第079話 ー小休のひとときー
おかえりなさいませ。
本日は、王都へ向かう道中の小休にて、
二人の歩みがそっと心を寄せる刻をお届けいたします。
街道沿いの林は、春の光に満ちていた。
馬車が止まると、木々の間から柔らかな風が吹き抜け、
揺れる枝葉が小さく影を落とす。
「ここで少し休みましょう」
ローレンスがそう言い、周囲の安全を確かめる。
リリアナは馬車を降りると、
ふわりと草の香りを含んだ風に目を細めた。
長い揺れでこわばっていた身体が、
静かに息をつくのを感じる。
アルフレッドが水筒を手に近づく。
「飲むといい。少し冷えている」
「ありがとうございます」
喉を通る水のやわらかさに、
肩の力がふっと抜けた。
「……王都へ向かうのは、二度目です」
ぽつりと漏れた声は、
誰に聞かせるでもない囁きだった。
アルフレッドは横の木をひと瞥し、
静かに言葉を返す。
「二度目だが、前とは違う」
「……違う、でしょうか」
「ああ。
前の君は“見られる側”だった。
今の君は、“歩む側”だ」
その違いが胸の奥に落ちていく。
理解よりも先に、温度だけが残った。
「……少し、怖いです」
リリアナが素直に言うと、
アルフレッドは迷いなく答えた。
「怖さを持つ者ほど、強い」
短く、静かな言葉だった。
けれどその響きは、林の奥の水音のように
じんわりと心に広がっていく。
「前に訪れた時の王都は……冷たかったのに」
「今回は違う。
君には誓いがあり、
私は君の隣にいる」
リリアナは手元の外套を握ったまま、
そっと視線を下げた。
胸の奥が熱を帯び、息が整いにくくなる。
思えば、前回の道中では
こんなふうに言葉を交わす余裕はなかった。
「……少しは、強く見えますか」
「強い」
「本当に?」
「本当だ。私が保証する」
その言葉に、ふいに笑みがこぼれた。
ローレンスが荷を整えながら声を掛ける。
「閣下、そろそろ再出発できます」
「分かった」
アルフレッドがリリアナへ手を差し出した。
自然で、優しい仕草。
リリアナは迷わず、その手を取る。
ほんの短い触れ合いだが、
その温度が胸の奥を支えていた。
馬車へ戻りながら、
リリアナはそっと空を見上げる。
——王都はもうすぐ。
でも、前回ほど“怖い場所”には見えなかった。
それは、隣に立つ人が
変わらぬ歩みで寄り添ってくれているからだった。
最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。
次の刻では、王都の門前が見え始め、
二人が過去の“あの日”を思い出す場面を描いてまいります。




