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第14話 再び襲来

「偽物!?」


私の素っ頓狂な声に、

うちの近くにある交番のお巡りさんが頷いた。


林森蔵はやしもりぞう。そんな警官はおらんよ。隣町にもどこにもな」


私もよく知っているその初老のお巡りさんは、

穏やかに、だけどキッパリとそう言った。

お巡りさんの前では、手に手錠をかけられた偽警官・林森蔵がうなだれて座っている。



驚いたことに、昨日ジミィが隣町から連れて来た警官は偽物だった。

隣町の交番の人にも顔を確認してもらったけど、

「見たこともない男」だという。

そこでようやく偽警官は自分が「林森蔵」というふざけた名前であることを白状した。

大方偽名なんだろうけど、調べれば本名も分かるだろう。


「どうして警官の振りなんかしたんだ?」


林森蔵は答えない。

水を打ったような沈黙が、交番の中に流れる。


「どうしてだ?」


少し経ってから、お巡りさんがもう一度聞いた。

声に凄みが増し、いつもは温厚な瞳の奥に鋭い光が宿っている。


林森蔵は身の危険を感じたのか、

ボソボソと消え入りそうな声で答えた。


「警察に憧れていて・・・」

「それで?」

「警官の制服をインターネットで買って・・・」

「それで?」

「昨日、たまたま交番に誰もいなかったから忍び込んで・・・」


その時、偶然ジミィがやって来て、

ここぞとばかりに警官の振りをしてうちにやってきたって訳ね?


ほんと、呆れた奴。


「あ。あの木村って鑑識は?あれもあんたの仲間なの?」


林森蔵が黙って頷く。


そうか。

昨日、林森蔵が鑑識の木村に向かって乱暴な態度を取った時、私は違和感を感じた。

あれは「警官と鑑識の立場」に対するものだったんだ。

テレビドラマなんかを見ていれば分かるように、

刑事ならともかく一介の警官―――つまり所謂「お巡りさん」である巡査は普通、

鑑識に対してあんな態度を取ったりしない。

どちらかと言えば、巡査は「KEEP OUT」の黄色いテープの外側に立ち、

刑事や鑑識に「お疲れ様です!」と敬礼する立場だ。


それなのに林森蔵は鑑識の木村を怒鳴りつけていた。

私はそれに違和感を感じたんだ。


そうか、そうか。そうだったんだ。

なるほどね。さっぱりした。


「で?」


私が1人で勝手に納得していると、

窓際からドスの利いた声がした。


・・・ジミィだ。


林森蔵を殴った拳が痛いのか、

右手を少しかばうように腕を組み、壁にもたれている。


その目はお巡りさん以上に鋭い。

まだ怒りがおさまっていないようだ。


「で、今日はなんで愛実んちの周りをうろついてたんだ?」


口調までいつもと違う。

ジミィをよく知る私でも怖いと思ってしまうくらいだから、

林森蔵はもっと怖いんだろう。


林森蔵は、蛇に睨まれた蛙のごとく震え上がった。


「そ、それは、その、昨日・・・そいつを見て、その・・・」


林森蔵がチラッと私を見て口ごもる。


何?

私を見て、なんなの?


ジミィが鼻を鳴らした。


「ふーん。愛実に一目惚れしたんだな。

それでストーカーしてたって訳か。馬鹿な奴だぜ、全く」


ジ、ジミィ・・・

ほんと、怖いよ・・・


うっかり林森蔵に同情してしまいそうな勢いだ。


その時突然、私の身体がふわっと左に傾いた。

右肩に重みを感じ、見てみると赤く腫れた右手が見えた。


え?


今度は、顔が自然と左上を向く。

するとそこから不機嫌な声が降ってきた。


「どうでもいいけど、愛実は俺のだから。邪魔すんな」


そして私の身体はまるで宙の上を滑るかのように、交番の外へと持って行かれた。





帰り道、ジミィはずっと黙ったままだった。

ジミィのことだから交番を出た瞬間にいつものジミィに戻ると思ってたのにそんな気配は一切なく、

強張った表情のまま無言で歩き続けた。


私もそんなジミィに肩を抱かれたまま黙って歩くしかできない。


ジミィの手が私の肩を離れたのは、ようやく家が見え始めた頃だった。


「・・・ごめん」

「うん・・・」


私は曖昧に頷いた。


何に対して「ごめん」と言っているのか分からない。

だけど、そんなことはどうでもいい。


ジミィはさっき本気で怒っていた。

私の為に。

それがとても嬉しい。

今までもジミィに優しくされて嬉しくなることはあったけど、

こうやって本気で私の心配をして、本気で怒ってくれたことがとても嬉しい。


だから「ごめん」の理由なんてどうでもいい。


だけどジミィの言葉はそれだけでは終わらなかった。

ジミィは足を止め、私の顔を正面からじっと見た。


「あのさ、実は・・・」

「え?」

「実は・・・あ、」

「?」


ジミィの視線が急に私から逸れ、うちの方を向いた。

私もそれを追いかける。


・・・まただ。

また、うちの前に誰かいる。


だけど今度は「誰か」なんて迷う必要はなかった。


「日ノ出探偵!」

「あ、お、おかえりなさい」


昨日と同じ、昔の海外推理小説に出てくるようないでたちの日ノ出探偵が、

何故か私たちを見て驚いた表情になる。

大方、調査の進捗状況の報告に来たのにうちに誰もいないから困ってたんだろうけど、

それなら私の携帯に電話くれればいいのに。


それにしても、なんでそんなに驚くわけ?


「こんにちは、お二人方」


せっかくちょっと機嫌の回復したジミィの顔がまた曇る。

仕方ない。

ここは私が、ジミィの分も含めて挨拶を返そう。


「こんにちは、日ノ出探偵。どうしたんですか?」

「いえ・・・聞き込みでこの辺りにいたもので、ちょっとお宅に寄ろうかと・・・」

「そうですか」


日ノ出探偵の目が泳ぐ。

それに心なしか顔が赤い。


どうしたんだろう。

ま、いいや。


「私もちょうど日ノ出探偵にお話があったんです。どうぞ、上がってください。

いいよね、ジミィ?」

「・・・愛実がいいならいいけど」


ジミィはそう言うと、

いつもより少し乱暴にうちの扉を開いた。


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