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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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第098話 ー姉の微笑みは、刃を隠してー

おかえりなさいませ。

本日は、セレナが“巻き返し”の一手を静かに放つ刻をお届けいたします。

広間の空気は、ほんの少しだが歪み始めていた。


 セレナの語りによって作られた“完璧な物語”は、

 ライナルトの躓きで静かに揺らぎ、

 誰かの胸の奥に小さな疑念を残している。


 その空気を、

 セレナは見逃さなかった。


 扇子を閉じ、

 静やかな微笑みを浮かべ、

 まるで舞台の主演のように一歩、前へ出た。


 (……来る)


 アルフレッドの指先がわずかに動いた。

 リリアナの手をそっと支えるように。


 セレナは声音を柔らかく落とした。


 「実は……

  本日こうして戻ってまいりましたのには、

  ひとつ理由がございますの」


 広間がざわりと揺れる。

 この“続きを知りたい”という空気を操るのは、彼女の得意技だ。


 「わたくし……

  ずっと、胸を痛めておりましたの。

  “妹がどれほど傷ついたか”を思うたびに」


 リリアナの心臓が跳ねる。


 (……また、わたくしを……物語の一部にしている)


 セレナが一歩、こちらへ歩み寄る。

 広間の視線が二人の間に集まる。


 「リリアナ……」

 息が触れそうな距離。


 「どうか、わたくしの言葉を……

  聞いていただけるかしら」


 その声は、涙を含むように震えていた。

 だがリリアナは知っている。

 涙の震えは“役割”のひとつだ。


 セレナはリリアナの手を——

 取る寸前で、ふっと止めた。


 触れない。

 でも、触れそうに見せる。


 それだけで、

 “姉妹の美しい和解”の構図が出来上がる。


 その巧みさに、リリアナは息を呑んだ。


 「わたくしたち……

  本来なら誰よりも、支え合うべき姉妹なのですもの」


 囁くような声。

 しかし、その言葉の裏には

 “あなたが拒んだら、悪者はあなたになる”

 という圧が潜んでいた。


 *


 そこへ、周囲の貴族たちの声が重なる。


 「リリアナ様……お返事を」

「姉君は、こんなにも心を尽くして……」


 空気が誘導されていく。

 セレナはその流れを完全に読んでいた。


 (……これは、罠よ)


 リリアナの指が震える。

 だが、その震えを包むように、

 アルフレッドが静かに手を重ねた。


 「無理に答える必要はない」


 彼の声は低く、強く、温かい。


 セレナの瞳が、小さく揺れた。


 「まあ……

  アルフレッド様が、そのようにおっしゃるなら……」


 微笑んでいながら、

 目だけは笑っていなかった。


 (……彼が邪魔なのね、姉様)


 次の瞬間、

 セレナは扇子を胸に当て、会場に向き直った。


 「皆さま。

  どうか誤解なさらないでくださいませ。

  わたくしはただ——

  妹と、手を取り合いたいだけなのです」


 美しい声。

 だが広間の数人は、

 その言葉の“重さ”に気づいていた。


 「……さっきと、違う?」

 「なんだか……誘導されているような……」


 囁きはまだ小さい。

 けれど、確かに広がり始めていた。


 *


 その時——

 クライヴが足早に近づいてきた。


 「閣下、奥方殿……」

 声は低く押し殺されていた。

 「先ほどから、王妃派の者たちが

  “セレナ様のための証言集め”を始めております」


 「証言……?」


 「はい。

 “リリアナ様が姉を傷つけた”

 という噂を、形にしようとしている気配が」


 リリアナの胸が冷たくなる。


 (やっぱり……誘導されている)


 アルフレッドは短く息を吐き、

 その場の空気を冷たく切り裂くように言った。


 「動きが早いな。

  やはり——仕掛けてきたか」


 灰の瞳が、静かにセレナを見据えた。


 セレナはただ微笑む。

 まるで、何も知らないかのように。

 けれどその微笑は、わずかに、ほんのわずかに

 “勝ち誇り”の色を帯びていた。


 (わたくしを……追い詰めようとしている)


 リリアナの指先が冷たくなる。


 しかし、アルフレッドは迷わなかった。


 「リリアナ」


 呼ばれ、顔を上げる。


 「ここからが勝負だ。

  お前の真実は、必ず守る」


 その言葉に、

 リリアナの胸に灯が戻る。


 セレナの物語は美しい。

 けれど、美しさは脆い。


 王都の空気は今——

 静かに、その脆さに触れ始めていた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

美しい言葉と微笑みで空気を再び操ろうとするセレナ。

しかし、その一手が新たな疑念の芽を生み、

広間には少しずつ、確かな変化が流れ始めました。

次の刻では、この“攻防”がさらに鮮明になり、

真実と虚構の境界が揺れ動いてまいります。

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