風紀委員は交番みたいっすね…へへ
2話というか1話というか、前回のが0.5話くらいのイメージです。
「……はぁ。あなた、本当に何も聞いてなかったのね」
坂下結衣にそう言われた時点で、俺の負けは確定していた。
だいたいこういう時、俺は聞いていない。聞いている“つもり”なだけだ。
どうやら彼女は去年から風紀委員だったらしく、その経験の差を利用して先週聞き逃した業務内容を聞き出そうとしたのだが…俺の浅知恵など、最初からお見通しだったらしい。
人は自分よりちょっと優秀な相手に対して、妙に素直になれない。俺の場合、それが顕著だ。
「いや、ちゃんと聞いてましたよ。一応。ただ、経験者がいるなら確認した方がいいかなって」
我ながら、社会に出たら一瞬で見抜かれるタイプの言い訳だ。
坂下結衣は溜息をつきつつも、結局説明してくれるあたり、性格がいい。性格がいい人間は、往々にして損をする、早速俺が無駄に説明させているのだ。
風紀委員の仕事は、校則違反の注意や秩序の維持。
まあ、要するに「正しい側」に立つ仕事だ。俺が一番苦手なポジションでもある。
それと、もう一つ。
「相談箱、っていうのを設置するの」
聞いた瞬間、嫌な予感しかしなかった。
生徒の悩みや相談、それとsnsのアカウントIDを書いた紙を入れると、風紀委員が対応するらしい。
……それ、本当に風紀委員の仕事か?
言いかけて、思い出す。
去年、「火曜日だけ願いが叶う箱がある」なんて噂を聞いたことがあるが、まさか公式業務だったとは思わなかった。七不思議で済ませておいてほしかった。
それに去年は火曜日だけだったということはきっとその『依頼箱』は坂下結衣の独断なのだろう。
本当に面倒くさい曜日に配属されたものだ。
しかも『依頼箱』は今日から設置して、もう依頼が入っているらしい。
展開が早すぎる。ラノベでももう少し間を取る。
坂下結衣が依頼箱から一枚のメモ用紙を取り出し読み上げる。
内容は「落としたキーホルダーを探してほしい」。
「それ、警察の仕事じゃないか?」
「でも困ってるわ」
正論を出すと感情で殴られる典型例だった。
ただ、このくらいの悩みなら暇つぶしがてらにちょうどいいだろう。
人の悩みなんて、大抵は時間が勝手に解決する。
それを「救った」気になるほど、俺は傲慢じゃない。
だからこれはあくまでも暇つぶしだ。
坂下結衣は当然のようにメモ用紙に書かれていたsnsのアカウントに連絡を取り、詳細を聞き出す。
『――朝気づいたら外れてて悲しいです!多分学校にある気がするから探してくだちい^_^』
……舐めてるな。
「舐めてますよね」
「気にしすぎよ。あなた、身長の割に器が小さいのね」
…舐めてるな。
どうやら俺は二重の意味で舐められているらしい。
「どこから探す?もしかして教室から図書館まで全部見て回るつもり?学校広すぎるだろ…」
「でも、順番を飛ばすと見落とすかもしれないでしょ?なら一通りやるべきよ」
そう言って坂下結衣は校内を歩き回り、たまにすれ違う生徒に声をかけ、可能性を一つずつ潰していく。
俺はその後ろをついて歩く。
二人の上履きが廊下に響く音がする。
順序正しく調べるのが美しいのはわかる。
でも、世の中って結局最後に残った要素が一番厄介なんだ。その理屈は、いつも裏切られる。
「まず教室を一通り見たほうがいいわね」
結衣は肩越しに俺をチラッと見る。
「だな…」
俺達は教室の扉をガララと開け中に入る。
「誰か教室に残ってるかな…」
「いや、放課後の教室なんて無人に決まってるでしょ」
結衣は呆れたように小さく笑う。
……笑い方まで、正しいような感じがした。
一通り中を見渡し無いことを確認する。
教室を出ると、廊下は午後の空気で少し冷たい。俺は手をポケットに突っ込み、だるそうに後をついていく。
廊下を曲がり、二階の角を越える。掲示板の前で結衣が立ち止まった。
「見て、ここに掲示物がある」
「それが?」
「うーん、落とし物の情報はないか確認しただけ」
あっさりしてるけど、こういう確認を積み重ねるタイプだ。俺には真似できない。
「なるほど、、、」
小さく独り言を漏らすと、結衣はまたチラッと見る。
「ちゃんと聞いてる?」
「あぁ、聞いてる聞いてる。耳はいいタイプでな」
「さっき風紀委員の仕事を説明させられた者としては信用できない情報ね」
あ、その節はごめんね。
図書室前を通ると、中から微かに本の匂いが漂う。
「ここにもないわね」
「そうっすね…」
俺は小さく息を吐き、棚の影を覗くふりをする。
…きっと俺は何も見つけられない。確認してるだけ。これでいい。
階段を上り、理科室前を通り過ぎる。二人きりの時間は妙に静かで、歩く音だけが響く。
「この辺りも一応見ておきましょう」
「はいはい、見ますよ」
……俺は真面目な子を横に、ただ流されるだけ。なんて楽な仕事だ。
最後に中庭に出る。夕方の光が草の隙間に差し込む。
「ここも確認、」
「ないっすね…」
やはり、キーホルダーは見つからない。
でも結衣は小さく満足そうに頷く。
「可能性は潰したから…それで十分」
俺はまたポケットに手を戻し、空を見上げる。
……結局、俺は何もしていない。
でも、これでいい。
誰かの「困ってる」に応えることは簡単だ。
でもそれは、多少なりとも相手の人生に首を突っ込むってことでもある。
責任を持てない関係ほど、無責任なものはない。
一時間ほど探し回った頃、完全下校の放送が流れた。
都合よく、終わりを告げる声だった。
「……なかったっすね…元から学校になんて落ちてなかったりして…」
苦笑いを浮かべながら言うと
「でも少なくとも可能性は潰したわ、それだけで価値がある」
坂下結衣は小さく頷いて、言う。
依頼主に謝罪のメッセージを送る。
すぐに返信が来た。
『――残念ですけど大丈夫です!探してくれてありがとうございます^_^』
問題は解決していない。
でも、誰も責めないし、責められない。
こういう「全部うやむやになる感じ」、俺は嫌いじゃない。
「帰りましょうか」
「だな…」
だが、真面目で優しい少女は、うやむやを許さない。
「明日も探そうと思うわ。交番にも行ってみようかしら」
明日は俺たちの活動日じゃない。
そこまでする必要があるのか。
そう思いながらも、俺は言った。
「……学校の中までなら、付き合うよ」
それ以上は踏み込まない。
他人の人生に、責任を持てるほど、俺は立派じゃない。
西日が2つの影を伸ばしていた。
後日談というか、結末。
キーホルダーは家に落ちていたと聞いた。
学校で気づいたから、学校にあると思い込んだらしい。
校内を探し回った時間を、俺は思い出さなかった。
やっぱり書いてみると難しいですね…なんというかこっから仲良くさせていくのが難しいというか、キャラクターを人じゃなくてあくまで自分が作ったキャラクターとして見ちゃってる感じがします…
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