風紀委員長…だ〜れだ!
今日は水曜日なのに、風紀委員の仕事がある。
正直、面倒くさい。
普段は曜日ごとに動いているが、月に一度は委員全体で集まって話し合うらしい。
正直、半年に一回くらいでもいいんじゃないか、とも思う。
大体、風紀委員での活動なんて、名目ほどのことはしていない。
唯一「やっている感」があるのは、依頼箱くらいで、
それもウチの結衣さん主導のものだ。
とはいえ、塵も積もれば山となるという。
実際積もる話が本当にあるのなら、集まる意味もあるあるとは思うが。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、結衣と出会った。
「お疲れ様」と声をかけると、結衣は小さく微笑んで、
「お互いにね」と返してくる。
「今日はどんな話すると思う?」
「そうね……タイミング的には役員決め、かしら」
そう言ってから、結衣は一拍置いた。
わざとらしくもないが、何かを測っているような間だった。
「私、委員長をやろうと思うわ」
その一言で、ぼんやりしていた嫌な予感が、はっきりと形を持った。
他人が委員長をやる分には、正直どうでもいい。
だが、相手は坂下結衣だ。
俺の相方で、相棒で、だからこそ無関係ではいられない人間でもある。
(……面倒くさそうだな)
率直な感想はそれだけだったが、もちろん口には出さない。
「なぁ結衣。やりたい気持ちは分かるけどさ」
少しだけ言葉を選んでから、続ける。
「役員やると、どうしてもそっちに時間取られるだろ。
依頼箱、今みたいにちゃんと見られなくなったら困るんじゃないか?」
結衣は足を止めて、少しだけ考え込む。
やがて、小さく息を吐いた。
「……一理あるわね」
そう言って頷きはしたが、視線は俺を見ていなかった。
納得はしている。
けれど、完全に気持ちが追いついているわけでもない。
「ま、仕方ないわね」
そう付け足して歩き出す背中は、
どこかほんの少しだけ、拗ねているように見えた。
俺はそれを追いながら、
風紀委員室に向かう。
役員決めは、驚くほどあっさり終わった。
推薦が出て、確認があって、特に異論もなく拍手が起きる。
全員が納得しているというより、波風を立てない選択をした、という感じだった。
委員長は三上聡太。
副委員長に阿津間梓。
どちらも水曜担当で、今日ここにいるメンバーだ。
「それじゃあ、新体制になったということで……」
前委員長がそう言って、資料を片付け始める。
会議はもう、終わったも同然だった。
「簡単にでいいから、挨拶しとこうか」
そう促されて、三上が立ち上がった。
「三上聡太です。至らない点も多いと思いますが、
風紀委員として、規則と秩序を守れるように頑張ります」
内容も声の調子も、全部が真面目だった。
悪く言えば面白みはないが、
こういう役職には一番向いているタイプだと思う。
周りから、控えめな拍手が起きる。
次に副委員長として名前を名乗り、阿津間梓はゆっくり立ち上がった。
「阿津間梓です」
声は柔らかくて、少し間延びしている。
「副委員長って言っても、特別なことをするつもりはありません」
そう言って、にこっと笑う。
誰かが安心したように息を吐いたのが、分かった。
ああいう笑い方は、空気を和らげる。
「今まで通り、みんながやりやすい形で動けたらいいなって思ってます」
それだけ。
内容は曖昧で、責任も軽い。
でも、不思議と誰も不満を持たなかった。
席に戻った阿津間は、
周囲の委員と何気ない会話を始める。
相槌のタイミングも、声の大きさも、距離感も。
全部、ちょうどいい。
……ちょうどよすぎる。
俺は、阿津間の顔を見る。
笑っている。
さっきから、ずっと。
口元は上がっているのに、
その形が一度も変わっていないことに気づいてしまった。
……貼り付けたみたいだな
誰かの言葉に合わせて、少し困ったように眉を下げることもない。
本当に嬉しそうに、目を細めることもない。
笑顔のまま、動かない。
「阿津間さんって、優しそうだよね」
どこからか、そんな声が聞こえた。
「うん、話しやすい」
「副委員長、向いてそう」
それに対して、阿津間はまた、同じ笑顔を向ける。
向けてる、って言い方がしっくりくる
自然に見えるのに、
自然に感じられない。
理由は説明できない。
証拠もない。
ただ、この人は、何も見せていない。
そう思った。
「じゃあ、今日はこれで解散ということで」
委員長、三上の言葉で、空気が緩む。
椅子を引く音が重なって、
各々が帰り支度を始めた。
風紀委員室を出るとき、
三上がこちらに気づいて、律儀に頭を下げる。
「今日はお疲れさまでした」
「ああ、お疲れ」
結衣も小さく会釈する。
その横で、阿津間がにこっと笑った。
「お疲れさま。また来月だね」
軽い声だった。
距離も言い方も、丁度いい。
「……そうね」
結衣は短く返して、
それ以上何も言わずに俺の隣に立った。
それ以上、言葉はなかった。
三上と阿津間は並んで反対方向へ歩いていく。
二人の背中が見えなくなってから、
結衣は何も言わずに歩き出した。
俺は、さっきの返事を思い返す。
言葉は普通だった。
でも、ほんの一瞬だけ、間があった。
……さては、苦手だな
口には出さない。
結衣が何も言わないなら、
俺も、何も言わない。
読んでいただきありがとうございました。
やっぱ文章を書くのは難しいですね。
もっと詰めたいとは思うんですけどいかんせん実力がなくてね…
感想お待ちしております…




