第028話 ー王都の圧力ー
おかえりなさいませ。本日は王都の新たな圧力をご覧いただきます。冷たい命令に抗う強さを、どうぞ胸に刻んでいただければ幸いにございます。
雪が解けきらぬうちに、王都の使者が再び領都へ姿を現した。今回は役人だけでなく、兵士を伴っている。城門の前に列を作るその姿は、冷たい威圧そのものだった。
執務室に通された使者は、厚い巻物を机の上に広げた。
「王都評議会の決定である。辺境に新たな義務を課す。――領地税の上乗せ、兵の供出、そして鉱山の監督官の常駐だ」
広間に重苦しい沈黙が落ちた。書記たちは青ざめ、マティアスは杖を強く握る。
リリアナは震える手で文を覗き込み、眉を寄せた。
「……税は倍、供出兵は三倍。こんな無理を押し付ければ、領は立ち行かなくなります」
「立ち行かぬのなら、それまでのこと」
使者は薄く笑う。
「辺境の役割は王都を支えること。潰れるかどうかは問題ではない」
理不尽。だが、冷たい声には一片の迷いもなかった。リリアナは胸に込み上げる怒りを抑え、震えを押し殺す。
「……民の暮らしを犠牲にする命令など、筋が通っていません」
使者の眉がぴくりと動く。場の空気が張り詰めたその瞬間――
「筋が通らぬものに従う道理はない」
アルフレッドの低い声が響いた。灰色の瞳が真っ直ぐに使者を射抜く。
「俺は領を守る。王都が何を求めようとも、この地を飢えさせはせぬ」
その言葉は冷たくも鋭く、石壁に反響した。
使者は鼻で笑い、巻物を叩きつけるように閉じた。
「……好きにすればいい。だが“逆らった”記録は確かに残る」
捨て台詞を残し、使者たちは広間を去っていった。
扉が閉じた途端、緊張が解け、空気が大きく揺れた。リリアナは机に両手を置き、深く息を吐いた。
「……また、揺さぶりです」
「揺さぶりで済めばいいがな」
アルフレッドは静かに答え、窓の外の雪原に視線を向けた。遠い王都の影が、じわりと迫ってくるのを誰もが感じていた。
夜、日記にリリアナは記す。
「王都の圧力は増している。だが、隣にある声が支えになる。――筋を守るために、共に立つ」
雪の夜空に浮かぶ月は淡く、しかし揺るぎなく輝いていた。
最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。次の刻は、領民と共に抗う策を描きます。どうぞお楽しみにお待ちくださいませ。




