表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/67

第045話 ー評議会の罠ー

おかえりなさいませ。本日は王都評議会の陰謀と、二人が別々の戦場に立つ刻をご覧いただきます。

沈黙と真実の狭間に揺れる選択を、どうぞ胸にお納めくださいませ。

王都の大評議会は、白大理石の円形広間で行われた。

 壁には歴代の王の肖像が並び、天井には双頭の獅子が描かれている。

 豪奢であるはずの空間なのに、そこに満ちるのは荘厳ではなく――冷たい敵意だった。


 アルフレッドが扉をくぐると、視線が一斉に彼へ注がれる。

 王座の横には宰相ラザール、その隣には数名の老貴族。

 その誰もが口元に作り笑いを浮かべていた。


 「辺境伯アルフレッド・アーデン」

 ラザールが一歩前へ出る。

 「貴殿には、幾つかの報告が届いております。――“領内の財務不正”、“王命無視”、“不正輸送”。どれも事実と異なると仰るか?」

 声は穏やかだったが、広間全体に響くほど冷ややかだった。


 アルフレッドは一歩も引かず、灰色の瞳で宰相を見据える。

 「異なる。王都が送った監査官が改ざんした記録を、閣下ご自身が確認したはずだ」

 その瞬間、アルフレッドの灰の瞳が宰相ラザールを射抜いた。

 広間の空気がわずかに揺れ、誰も息をする音さえ立てられなかった。


 「ほう……証拠は?」

 「既に破棄された。だが、帳簿を改ざんした人物は拘束済みだ」

 「その者が“真実を語る”保証は?」

 「保証はない。ただ、俺が信じるだけだ」


 その言葉に、ラザールの眉が僅かに動いた。

 「信じる、か。だが王政は信仰では動かぬ。――証拠こそが秩序の礎だ」

 「ならば秩序は、王の目ではなく、宰相の都合で決まるのか?」

 空気が張り詰めた。

 貴族たちがざわめき、王の表情が揺れる。


 老王がゆっくりと立ち上がる。

 「アルフレッド。お前は未だに王の血を持ちながら、王家に背を向けるつもりか」

 「背を向けてはおりません。――ただ、王が“人”を忘れた時にこそ、誰かが人を見なければならない」

 その言葉に、王の瞳が細められる。


 ラザールはすかさず口を挟んだ。

 「つまり、陛下のご治世を否定するおつもりか?」

 「違う。否定ではなく“補う”のだ。民が飢え、兵が倒れた時に、机上の決議は彼らを救わない」

 「貴殿はいつから民の代弁者になった?」

 「辺境を歩いた日からだ」

 静かに告げる声が広間に響いた。

 その瞬間、ラザールの目が細まり、わずかな笑みが口角に浮かぶ。

 「ならば――その口で王妃の遺した“日記”の存在を語るか?」


 アルフレッドの背筋がわずかに硬直する。

 広間がざわめき、王の表情が変わった。

 「……日記、だと?」

 ラザールが恭しく頭を下げる。

 「ええ、陛下。夫人リリアナ殿が花園にて発見された“禁書”でございます」


 王の手が玉座の肘掛けを強く握り締めた。

 「リリアナが――何をした?」

 「“灰の血の正統性”を記した記録を掘り出し、辺境伯閣下に渡したと」

 「……」

 アルフレッドの唇が僅かに動いた。

 「……それが罪だというなら、この国は真実を殺す」


 その言葉に、王の目が大きく見開かれる。

 ラザールが笑った。

 「王を侮辱する発言として記録いたしましょう」


 兵士たちが動き、広間に重い空気が流れた――。


 ***


 一方その頃、王都の屋敷。

 リリアナは静かな部屋の中で、ひとつの机を開けていた。

 中には昨夜アルフレッドが隠した“複写の記録”。

 原本はすでに、閣下が信頼を置く修道騎士団の保管庫へ託してある。

 残るこの写しだけが、王都に残された唯一の“証”だった。


 そのページを見つめながら、彼女は小さく呟いた。

 「……日記が陛下の前で使われてしまうのかしら」

 胸の奥に冷たいものが流れる。

 真実を照らすはずの言葉が、彼を縛る鎖に変わるかもしれない――

 そんな予感が、どうしようもなく頭を離れなかった。


 その時、廊下から微かな足音。

 扉の隙間から覗くと、例の侍女が封書を手に歩いている。

 宰相ラザールの印が押された黒い封蝋。


 リリアナは息を潜め、机に手を伸ばした。

 ――布に包んだ複写の記録を、咄嗟に引き寄せる。

 誰にも見つかってはならない。

 “沈黙”のままに、彼女は行動を選んだ。

 彼の策に嵌るふりをしながら、逆にその影を辿る。

 アルフレッドが王の前で戦っている間に、

 リリアナもまた――己の戦場へ足を踏み出していた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

次の刻は、アルフレッドの裁定と、リリアナが掴む“裏の証人”の登場をお届けいたします。

どうぞご期待くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ