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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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第076話 ー灯火の支度ー

おかえりなさいませ。

本日は、王都へ向かう前夜――

支度と静かな想いが交わる刻をお届けいたします。

春の夜は、まだ少し冷たかった。

 グレイバーン城の中庭には灯が並び、

 静かな揺らぎが石畳に淡い色を落としていた。


 アルフレッドは、マティアスとローレンスを伴い、

 王都行きの準備を一つずつ確かめていた。

 書類の束、補給の記録、護衛線の配置。

 そのすべてが、夜の静けさを切り裂かぬよう慎重に進められる。


 「閣下。証憑はすべて整いました」

 マティアスが書類を胸に抱えたまま言う。

 「王都側が“言い換え”を試みても、

  数字の裏付けは揺らぎません」


 「……頼む。あちらは言葉で形を捻じ曲げる」

アルフレッドは低く答える。

 その横顔には、夜の灯りが細く影を落としていた。


 ローレンスが控えめに一歩進む。

 「城門周辺の巡回を増やしております。

  昨夜から、王都の使いらしき人影が二度ほど」


 マティアスが眉を寄せる。

 「王妃派ですかな」

 「断定はできぬ。ただ……気配が急だな」


 そのとき、柔らかな足音が近づいた。


 リリアナだった。

 外套を軽く押さえ、灯の揺らぎの中に立つ彼女は、

 まるで夜明け前の一筋の光のように見えた。


 「閣下……支度は整いました」

 「ありがとう。眠れたか?」

 「少しだけ。でも、行けます」


 その言葉に、アルフレッドはわずかに息を整える。

 心配を包むような視線が、彼女に向けられた。


 マティアスが穏やかに微笑んだ。

 「奥方。王都では冷たい視線もありましょう。

  ですが、どうか胸を張ってくだされ。

  辺境の者たちは、皆あなたを誇りに思っております」


 リリアナは驚いたように瞬きをし、

 すぐに静かに頭を下げた。

 「……ありがとうございます。

  私、恥じないように努めます」


 ローレンスが小さく頷く。

 「奥方がおられるだけで、

  王都の空気はきっと変わります」


 「揺らぐだけなら良いがな」

 アルフレッドが静かに言った。

 しかしその声には、守りの温度が宿っていた。


 リリアナは、そんな閣下の横へそっと並ぶ。

 「……私が行って、本当にお役に立てるでしょうか」

 「立つとも。

  君は“誓い”そのものだ。

  君の歩みがあるから、この道が続いている」


 胸がふわりと温かくなる。

 怖さが消えるわけではない。

 それでも、前へ進もうと思える。


 城門の方では、馬車に荷が積まれ、

 護衛たちが持ち場を確認していた。

 燭台の揺らぎが、出立の空気を静かに包む。


 リリアナはふと、城壁の上へ視線を向けた。

 夜空には細い月が浮かび、

 淡く道を照らすように光っていた。


 「……行きましょう、閣下」

 「ああ」


 二人が並んで歩き出すと、

 中庭の灯が静かに揺れ、

 見送る者たちの影が長く伸びた。


 その灯は、祈りにも、願いにも見えた。

 やがて夜風がそっと吹き抜け、

 出立の刻がひっそりと近づいていた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

次の刻では、夜明けと共に出立し、

王都への道のりで揺れる二人の想いを描いてまいります。

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