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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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第090話 ー王都社交会の扉へー

おかえりなさいませ。

本日は、王都賓客宿舎から社交会へ向かう、

緊張と覚悟の刻をお届けいたします。

夕暮れの王都は、昼の喧騒をゆっくりと飲み込みながら、

 朱から藍へと色を変えていた。

 政庁から戻った馬車が停まると、

 「王都賓客宿舎」と刻まれた石造りの建物が静かに迎えてくれる。


 この場所は、王都に滞在する要人が使う“中立の宿泊所”。

 華美ではないが、格式は十分。

 辺境伯家が王都に別邸を持たない以上、

 ここが彼らの拠点だった。


 リリアナは客間に戻り、

 鏡の前で深緑のドレスの結び目を整える。

 胸元には、アルフレッドが贈ってくれた小さな銀飾り。

 控えめなのに、ひと目で“彼の妻”とわかる。


 (……王都社交会に、この姿で戻るなんて)


 胸の奥に緊張と覚悟が混じった静かな波が立つ。


 扉が軽く叩かれた。


 「リリアナ、入っていいか」


 アルフレッドに名前で呼ばれると心が落ち着く。


 「はい」


 扉が開くと、黒の礼服に身を包んだアルフレッドが立っていた。

 灰の瞳が、わずかに息を呑む。


 「……よく似合っている」


 その声は低く、確かだった。

 リリアナは頬が熱くなるのを感じ、静かに会釈する。


 「ありがとうございます、閣下」


 アルフレッドがそっと近づき、

 肩の布を指先で整える。


 「今日、何があっても隣から離れない。

  怖ければ手を取れ」


 「……はい」


 その温度だけで、不安が少しだけほどけた。


 *


 玄関前に出ると、

 宿舎の外でローレンスとクライヴが待っていた。


 クライヴは政庁所属の中立官吏。

 辺境伯家の配下ではないから、

 宿舎へ姿を見せるときは必ずノックをしてから入る。

 それだけでも彼の立場の丁寧さが伝わる。


 「本日の会場、王都第一社交会には、

  王妃派の重鎮と、噂に敏い若手貴族が多数集まります」

 クライヴが控えめに言う。


 「……セレナ姉様の出席は?」


「確認は取れていません。

  ですが、あの噂の広がり方からして……

  “現れない理由がない”場所でもあります」


 リリアナは小さく息を吸う。


 (逃げない。もう、あの日のわたくしとは違う)


 アルフレッドが手を差し出す。


 「行こう」


 「はい」


 *


 馬車が王都の街路を進むにつれ、

 外の空気は徐々に夜の色を濃くしていった。

 灯されたランプの光が、石畳にゆらゆらと反射する。


 隣に座るアルフレッドが、

 そっと手を差し伸べてくれる。


 「不安なら、今のうちに言え」


 「……大丈夫です」


 けれど、手を握り返す。

 その瞬間、

 胸の奥で張りつめていたものがすっと和らいだ。


 (あの日、ただ恐れに耐えていたわたくしとは違う)


 アルフレッドの隣に、

 “選ばれた者として立てている”という実感があった。


 *


 馬車が止まる。


 王都第一社交会——

 白大理石の外壁、

 大きなアーチの入口、

 数多の灯火が階段を照らし、

 すでに多くの貴族が集まっていた。


 さざ、と空気が揺れる。

 視線が向く。

 ささやきが波紋のように広がる。


 「……辺境伯閣下だ」

 「奥方殿……妹君の方か」

 「噂の……」


 刃のように冷たい視線もある。

 興味だけの視線もある。

 憐れむふりをした視線もある。


 アルフレッドが手を差し出す。


 「リリアナ」


 名前を呼ばれるだけで、

 足元の不安が薄らぐ。


 「行こう」


 階段を一段ずつ上るたび、

 周囲の視線が濃くなる。

 二段目、

 三段目、

 四段目——


 もう逃げる道はどこにもない。

 だが、隣に彼がいる。


 扉がゆっくり開き、

 眩い光が溢れ出す。


 華美な衣装、

 ざわめく貴族たち、

 渦巻く噂の空気。


 そこはかつて、

 リリアナが“影”として立たされていた場所。


 だが今、

 彼女は自分の足で踏み出している。


 アルフレッドとともに。


 リリアナは静かに息を吸い、

 一歩、

 社交会の光の中へ入った。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

かつて影として立っていた社交会の扉を、

今度は“選ばれた伴侶”として踏み越えるリリアナ。

次の刻では、社交会の空気が動き、

噂と真実が交差する夜が始まります。

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