第029話 ー民と共にー
おかえりなさいませ。本日は領民と共に知恵を出し合う場面をご覧いただきます。冷たい圧力に対し、人の心がどれほどの力を持つかを感じていただければ幸いにございます。
王都からの新たな命令は、領民の胸に重くのしかかった。市場では商人たちが帳簿を抱えたまま顔を曇らせ、鉱山の親方は坑口に立ち尽くし、孤児院の院長はため息を漏らしていた。税の上乗せ、兵の供出――いずれもこの土地の力を削ぐばかりだった。
城館の広間に領民の代表が集められた。寒風が差し込む中、アルフレッドが壇上に立つ。
「王都の命令は筋が通らぬ。だが、この地を守るために手をこまねいているわけにはいかん」
その低い声に人々の視線が集まる。
「俺一人で抗うのではない。領民全てと共に立つ。道を繋ぎ、食を守り、兵を守る――その知恵を貸してほしい」
沈黙を破ったのは、商人頭のミリアだった。
「供出兵の数を満たせと言うなら……商人の護衛を兵籍に登録すればいいのでは。数は揃えつつ、実際には商いを止めずに済むと思います」
「なるほど」
マティアスが目を細め、杖を軽く打つ。
「見せかけの兵を揃え、暮らしを守ると」
続いて鉱山の親方が声を上げた。
「鉱石の搬出は制限されても、副産物の石材や木材は含まれていません。これを市場に流せば、税の負担を補えます」
孤児院の院長も頷いた。
「子どもたちも雪かきや小道づくりを手伝えます。小さな手でも道を拓く力になります」
その言葉に場が和み、笑いが広がった。
リリアナは胸の奥が熱くなるのを感じた。人々は怯えているはずなのに、それでも知恵を出し合い、共に立とうとしている。机に広げた帳簿に次々と書き込みながら、声を上げた。
「皆が協力すれば、王都の圧力に負けずに暮らしを守れます。……どうか、この地を共に支えてください」
広間は拍手で満たされた。人々の顔に力が戻り、冷たい風の中にも温かい空気が広がる。
その様子を見つめるアルフレッドの横顔は誇りに満ち、そして灰色の瞳には柔らかな光が宿っていた。
「よくやったな」
小声で告げられたその一言が、リリアナの胸を深く打った。
夜、日記に記す。
「王都の圧力に抗うのは、剣だけではない。民の知恵と心が集まれば、どんな壁も越えられる」
窓の外では雪がまた舞い始めていた。だがその白の下には、確かに民と共に築いた道が広がっていた。
最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。次の刻は、王都のさらなる妨害と、それに立ち向かう策をお届けいたします。どうぞご期待くださいませ。




