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風紀委員は何でも屋じゃありません。  作者: ハンサムアジフライ
9/14

風紀委員はボランティア団体じゃありません。

唐突に時期外れの夏休みに入り申し訳ありません。

夏休み――それは理想的な時間だ。涼しい部屋で録画アニメを見返し、冷たいアイスを口にし、昼寝をして、夜には布団の中でゆっくりと夢を追う。だがその理想は、予定がなければの話である。


夏休み前最後の風紀委員集会が終わり、俺は今日も疲れた足を引きずりつつ校舎を出ようとしていた。すると、結衣が背後から軽やかに声をかけてきた。


「相馬くん、夏休み中のボランティアの件なんだけど…」


俺は思わず足を止めた。は?今なんて言った?


「ボランティア?」


聞いていないのだが。


「えぇ、近所の小学校で学習支援ボランティアに行くことにしたわ」


俺は眉をひそめる。数学12点の俺が学習支援?聞いてないぞ。


「あかりさんも来るわよ」


俺は軽く膝を叩いて頭を抱えた。

「まじか……夏休みを台無しにするつもりか」

結衣は微笑みながら肩をすくめる。無理に納得させるような笑顔ではなく、もう決まったことだという顔だ。


「ほら、行けば楽しいわよ。相馬くんの数学の腕も少しは役に立つかもね」

結衣の言葉に、俺は内心で小さく舌打ちをした。


「それ皮肉だろ…」

「さぁ、どうかしら」

結衣は含みのある笑みを浮かべる。


俺は深く息をつき、夏休みの涼しい妄想を心の奥で懐かしむ。




夏休み四日目、学習支援ボランティア初日、小学校に到着した俺たちは、校長室で軽く挨拶を済ませた。

「よろしくお願いします、相馬くん、結衣さん、あかりさん」

校長の声に俺は軽く会釈する。結衣は小声で「夏休みだから少し子どもたちも元気かしら」と囁く。

教室に入る前、窓から吹き込む風が少し湿った夏の香りを運ぶ。蝉の声が校庭で鳴き、空は夏休みらしい青さを誇示していた。


任された教室で一緒に担当する教師に挨拶をしながら数分待っていると、十数人の小学生たちが教室に集まる。

俺たちの仕事は、2、3人ずつ担当し、簡単なプリントや宿題の手伝いをする程度だった。

子どもたちの机の並び、机の高さ、紙のにおい、鉛筆のカリカリという音。こういう細かいところに、俺はノスタルジーを感じてしまう。


ふと目を向けると、ある子が少し浮いているように見えた。一見すると何の問題もなくほかの児童と変わらないのだが、手元の文房具を齧り、解き終わったプリントを無造作に手提げ鞄にしまう。

担当のあかりとは初対面とは思えない程の距離感で接し、逆に周囲とは少し距離を保っている。


結衣が小声で呟く。


「相馬くん、あの子……ちょっと浮いてるかしら?」

俺は軽く頷く。「だな……」

浮いている理由は明白だ。文房具を齧る癖、初対面の俺たちへの距離の詰め方。本人の性格によるものだろう。


「あ、それ齧っちゃダメなやつ!ウケる」

あかりが言い放つ。言われた本人も思わずクスクスと笑いを漏らす。


それ言っていい奴なの…?

「……あんまり面白がるなよ」

俺は小声でつぶやくが、あかりは耳にも入れず勉強を教える。


「ねー、それ解けそう?解けなかったら私がちょっとだけヒント出すよ!ちょっとだけね」


俺は苦笑いしつつも、チラッと孤立児童を見て理解する。浮いているのは、単に行動の違いによるものだろう。誰も悪くない。

人は自分と少しでも違う人間に恐怖する生き物だ。


午前中の活動は順調に進み、あかりは合間合間に子どもたちに声をかけて笑わせる。


「それはここがこうなるから…」

「先生答え言っちゃってるじゃん!」


俺は眉をひそめながらも、こういう賑やかさは場を和ませるな、と少しだけ思った。


活動は午前で終了。帰り際、三人で少しだけ会話する。


「相馬くん、あの子、大丈夫かしら」

結衣が心配そうに聞く。

「問題はない。これはいじめじゃない、避けているだけだ」

俺は短く答える。


「でも…避けられているならそれは問題じゃないのかしら…」


「避けられてるんじゃなく避けてるんだ」


いじめにおいて、悪いのは孤立していることではなく、孤立させられていること。

だが今回のケースは本人の行動が原因になって結果的に孤立しているだけだ。


大人の立場としてなら『可哀想』だとか『皆で輪に入れてあげなよ』だとかなんとでも言える。

社会に出れば、苦手でも理解できなくてもなんとなく関わっていくという力は必要になる、それは、高校生にもなれば自然と身につくだろう、だが小学生にそれを求めるのは酷というものだ。


結衣はわかったようなわからない様な表情で頷く。あかりは大きく両手を振りながら

「でも…あの子は大丈夫だと思うな!」と笑う。

「だって私ともちゃんと話せてたし!ちょっと変わってるのはわかるけどね」

俺は聞き流しつつ、帰路についた。



三日後、再び小学校に向かう。校庭の蝉の声はさらに強く、日差しは本格的な夏のものになっていた。今回も校長室で挨拶を済ませ、教室に入る。

前回よろしく教室で待っていると、一日目はお休みしていた眼鏡をかけた子が一人加わっている。

孤立児童は変わらず文房具を齧りながら真剣にプリントとにらめっこしている。


勉強会が終わりに近づくと、結衣が小声で言ってくる。


「相馬くん、帰り際に、みんなと軽くお話して帰ろうかしら」

俺は眉をひそめる。「やめとけ」

いじめじゃないのであれば無理に介入するのは得策ではない。話し合いの場を作ることで、孤立が可視化されるだけだ。

第一、本人が解決を望んでるとも限らない。


結衣はまた微妙に頷くが、やはり次回の勉強会では話したいと言い出す。

俺は小さく息をつく、こうなったら俺の負けだ。


勉強会終了後、子どもたちが帰る時間になる。

一緒にこの教室を担当していた教師に軽く挨拶をしていると、あかりが俺たちの肩を叩き小声で「ほら、見て見て!ちゃんと話しかけたよ!」と笑う。

今日から参加だった児童が孤立児童に自然に話しかけていた。

勇気を出した感じではない。

普段通りの友達として、当たり前のように接している。


友達の多い人間は、当然その友達のいる場所がコミュニティになる。

俺たちみたいに友達の少ない陰キャにも、もちろんコミュニティはある。

孤立=寂しいではない。この子達にも、この子達なりの世界があるのだ。


結衣もその様子を見て、少し安心したようだった。あかりは満面の笑みで「ね、私の言う通りでしょ!」と無邪気に自画自賛する。俺は苦笑いしながらも、子どもたちが笑いながら帰っていくのを見届ける。午前中で活動は終了し、夏休みの空気はまだ少しだけ涼しさを残していた。


結衣とあかりと共に校門を出る。孤立児童の行動は変わらない。しかしそれでいいのだ。誰も悪くない。誰も良くなることを望んでない。

小学生にも、それぞれの世界がある。俺はそれを見守るだけでよかった。


あ、今日プリキュアリアタイし忘れた…

思わず声に出た。

「相馬くん…意外と幼女趣味なのね…」

「まじ!?プリキュア見てんの!?ウケる」

二人は何故か意外なものを見るような目を向ける。

「今どきプリキュアなんて幼稚園児でも見てるぞ?お前らこそ遅れてんじゃね?」


俺は今まで流されてばかりの結衣とあかりに初めて勝った気がした。

読んでいただきありがとうございました。

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