表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/68

第040話 ー王都の門ー

おかえりなさいませ。本日は王都到着、そして王家の血の真実が初めて姿を見せる刻をご覧いただきます。静寂に響く父子の言葉を、どうぞ胸にお納めくださいませ。

長い旅路の果て、王都の城壁が見えた。

 高くそびえる白い石の門。かつてリリアナが少女の頃に見上げたそれは、威厳よりも冷たさを帯びて見えた。

 春の陽光を反射して輝くはずの塔は、どこか鈍く濁り、まるで巨大な墓標のようだった。


 馬車が城門前で止まり、兵が名を告げる。

「辺境伯アルフレッド・アーデン閣下、及びご夫人、王都評議会の召喚により来訪」

 兵士たちは一斉に姿勢を正すが、その瞳の奥に宿るのは敬意ではなかった。

 ――恐れ、そして敵意。


 門番の長が無言で頷く。

「お通りいただきます。ただし、兵と荷馬車は別に検めます」

 アルフレッドは頷き、静かに手綱を引く。

「構わん。調べたいなら好きに調べろ」

 低い声が響き、門が重く軋んで開いた。


 王都の空気は辺境と違っていた。

 香と香辛料の匂いが混じり、街路は絹と宝石で飾られている。

 だが、リリアナの心は少しも安らがなかった。

 通りすがる貴族たちの視線が冷ややかで、噂がもう広がっているのが分かる。

「“辺境の獣”が戻った」「王の血を騙る男」「妹令嬢を妻にした奇人」

 囁きが風に乗って耳に刺さる。


 「……覚悟はしていたが、歓迎とはいかんな」

 アルフレッドの声が皮肉に滲む。

 「ここは噂で動く街です。真実よりも、都合の良い嘘の方が好まれる」

 リリアナは微笑もうとしたが、その笑みは震えていた。

 アルフレッドがそっと手を伸ばし、彼女の指を握る。

 「怖れるな。俺が隣にいる」

 「はい……」

 その一言が、冷えた空気の中で灯のように心を温めた。


 王宮へ続く大理石の階段を上る途中、年老いた文官が出迎えに現れた。

「辺境伯閣下、よくぞ参られた。陛下はお待ちでございます」

 その言葉には表面上の礼があったが、声の底には計算の冷たさが滲んでいる。

 文官の目がリリアナに向けられる。

「……夫人もご同行とは、珍しいことを」

 「夫として呼ばれた以上、妻が共にあるのは当然でしょう」

 アルフレッドの一言で、文官は口をつぐんだ。


 王宮の中は静謐だった。

 天井まで届くステンドグラスには、かつての王たちの姿が描かれている。

 その中央、最も古い一枚に――灰色の瞳をした青年の王がいた。

 リリアナは思わず足を止める。

「……この方は?」

 「初代国王エルディン。百五十年前の王です」

 文官が淡々と答える。

「王家の血筋は彼の子孫に連なる。灰の瞳を持つ者こそ王の証とされています」


 灰の瞳。

 その言葉が、リリアナの胸に突き刺さる。

 隣に立つ男の瞳と、ステンドグラスの中の王が、あまりにも似ていた。


 リリアナが顔を上げると、アルフレッドは一瞬だけ視線を逸らし、歩を進めた。

 「……行こう」

 短い言葉だったが、その背中には冷たい決意が宿っていた。


 王座の間へと続く廊下の先、扉の向こうから微かな声が聞こえた。

 「――ようやく、帰ってきたか。灰の王の血よ」

 低く響くその声に、空気が一瞬で凍りつく。

 リリアナの心臓が跳ねた。

 アルフレッドの表情は変わらないが、その掌が小さく握り締められるのを彼女は見た。


 扉が重く開かれる。

 光の中に広がる王座の間。

 その奥に座る王が、ゆっくりと立ち上がった。

 年老いてはいるが、背筋はまっすぐで、瞳にはかつての王の肖像と同じ灰色が宿っている。

 「……父上」

 アルフレッドの声が、静かに落ちた。


 その瞬間、リリアナの世界が静まり返る。

 王都が、そしてこの物語が、まるで新しい頁を開いたように見えた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。次の刻は、王との対峙と、隠された過去の真実をお届けいたします。どうぞご期待くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ