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第10話 怪しい探偵登場!

「お宝は確かに頂戴した、か」


ジミィはキッチンの中で麦茶を飲みながら、

写真の裏に書かれた毛筆を見て顔をしかめた。


「随分と手の込んだいたずらだね。

でも、トミィが元気そうでよかった」

「うん・・・」


思わずぶっきらぼうな返事をすると、

ジミィは敏感にそれを感じ取ったらしく、

コップをシンクに置いて私のいるリビングの方へやってきた。


そしてぼんやりとソファに座っている私の隣に腰を下ろす。


その勢いでフワッと小さく風が起き、

ジミィの髪から爽やかなシャンプーの匂いがした。


2時間近くもトミィを探していた割には、汗かいてないじゃない、

なんて意地悪な考えが頭をよぎる。


「愛実」

「・・・何?」

「僕のこと、疑ってるでしょ?」

「え?」


余りにストレートな言葉に、私はあからさまに動揺した。


「う、疑ってるって何を?」

「いきなり腹違いの弟・・・しかも実は赤の他人の僕が現れて、

変な予告状が来たりトミィがさらわれたり。おかしいよね」

「そんなこと・・・」

「いや、疑って当然だと思うよ」


ジミィは別に気を悪くした様子もなく、

淡々と言葉を続けた。


「警戒心の強いトミィを家から連れ出すことができるのは、よほどトミィが心を許してる人間だけだ。

薬とかを使って強引にさらうってことも考えられるけど、

この写真のリラックスしているトミィを見る限り、トミィは犯人に懐いてると思う」


私が考えていたことと同じだ。


私は小さく頷いた。


「トミィが懐いてるのは、愛実を除くとお父さんとお母さん、そして僕だけ。だよね?」

「うん」

「お父さんとお母さんにはトミィをさらう理由はない。

そうなると、残されたのは僕だけだ」

「・・・」

「でも、残念ながら僕は犯人じゃない。

証拠はないけど、僕は僕が犯人じゃないって知ってる。だから、犯人は他にいるんだ」

「・・・」


信じて・・・いいんだろうか。


私は顔を上げ、眼鏡の奥のジミィの目をじっと見た。

ジミィもそれから逃げず、私の目を見返す。


少し色素の薄い、透き通るような綺麗な瞳。

ずっと見ていると、そのまま吸い込まれていきそうだ。

しかも力がある。

自分の信念を貫き通すような力が。


ジミィの本心を探りたかったのに、

結局その純粋な瞳に負けて、私の方がジミィから目を逸らしてしまった。


それこそ証拠にはならないけど、こんな目をしている人が嘘を付くとは思えない。



気まずい沈黙が流れる。



ゆるく締められた蛇口からシンクの中にポタポタと落ちる水音が、

やたらと大きく部屋中に響く。

そしてその規則正しい音を聞いているうちに、

私の心も規則正しい動きを取り戻して行った。


私は立ち上がってキッチンへ向かうと、

蛇口をキュッと閉めた。


「信じるわ」

「愛実・・・」

「ジミィは犯人じゃない。犯人かもしれないけど、私はジミィが犯人じゃないって信じて、

別の犯人を捜すわ」


真剣だったジミィの目がふっと優しく細くなり、

私たちの間にさっきとは違う沈黙が流れた。


更に魅力的になったジミィの目に本当に吸い込まれそうになった、

その時・・・



ピンポーンッ!



インターホンが勢い良く鳴り響き、

私はガクッと肩を落とした。





「はぁ?」


さすがにいつもは冷静なジミィも素っ頓狂な声を上げる。

私に至っては、開いた口が塞がらず、もはや声すら出ない。


「探偵、ですか?」


ジミィがまるで宇宙人でも見るような目でそう言うと、

玄関口に立っている男は、満面の笑みで頷いた。


「はい。探偵の日ノ出太陽と申します」

「ひので・・・」

「太陽です」


う、胡散臭っ!

探偵ってだけでも胡散臭いのに、なんてフザケタ名前なの!?

しかも、何、その格好!?


チェックのベレー帽にお揃いのスーツ、

手には所謂「杖」ではなくステッキ。

豚の尻尾のように先がクルンとなった口髭の下には、本物らしいパイプまで咥えられていて、

100年前の推理小説に出てくる探偵そのものだ。


胡散臭過ぎるって!!!


私とジミィは突っ込むことすら忘れて、

しばし呆然とその50がらみの自称・探偵を眺めた。


「・・・あ。そ、それで何の御用ですか?」


我に返ったジミィが日ノ出探偵(仮)に訊ねると、

彼は「うんうん」としたり顔で二回頷いた。


「実はこの近所であなた方が犬をお探しだと聞いたので、是非ご協力しようかと」


聞いたって・・・

確かに、私は近所の人達に「うちのトミィ、見ませんでしたか!?」って聞いて回ったけど・・・


それを聞きつけて、わざわざうちまで来たの!?

なんて暇な探偵!

てゆーか、やっぱり怪しい!

絶対、変な勧誘か何かだし!


私が睨むように日ノ出探偵を見ると、

ジミィが私を自分の後ろに押しやり、毅然とした態度でこう言った。


「お気持ちは嬉しいんですが、僕達は自分で探します。

お支払いできるお金もありませんし」


そうだ、そうだ!


私は心の中でジミィに声援を送ったけど、

日ノ出探偵はそれをことごとく笑顔でかわした。


「お金はいりません。これはボランティア、というか、宣伝ですから」

「宣伝?」

「うちの探偵事務所の名前を売るために、

行方不明の犬の発見に是非とも一役買わせて頂きたいのです!」


ねえねえ!日ノ出探偵って探偵が、藍原さんとこの犬を見つけたらしいわよ!

あらー、日ノ出探偵って随分腕のいい探偵なのね、

うちもいなくなった息子を探してもらおうかしら。


なんて効果を狙ってるんだろうか。

(いなくなった息子ってなんだ)


そりゃうちにとってはトミィがいなくなったことは大事件だけど、

たかだか犬1匹を見つけたくらいで探偵の評判が良くなるとは思えないけど・・・


だけど日ノ出探偵は至って真剣らしく、

土下座でもしかねない勢いで頭を下げた。


「お願いします!探させてください!ご迷惑はお掛けしませんから!」

「あ、あの、」

「ここで男を立てないと、私の人生お先真っ暗なんです」

「ちょ、ちょっと、」

「お願いします!!!」


ついに日ノ出探偵は、オイオイと声を上げて泣き出してしまった。



なんなんだ、一体・・・



頭痛がしてきた私は、

ジミィと日ノ出探偵を玄関に残してフラフラとリビングのソファへと戻った。








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