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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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第072話 ー春霞の再会ー

おかえりなさいませ。

本日は、王都から届いた一通の手紙が、

リリアナと閣下の距離をそっと近づける刻をお届けいたします。

春の光の中に、かすかな痛みとぬくもりが揺れます。

春の風が山を越え、城下をやわらかく撫でていた。

 グレイバーン城の中庭では、白い花弁が陽に揺れている。

 リリアナはその中で、一通の手紙を握りしめていた。


 金の封蝋。セレスティア家の紋章。

 ――姉、セレナの筆跡だった。


 『王都では噂が絶えません。

  “辺境の妻”は夫に操られている、と。

  あなたが本当に幸福なら、言葉などいらないでしょう。

  でも、沈黙は時に軽蔑を呼ぶのよ。』


 紙面に滲む香。

 かつての夜会で浴びた香水と同じ匂いだった。

 リリアナは目を伏せ、指先で紙の端を撫でる。


 「……姉は、まだ私を“話の道具”にしているようです」


 背後から足音。

 「王都の便りは、風より早いな」

 アルフレッドがゆっくりと歩み寄る。

 陽の光が肩にかかり、影が彼女の手元を包んだ。


 「閣下……お聞きに?」

 「いや。君の表情がすべてを物語っている」


 その言葉に、リリアナの胸が少し緩む。

 「姉は、私の名を使って噂を広めています。

  “辺境に逃げた次女”は、王都の理から外れたと……」

 「理など、風の向きで変わる。

  だが誇りは、誰にも奪えない」


 アルフレッドの声は穏やかだった。

 「君が築いた“護り”は数字にも形にも残る。

  言葉を飾る者よりも、はるかに強い」


 リリアナはゆっくり顔を上げた。

 陽の反射が彼の灰眼に射し込み、

 まるで金の粒が瞬いたように見えた。


 「……怖いのです。王都が再び私を見下ろすことが」

 「怖れていい。

  その恐れを知っている者が、人を守れる」


 沈黙。

 花びらが二人の間を通り過ぎ、

 リリアナの袖に一枚、落ちた。

 アルフレッドはそっとそれを摘み取り、指先で整える。

 「君がうつむく時は、風も息を潜めるな」

 「閣下……」

 小さな笑みがこぼれた。


 そこへ、マティアスが書簡を抱えて現れる。

 「閣下、王都議場より伝令です。“恐れの法”再審議、継続とのこと」

 「やはり動いたか」

 アルフレッドは書簡を受け取り、短く息を吐く。

 「波が来る。だが、我々はもう足を取られぬ」


 リリアナは静かに頷いた。

 胸の中の痛みは、まだ消えない。

 けれどその痛みが、彼の言葉で少しだけ温もりに変わる。


 「姉がどうあれ、私はここで答えを出します。

  恐れではなく、誇りで」

 「それでいい」


 春の風が再び吹き、花が舞った。

 白い花弁が二人の肩に降り、静かに光を宿した。

 その光は、確かな絆のように滲んでいった。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

過去の影がまだ残る中で、ふたりの歩幅が少しずつ重なってまいります。

恐れを超えて生まれる絆が、やがて王都の波にも揺るがぬ力となるでしょう。

次の刻では、姉セレナの動きが再び表に現れ、

王都と辺境、ふたつの想いが交差してまいります。

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