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桶狭間の戦い(2/3)

「まねじめんと、とな?」

信長が眉をひそめる。


夜明け前の神社。

良之助は先程、咄嗟に言ってしまっていた。


「……会社では、チームをまとめる立場でして。マネジメントを——」


「まねじ……? 妙なる響きじゃな。」

信長は興味深そうに唇の端を上げた。


「……“まねじめんと”とは何ぞ?」


「え、えっと……“マネジメント”とは、

 人を動かし、力を最大に引き出す技術です。」


「よかろう。明朝の評定に出てみよ。

 その“まねじめんと”とやら、使ってみせよ。」


(……おいおい、無茶ぶりがすぎるだろ)


だが、信長の目に浮かぶ光は真剣だった。

逃げる選択肢など、最初からない。





朝霧の中、清洲城が姿を現した。

瓦の隙間から立ち上る白い息が、まるでこの城そのものが呼吸しているようだった。


城門前に立つ佐々木良之助は、喉を鳴らした。

(マジで……戦国時代、だよな……)


腰には刀を提げた足軽。

鎧を着た武士たちが忙しなく行き交う。

遠くから馬の嘶きと、金属がぶつかる音が響く。

その全てが「本物」だった。


(いや、これ……撮影どころじゃない。生きてる……)


昨夜、信長に「明朝、評定に来い」と言われ、気が付けば城の中にいた。

連れてきた兵がやけに無言なのが逆に怖い。


「おぬし、名は?」

先導していた侍がふと問う。


「あ、えっと……佐々木、です。」


「ささき……。何国の者じゃ?」


「え、えーと……尾張の、たぶん……」


侍が眉をひそめた。

(やべ、たぶんって何だ俺)


やがて、城内の廊下を抜け、襖の前で立ち止まった。

中からは低い声と、紙が擦れる音。

どうやら、すでに評定は始まっているようだ。


兵が声を掛ける。


「客人、佐々木殿をお連れした!」


襖が音を立てて開く。

十数名の武将たちの視線が、一斉に良之助に突き刺さった。


——時間が止まった。


(……全員、着物。全員、時代劇じゃなくリアル…)


口々に声が漏れる。


「なんだ、その身なりは……」

「紋も家も見ぬ。南蛮の者か?」

「まるで紙のような服じゃのう……」


笑いとざわめきが広がる。

良之助は一瞬で冷や汗をかいた。

スーツ姿。

どう見ても異常者だ。


信長がゆっくりと立ち上がった。


「騒ぐな。こやつは——我が客人じゃ。」


空気が一変した。

どよめきがすっと消え、全員が頭を下げる。


「客人……? この者が……?」


「そうだ。

 昨夜、我が社に現れ、“まねじめんと”なる妙なる術を申した。」


「ま、まねじめんと……?」

「南蛮の言葉か?」

「怪しき呪かもしれませぬぞ」


笑いが再び起きる。


そのとき、一人の兵が

「注進!注進!」

「今川義元、四万の兵を率いて西へ進軍中。」

報告が響くと、ざわめきが広がった。


「敵は大軍にてございます! 籠城こそ最善!」

「無謀に出れば、織田家は滅びましょうぞ!」


次々と上がる慎重論。

だが信長は腕を組み、沈黙している。


良之助は背筋を伸ばした。

(……これが戦国の会議。だが、意見がバラバラすぎる)

(てゆーか、今川義元!?)

 (…まさか!これから桶狭間!?)


そのとき、信長が立ち上がる。


「我は出る。桶狭間にて、義元の首を取る。」


会議が一瞬で凍りついた。


「な、なりませぬ! 敵は十倍の兵!」

「この尾張は終わりじゃ!」


怒号のような声が飛ぶ中、信長は軽く手を振り、静めた。


「戦に勝つのは、数か? 士気か?」


誰も答えられない。


そこで信長は、良之助を振り返った。


「ちょうどよい、

 この佐々木、そなたらの“恐れ”を鎮めることができ るか。」


視線がまた一斉に集まる。

(……やばい。完全に見世物だ)


「さあ、佐々木殿。」

信長が不敵に微笑む。

「そなたの“まねじめんと”、見せてみよ。」


(おい信長……いきなり振るなよ……!)


良之助の足が、自然と一歩前へ出た。


「で……“まねじめんと”とは何だった?」


会議中の全員の視線が良之助に集まる。


喉が渇く。だが、逃げられない。


「え、えっと……“マネジメント”とは、

 人を動かし、力を最大に引き出す技術です。」


「人を……動かす?」

柴田勝家が腕を組んだ。

「軍略の話であるか?」


「いえ、人の心を束ねることです。

 つまり、“なぜ戦うのか”を明確にすること。」


(……信長の言葉を考えると、士気がキーワードだ)

(数という圧倒的不利をウィークポイントと捉えていない……)

(…ええーい、信長に乗るしかない!)


良之助は床に広げられた地図を指差した。


「敵は大軍です。

 でも、それは“数の優位”でしかない。

 士気がなければ、兵はただの数です。

 信長様の策は“士気で勝つ戦”。

 だからこそ、全員がその理由を理解する必要があ  る!」


家臣たちの視線が変わった。


「……まさか、真正面から迎え撃つおつもりか」

「城を捨てて逃げるべきでは……!」


武将たちがざわめく。

誰もが“勝ち目”のなさを感じていた。


信長は、地図を見つめたまま呟いた。

「——士気で勝つ。」


「……士気、でございますか?」

「数に勝る敵を、気で打ち破ると……?」

場が再びざわつく。



座敷の中央に、信長がどっしりと腰を下ろしていた。

左右には、柴田勝家・佐久間信盛・丹羽長秀ら重臣たち。

彼らの顔には焦燥と疑念が浮かんでいる。


その隣、場違いなスーツ姿の男——佐々木良之助が


良之助の心臓の鼓動が、戦太鼓のように響く。


信長が静かに口を開いた。

その声は、低く、それでいて全員の心臓に響くほどの重みを持っていた。


「兵の数など、ただの影よ。」


その一言に、空気が止まった。


「数に頼る者は、数に溺れる。」


重臣たちは顔を見合わせる。

不安と困惑が評定の間にさざめいた。


信長は、地図に視線を落としたまま、さらに続けた。


「奴らは勝つと信じている。

 故に、動きは鈍る。」


「さらに——」

信長の瞳が、地図の一点に釘付けになる。

「敵の手を分けさせ、油断の溝を穿つ。」


その言葉は詩のようで、しかし抽象的すぎた。

重臣たちの表情は依然として硬い。

理解が追いつかず、誰も口を開けない。


(……このままでは、伝わらない)

(伝え方の王道はPREP法だ)


 PREP法

結論→理由→例→結論


良之助は静かに一歩前に出た。


「皆様、信長様の仰ることは“士気”を核とした戦略で す。

 結論から申し上げます——この“士気で勝つ”作戦  は、成功します。」


場が、ぴたりと静まる。

(ビジネスマンの基本…結論から述べる)

(営業で、流れによって結論から述べると掴みは取れ る)


信長がわずかに顎を上げた。


良之助は続ける。

現代で培ったマネジメントの技法を、自然と頭が組み立てていた。



「理由は——敵の“数”です。

 四万という数は強みであると同時に、脆さでもある。

 人が増えれば、命令は届きにくくなり、判断は鈍る。

 士気のばらつきが生まれる。」


地図を指しながら、良之助は声を強める。


「具体的には、信長様は“敵の手を分けさせる”と仰った。」


(全員受け身のままでは、この策に、信長に付いてこない!)

(ここで信長以外の影響力のある者を巻き込む!)

(声がでかい、あの厳つい鬼みたいなオッサンだ!)


「そこのあなた、織田軍が敵の手を分散させられる軍略はありますか?」


「ふむ…」

地図を睨みながら

「これが得手だとはとても思えんが…

 今川の進行方向にある3つの砦に兵を分散配置か…」


「いや、しかし!

 我らの兵数はおよそ3000!

 それでは砦1つに1000の兵では持って5日がいいと 

 こだ!」


「分散して、5日の籠城では無駄死にもいいとこだ!」


(ファシリテーターとして議論の方向性のハンドリン グが必要なときだ!

 新たな材料を適時投入すべし)

「信長様は、こうおっしゃってますよ、油断の溝を穿 つ。」


「待て!ということは奇襲部隊が必要か!」

「奇襲部隊、砦の守備隊で4つに分散させては、塵のように潰されるぞ」


「待て! 待て待て!」

 勝家が地図の上に手を叩きつけるように言った。

「そうではない! そうではないのだ!!」

 彼の目がぎらりと光り、駒を指で押さえつける。


「信長様が見ておられるのは——この絵だ!」


 地図の上、今川の駒がいくつも散らばる。

「今川四万といえど、その中には補給、伝令、雑兵も混じる。実際に戦う兵は三万にも満たぬ。

 つまり——各方面に兵を散らせば、中央の力は削がれる。」


 勝家は拳で机を打ち、続けた。

「そして……信長様は、あえて砦を“取らせる”おつもりだ!」


 その言葉に周囲がざわめく。


「敵は勝ったと思い込み、士気を緩め、布陣を広げる。

 さもすれば——義元本陣に残る兵は千にも届かぬ!」


 柴田勝家の声が熱を帯びる。


丹羽

「権六殿! つまりだ!」

「……義元は本陣を構えたまま、動かぬはずだ!」


 権六(前田利家)が目を見開く。

「油断しきった士気の本陣など、千だろうと崩せる!!」


 良之助は静かに頷いた。胸の奥で熱が広がる。

(よし……信長様の狙い、二人とも見抜いたな)


 彼は一歩前に出て、皆を見渡した。


「そうです——」

 声が自然と響く。

「その油断の溝を、士気の高い織田勢が一点で穿つ。数では劣っても、意志を一つにした軍は、散った軍を打ち破ることができる!」


 そして、はっきりと結論を告げた。

良之助「ゆえに——信長様の“士気で勝つ”作戦は、必ず成功します!」

 

(よし!信長の作戦に中心人物と思われる武将が2人乗ったぞ!)

「そうです!

 その油断の溝を、士気の高い織田勢が一点で穿つ。

 数では劣っても、意志の統一された軍は、散った軍 を打ち破ることができる。

 ゆえに——信長様の“士気で勝つ”作戦は、必ず成功 します。」


信長が口を開く

「そういうことだ、権六、五郎左!佐々木!

 さらには、それぞれの砦に300ずつのみだ。

 各砦共に、負け戦を繰り返し、今川に深追いさせ  ろ!

 砦に籠城と思わせろ!

 だが、夜には逃げても構わん。

 なんせ、その夜に義元の命運は尽きておるからの」


誰もの眼が変わった。

信長の見ている軍略が共有できたのだ。

これまで、何度も戦を繰り返した。

信長の天才的な一面は誰もが感じた。

だが、誰も真に理解は出来なかった。


まねじめんと

とやらに可能性を感じた瞬間であった。

ポイント

内容

結論ファースト

最初に答えを出す

PREP法

結論→理由→例→結論

相手目線

短く・やさしく

数字

根拠を数字で語る

3つに絞る

情報整理のルール

前向き言い換え

否定より代替案

具体的に褒める

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