする。


「あら、愛実。どうしたの?」

「2人を迎えに来たのよ、もちろん」

「そうなの?あ、じゃあもうバレちゃったのね?」


ママが緊迫感のかけらもない様子でパパを見たその時、

パパが後ろに隠していたゲージの中から元気な「キャンキャン!」という声が聞こえてきたのだった。





「どーゆーことか、説明してもらおうじゃない」


駅前でパパとママを待っていた6人にはお帰り頂くよう「丁重に」私からお願いして、

私とパパ、ママ、ジミィ、そしてゲージから解放されてご機嫌のトミィは家に帰った。

そして帰り着くなり、私はリビングでパパに詰め寄った。


「い、いや、それは、その」

「さっさと言う!」

「はい・・・」


「これだから現実の女は嫌なんだ・・・」とか聞き捨てならない事を言いながらソファにちょこんと座ったパパにガンを飛ばし、私はパパの向かいにドサッと座った。

ジミィはそんな私たちから少し離れたところにあるダイニングテーブルにもたれて、

無表情に私たちを見ている。


いや、今までつけていた仮面を外して素になっている、と言った方が正しいか。


ちなみにママはのん気に鼻歌なんか歌いながらキッチンで夕ご飯の支度をしていて、

そのママの足元ではトミィが「お腹すいた!」と言わんばかりに舌を出している。


「・・・その前に、どうしてパパとママがトミィを連れて行ったと分かったか教えてくれ」

「日ノ出探偵がヒントをくれたの」

「日ノ出探偵?―――ああ、あの口髭の人か」


パパは少し考えてから思い出したかのように頷いた。

大方駅前に集まっていた連中の顔を思い浮かべていたのだろう。


日ノ出探偵は、言った。

『まずは事実をしっかり見つめなさい。それから人の言動をしっかり思い出すのです。

そうすればおのずと解決の糸口は見つかるはずです』と。


だから私はまず「事実」って何だろうと考えた。

するとあることが分かった。

それは、

イケメンの弟やら怪しい女やら偽の警官やら変な探偵やら色々あったけど、

はっきりとした事実は「トミィがいなくなった」ということと、

「犯人らしき人物からトミィの写真が送られてきた」ということだけ、だった。


ジミィも女も警官も探偵も、事件に関係しているという証拠は何もない。


そしてもう1つ気付いたことがある。

送られたきたトミィの写真。

あそこに映っているトミィはとてもリラックスしていた。

人見知りの激しいトミィがあんなにリラックスできるのは、

私かパパかママかジミィの前だけだ。


つまりトミィはジミィかパパかママと一緒にいる、という結論に達した。

それだけのことだ。


「なんだ。じゃあ女や警官や探偵は関係ない、ということか?」


パパは私の話を聞き終わると、何故かあからさまにガッカリした表情になった。


「そうよ。推理小説じゃないんだから、怪しい人間の中に犯人がいるとは限らないでしょ」

「そうだが・・・」


更にパパが肩を落とす。


「じゃあ、そこから先は?どうしてパパとママがトミィを連れて行ったって分かったんだ?」

「ジミィが嘘をついたからよ」

「嘘?」

「うん」


私がジミィを見ると、ジミィは眼鏡の奥の目をちょっと細めた。

「なんのことだよ」とでも言いたげだ。


「パパもよ」

「え?」

「パパ。ジミィの名前をつけたのはパパなのよね?自分でそう言ったわよね?」

「ああ」

「だけどジミィはその後私に、

『母さんがお父さんに、あなたの子だから1ヶ月預かって欲しいって言ったら、

自分に子供がいたことに驚いてはいたけど特に不審がる様子もなく、分かったって言ってた』

って言ったの。変よね。ジミィの話だとパパは自分に子供がいたのを知らないってことになってるのに、パパは自分がジミィと名付けたって言ってる」

「・・・」

「それにね、」


私はわざと唐突にパパに質問を投げかけた。


「ジミィは本当はパパの子じゃないんでしょ?」

「え?」


パパが口をポカンと開いて驚く。

演技じゃない。

パパはこんな演技はできない。


「え、ええ?えーと・・・そうなのか?そういうことになってるのか?」


パパは困ったようにジミィを見たけど、

ジミィは黙ったまま肩をすくめるだけだ。

どうやら弁解するつもりはないらしい。


私は「ふんっ」と息をついた。

カマをかけてみたんだけど、どうやらパパはジミィが自分の子じゃないと知らないらしい。

というか、ジミィが勝手にそういうことにしただけなのだろう。


「もうちょっと打ち合わせが必要だったみたいね。

突然腹違いの弟が現れたり、パパとジミィの言ってることが違ったり、実は弟じゃなかったなんてことが分かったり」


加えて言うと、ジミィはもう一つ嘘をついている。

うちに来た当初は「昔、犬を飼っていたことがある」って言ってたのに、

昨日日ノ出探偵には「犬を飼ったことがない」と言った。


「どう考えても変よ。パパとジミィはグルで私を騙してたんでしょ?」

「騙してた訳じゃ・・・」

「ジミィは、パパ達が出発した後にトミィがいなくなったなんて言ってたけど、

本当はパパとママがトミィを連れて行ってた。ジミィもそれを知っていた。

だけどそれを私に隠して、私と一緒にトミィを探す振りをしてたのよ。

予告状や写真を郵便受けに入れたのは誰?パパ?それともジミィ?」

「・・・ジミィだよ」


パパは諦めたようにため息をついた。


「パパがジミィに頼んでそうしてもらった。トミィの写真は旅館で撮って、

パソコンでジミィに送ったんだ。最初の予告状はパパが愛実の部屋のゴミ箱から出しておいて、

旅行に行く前にもう一度入れておいた」

「なんの為にそんなことを?そもそも、ジミィは何者なの?」

「それは、」

「自分のことは自分で話す」


パパの言葉を遮り、ジミィがダイニングテーブルから背中を浮かせた。

その顔には見たこともないニヤッとした意地悪い笑みが浮かんでいて・・・


私は思わず「ジギルとハイド」を思い出した。




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