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風紀委員は何でも屋じゃありません。  作者: ハンサムアジフライ
7/15

風紀委員は、役に立たない日もあります。

 月曜の放課後。

風紀委員室の鍵を回した瞬間、今日が「静かな日」になることを直感した。

教室に入ると、校内のざわめきが少し遠くなる。


机の上には先週の掲示物の残りが置かれたままになっていた。

誰もまだ来ていないのか、椅子は全て定位置に収まっている。

開いた窓のそよ風が、机の上の紙を軽く揺らしていた。


 「……今日は早いのね」


背後で結衣の声がした。

彼女はゆっくりと部屋に入り、肩から鞄を下ろすと依頼箱の前に立った。

その動作にはいつもと同じ、わずかに緊張した空気が漂っている。

彼女は静かに箱の蓋を持ち上げ、中を覗いた。


数秒の沈黙。

期待も不安もなく、ただ空っぽであることを確認した結衣が、肩をすこし落とす。


「……空っぽね」


思わず口に出してしまったのは、予想通りだったからだ。

月曜の午後はいつもこんな感じだと、頭では理解している。

けれど、毎週この瞬間、心のどこかで「何か来てほしい」と思う自分もいる。


「だろうな」


淡々と返す。

口に出してしまえば余計な言葉はいらない。

安心感も、物足りなさも、淡々とした現実の前では一緒くただ。


結衣は小さくため息をつき、箱をそっと閉じる。

「でも、悪いことじゃないわよね」と、微笑む顔がいつもより少し柔らかく見える。

善意に支えられた微笑みは、ここでは救いにもなるし、過剰な気遣いにも見える。


「まあ、平和って、そういうもんだろ」


自分でも気づかないうちに呟いた言葉に、微妙な皮肉が混じっている。

結衣は反応せず、ただ作業のために机に向かう。


 それから二人は、プリント類の整理や机の上を軽く掃除したり、授業で出た課題を終わらせたりなどして時間を消費していく。

手を動かすたびに紙が擦れる音、窓から入る風の音、廊下を通り過ぎる靴音。

小さな音が積み重なって、部屋の空気を満たしていく。


 途中、一人の生徒が軽くドアをノックして入ってきた。

小柄で黒い髪をボブに切り揃えている。

顔は緊張しているように見えるが、言葉は出ない。

彼女は、確か黒澤美琴、1年の時同じクラスだった。

「あの……」


何か言おうとして、言葉を飲み込む。

ボブの髪が少し揺れている。

数秒の間をおいて、「やっぱ、いいです」とだけ言って、そっと退出した。


結衣は少し眉をひそめ、窓の方へ視線を送る。

声をかけるべきだったのか迷ったらしい。

でも何もせず、静かに椅子に戻った。


「今は、来なかったってだけだ」


俺は軽く返す。

問題が起きなかっただけで、誰かを助け損ねたわけじゃない。

そんなことを確認するために、こうして雑務をこなすんだろう。


結衣は小さく頷き、作業に戻る。

その背中を見て、少しだけほっとした。




 作業が一段落した頃、結衣が思い出したように口を開く。


「そういえば……あかりさん」


「元気?」


「ええ。元気そうでした」


一瞬、沈黙が部屋を満たす。

窓の外の冷たい光が、二人の間に微妙な間を作る。


「……彼氏さんとは、別れたみたいだけど」


「ふーん」


「でも、あんまり気にしてなさそうで。『まあ、そういう時もあるよね』って、笑ってたわ」


結衣は少しだけ、不思議そうに首を傾げる。

「強いわよね…」と。

俺はその光景を思い浮かべながら、心の中でひとつだけ呟く。



——強い、って言うより、折り合いをつけるのが早いだけだ。


そのことが良いことか悪いことかは分からない。

少なくとも依頼箱に入る話ではない。


「依頼、しなくていい問題もあるんだろ」


俺はそう言うと、結衣はわずかに安心したように頷いた。

静かに作業を再開する。



 夕日が部屋の奥まで差し込み、依頼箱の影を長く伸ばす。

紙の端が風で揺れ、少しだけ光が反射する。

この静けさの中で、時間だけが淡々と進む。


問題がない日と、

問題が見えない日と、

見ないことにしている日。

それぞれの線引きは人によって異なるけれど、今日はどれも混ざっている。


「まあ、今日はそういう日でいいんじゃないか」


最後に呟いて、窓の外を見つめる。

部活の声はいつも通り、校庭から聞こえる。

依頼箱は空のまま。

でも、世界は静かに回っている。


 ——今日は、何も起きない。

 少なくとも、この部屋では

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