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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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第099話 ー動く証言、揺れる空気ー

おかえりなさいませ。

本日は、証言をめぐる攻防が一気に動き始める刻をお届けいたします。

王妃派の一団が動き出したのは、

 セレナが微笑んで輪の中心に戻った直後だった。


 「では皆さま……

  あの日の“真実”を、どうかお聞かせくださいませ」


 王妃派の若手が、

 控えめな声でありながらも確かな圧を込めて言った。


 “証言集め”——

 セレナ陣営の次の一手が、ついに表へ現れた。


 (……早い。この流れの速さ、読み切って動いてる)


 リリアナの胸がわずかに冷たくなる。


 周囲の数人が前に出ようとした。

 リリアナを見たことがある者、

 姉妹の噂をどこかで耳にした者……

 どれも曖昧な記憶を、“噂に合う形で”語ろうとする。


 (噂は……形になった瞬間、真実のように扱われる)


 「……これでは、流れが悪すぎる」


 アルフレッドの声音が低くなる。

 灰の瞳が、会場全体を鋭く走査していた。


 すると——

 クライヴが小走りで近づき、

 声を潜めて報告した。


 「閣下……

  “証言の書面化”が始まろうとしております。

  王妃派が配布した紙に、

  “リリアナ様が姉を侮った”という内容を書かせるつもりです」


 リリアナは息を呑む。


 (……もう、そこまで)


 アルフレッドの表情がわずかに冷えた。


 「ならば——動くしかないな」


 その声は、

 “戦いの開始”を告げるものだった。


 *


 一方のセレナは、

 控えめな微笑を浮かべて輪の中心にいる。


 その微笑みは完璧で、痛ましく、

 誰も疑いを差し挟む余地がないように見えた。


 だが、その中心で彼女は

 見えない指揮棒を振っていた。


 「皆さま……

  どうか、無理のない範囲で。

  妹を責めるためではなく……

 わたくしが“前へ進むため”の証言を」


 甘く優しい声。

 しかし、言葉は巧妙にルールを縛っていく。


 (……だから、姉様は恐ろしい)


 リリアナは胸の奥で震えた。


 *


 アルフレッドは静かに一歩前へ出た。

 その動きだけで周囲の空気がわずかに張りつめる。


 「少々、よろしいか」


 王妃派の視線が彼に集まる。

 セレナの視線だけが、

 変わらぬ微笑のまま彼を見ていた。


 アルフレッドはゆっくりと言う。


 「証言を募るのは構わん。

  ただし——

  曖昧な記憶を“真実”と断じるのであれば、

  こちらも同様に“記録”を提示しよう」


 ざわり、と広間が揺れた。


 (……“記録”?)


 クライヴが少し驚いた目でアルフレッドを見る。


 アルフレッドは続けた。


 「公爵家主催の夜会における

  リリアナ嬢の動向、

  及び当時の周囲の発言の断片は——

  数名の証言として既に保管してある」


 セレナの眉が、

 ほんの一瞬だけ、動いた。


 (姉様……動揺、した?)


 リリアナは驚きに目を見張った。


 アルフレッドは淡々と言う。


 「王都での過去の動きを問うのであれば——

  公平に。

  “双方の証言”を並べて判断するべきだろう」


 王妃派の青年たちが明らかに戸惑う。


 「そ、それは……」

 「きょ、記録など……残って……」


 広間の空気が動揺へ傾く。


 セレナが微笑みの形を保ったまま、

 ゆっくりと言った。


 「まあ……

  アルフレッド様は、本当に……有能ですわね」


 その声は柔らかいが、

 裏にわずかな諦めが混じる。


 (押し切るのを……少しだけ、躊躇った?)


 リリアナの胸がざわめく。


 セレナはすぐに空気を立て直すように続けた。


 「ですが、わたくしが望むのは争いではございませんの。

  互いの傷を癒し、

  前に進むための……優しい真実ですわ」


 その声に、

 周囲は再び“美しい姉”の物語へ引き戻されかける。


 だが——

 さっきまでの絶対的な空気は、

 もう戻らなかった。


 “綻び”が、もう広がってしまったからだ。


 *


 リリアナは胸に手を当て、小さく呼吸した。


 (わたくし……

  守られてばかりではいけない気がする)


 アルフレッドの手が、そっと触れる。


 「焦るな。

  だが、進む準備はしておけ」


 灰の瞳に、静かな熱が宿っていた。


 その熱だけが、

 リリアナの揺れる心を支えていた。


 広間では、証言を巡る空気が複雑に渦巻き始める。


 そして——

 セレナの次の一手と、

 アルフレッドの反撃がぶつかる前夜が、

 静かに訪れていた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

セレナ陣営の“証言”による包囲に対し、

アルフレッドが初めて明確な一手を放ち、

広間の空気は大きく揺れ始めました。

次の刻では、いよいよ双方の“真実”がぶつかり、

社交会の緊張は最初の山場へ向かってまいります。

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