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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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第046話 ー裁定と影の証人ー

おかえりなさいませ。本日は王の裁定と、静かに交わされた真実の継承をご覧いただきます。

沈黙を破る者の誓いを、どうぞ胸にお納めくださいませ。

王の裁定は、沈黙の中で下された。

 大評議会の喧騒が去り、残されたのは老王と宰相ラザール、そして静かに立つアルフレッドだけだった。

 彼は一歩も退かず、灰の瞳をまっすぐに王へ向けていた。

 王の手は玉座の肘掛けを握りしめ、爪が白くなるほど力がこもっている。


 「アルフレッド・アーデン」

 王の声は低く、ひどく疲れていた。

 「お前が辺境において秩序を守り、多くの民を救ってきたことは認めよう。

  だが、“禁書”を私的に所持し、王命に背いた事実は消えぬ」

 「禁書を手にしたのは、真実を知るためです」

 「真実か。……その真実が、この国を割る火種となるのだ」


 老王の瞳には迷いがあった。

 しかし、その隣でラザールが静かに進み出る。

 「陛下、陛下のご温情は重々承知しております。

  ですが、“灰の血”を擁護する声が上がれば、王家の正統が揺らぎます。

  今は痛みを伴ってでも秩序を示すべきかと」


 王は苦しげに目を閉じた。

 「……よかろう。アルフレッド・アーデンを一時拘束とする。

  謹慎ののち、王都北塔にて尋問を行う。

  その後、潔白が証明されれば解放もありうる」


 ラザールが恭しく頭を下げる。

 その口元には、薄い笑みが浮かんでいた。

 アルフレッドは静かに息を吐き、頭を垂れた。

 「陛下の裁定、確かに承りました。

  ――ですが、真実は誰かの命令で消えるものではありません」

 その言葉に、王の瞳がわずかに揺れた。

 ラザールは手を叩き、衛兵に命じる。

 「連行せよ」


 灰色の外套が翻り、重い扉の音が広間に響いた。

 その鈍い響きが、王都のどこかでリリアナの胸にも届いていた。


 ***


 同じ頃、王都の屋敷。

 リリアナは窓辺に立ち、遠くの鐘の音に耳を傾けていた。

 外は曇天。

 まるで王都そのものが息を潜めているようだった。


 机の上には布に包まれた複写の記録。

 原本はすでに、閣下が信頼を置く修道騎士団の保管庫へ託してある。

 残るこの写しだけが、王都に残された唯一の“証”だった。


 彼女は指先でその包みを撫で、静かに呟いた。

 「閣下……どうか無事で」


 その時、背後から微かな気配を感じた。

 リリアナは振り返り、咄嗟に机の引き出しへ手を伸ばす。

 「……誰です」

 返ってきたのは、落ち着いた低い声だった。

 「ご安心を、夫人。敵ではありません」


 カーテンの陰から、一人の男が姿を現した。

 灰の髪を後ろで束ね、黒衣を纏った中年。

 王妃の紋章が刻まれた古い徽章を胸に下げていた。

 「あなた……何者ですの」


 男は静かに胸へ手を当てた。

 「王妃陛下に仕えていた侍従、サイラス・ロアンと申します。

  あなたが“あの記録”を見つけたと知り、命を賭してまいりました」


 リリアナの眉がわずかに寄る。

 「どうやってここへ? 屋敷には兵が見張りを……」

 「ええ、承知の上です。かつての侍女の一人が、私に通じてくれました。

  裏門の見張りが交代した隙を狙って潜り込みました」


 リリアナはしばし黙し、やがて問いを重ねた。

 「あなたが……閣下の潔白を証明できるの?」

 サイラスの目が真剣に光る。

 「王妃はすべてを見越しておられました。

  宰相が日記を奪い、内容を改ざんすることも。

  そのために、王立修道院の地下に“もう一つの写本”を封じられたのです。

  それこそが真実の証――陛下がまだ知らぬ王妃の言葉」


 リリアナの指先が震えた。

 複写の包みを見下ろしながら、唇がかすかに動く。

 「……あの方を救う手立てが、まだ残されているのね」

 サイラスは頷いた。

 「しかし修道院は宰相の監視下にあります。

  私ではもう動けません。

  あなたにしかできぬのです、夫人。

  宰相の目を欺けるのは、いま王都で“沈黙を装う”あなたしかいない」


 リリアナはゆっくりと立ち上がった。

 灰色の空に、鈍い光が射す。

 「……ええ。閣下が閉ざされたのなら、わたくしは言葉でその扉を開きます」

 その声は静かで、それでいて強かった。


 外では、遠く北塔の鐘が鳴った。

 嵐の前の風が、王都の屋敷を揺らしていた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

次の刻は、北塔での拘束と修道院への潜入――二人がそれぞれの戦場に向かう刻をお届けいたします。

どうぞご期待くださいませ。

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