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風紀委員は何でも屋じゃありません。  作者: ハンサムアジフライ
8/10

ぺろっ…風向きは…

昼休み。

俺は校庭の片隅にある木のベンチに座り、弁当箱を膝にぽつんと一人で食べていた。

微かに夏を帯び始めた風が頬を撫で、アルミの包みや弁当箱の蓋をかすかに揺らす。


この地域は午後になると、海陸風の影響で風向きが変わるんだよな…

俺が誰ともなく内心で呟くと案外心地よい風が答えるように頬を撫で返す。


普段なら少し煩わしい風も、この時間帯は少しだけ気分が和らぐ。

弁当の香りと風の匂いが、午後の校庭を静かに包み込む。


そんなとき、足音が近づいた。


「あれ?恒一くん?一人でご飯食べてるの?ウケる!」


顔を上げると、あかりが楽しそうに立っていた。

「いや…ウケないだろ。なんにも…」

突っ込みを入れつつ、俺は弁当をかき込む。


「あ、そういえば…彼氏と別れたんだろ?」

思わず口にした問いに、あかりは少し引き気味に返す。


「え?なんで知ってるの?」


え?なんで引いてるの?

「結衣から聞いたんだよ…大丈夫なのか?」

あかりは少し間を置き、肩の力を抜いて答えた。


「あ…うん…まぁ…大丈夫。どっちにしろ長続きしなかっただろうしね」


俺は納得したように頷き、二人は少しだけ沈黙の中で風を感じる。

校庭の端に吹く風は、ちょっとだけ心地よく、ちょっとだけ切ない。

俺は弁当の蓋を閉じ、今日も何事もなく午後を迎える準備をするのだった。


---


放課後。

風紀委員室に戻ると、一枚の紙を持った結衣が俺を待っていた。


「それ、依頼か?」

俺は紙を指で軽く押さえつつ聞いた。


「えぇ、相馬くんを待っていたの」

結衣はにっこり笑って紙を差し出す。


「教室の掲示物が何度も剥がれるので、貼り直してほしいです」

俺は眉をひそめ、文字を指でなぞるように押さえた。


「なるほど…簡単な依頼でも、解決感はあるってわけか」

結衣は軽く頷く。


「小さなことでも、きちんと意味はあるのよ。放っておくと、誰かが困るかもしれないし」


二人は指定された2-3教室へ向かう。

廊下を歩く足音が静かに響き、壁の掲示物やロッカーの隙間を通り抜ける風が耳に届く。

窓から差し込む午後の日差しが床に柔らかい影を落とし、机の端や掲示物の紙にも斜めに光を反射させていた。


教室のドアを開け、掲示物を手に前に立つ。

微かに漂う涼しい空気が、この依頼の小さな謎をほのかに予感させる。

俺は掲示物を壁に押し付けながら、軽く肩をすくめた。


「これで大丈夫か…」

独り言のように呟くと、結衣は横で紙を見ながら軽く笑う。


「きっと大丈夫よ。相馬くんがしっかり貼れば、昨日よりずっと強くなるはず」


俺は軽く頷き、二人で掲示物を貼り終えると、教室を後にした。

廊下を歩きながら、結衣が少し照れくさそうに言う。


「こういう、ちょっとした依頼って…面倒に見えるかもしれないけど、終わるとやっぱり気持ちいいわね」


「風紀委員って実感はないけどな」

俺の言葉に皮肉が混ざった自覚があった。

確かに、ちょっとした依頼でも、ちゃんと終わらせると気分は悪くない。

そういう意味で、風紀委員の仕事は面白いところもある。


---


翌日。

登校途中、なんとなく2-3の教室を覗いてみる――あれ?

昨日貼り直したはずの掲示物が、また剥がれている。


数秒後、結衣も廊下を歩いてやってきて、その様子に気づいた。


「…おかしいな。昨日はちゃんと貼ったのに」


俺は肩をすくめ、軽くため息をつく。


「とりあえず、今日の放課後も集合だな」

結衣も頷き、二人はその場を離れた。


---


放課後。

二人は再び教室に入り、昨日より少し念入りに掲示物を貼り直す。

机の上に置いたテープや押さえ用の小物を確認しながら、俺は一つひとつ位置を微調整した。


「これで大丈夫か…」

俺は窓枠に寄りかかりながら声は小さく、独り言のように呟く。

窓から微かな風が吹き込み、掲示物の端がひらりと揺れた瞬間、俺はピンときた。


「…ああ、そうか」


「この地域では海陸風の影響で午後になると風向きが変わる、そして、この2-3の担当教師である竹中は、放課後になると換気のためを窓を開ける癖がある」


「多分、これで大丈夫だ」

俺は窓を軽く閉め、掲示物をもう一度確認する。

結衣もようやく納得したように頷いた。


---


翌日。

登校して2-3を覗くと、掲示物は昨日と変わらずしっかりと貼られている。

俺は小さく胸を撫で下ろし、微かに達成感を覚えた。


「よし、これで完璧か…」

結衣も笑顔で肩をすくめる。


「相馬くん、小さなことでもやり遂げると気持ちいいでしょ?」


結衣の問いになんて返したかは覚えていない、答えたのか頷いたのか、肯定したのか否定したのか。

午後の校舎に差し込む日差しが、机の上の掲示物を柔らかく照らす。

風が通り抜ける度に、紙がかすかに揺れる音が響く。


俺は今日も何事もなく授業へ向かう。

でも、こういう小さな依頼の積み重ねこそが、風紀委員としての“仕事の価値”なのだと、静かに実感する午後だった。

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