第027話 ー届いた影ー
おかえりなさいませ。本日は雪を越えた先に届く姉の影をご覧いただきます。理不尽な棘に対し、隣の炎の強さを感じていただければ幸いにございます。
吹雪は三日三晩続き、ようやく晴れた朝。白一色の大地に陽が差し、雪の結び道が線のように浮かび上がっていた。港からの荷は村へ届き、孤児院の子どもたちは温かい粥を食べて笑っている。人々の胸に、確かな安堵が広がった。
だが、城館に戻ったリリアナを待っていたのは、新たな知らせだった。執務室の机に置かれた一通の文。封蝋には王都の印、そして――姉セレナから。
「……また、姉から」
封を切る手がかすかに震える。文面には、これまで以上に冷たい言葉が並んでいた。
『辺境に身を寄せ、夫人の席を得たと聞きました。妹にしては上出来でしょう。
ですが忘れぬことね――妹は姉の引き立て役にしかならない。
あなたがどれほど認められても、所詮“妹”の立場にすぎぬ。
王都に戻れば、誰もがそれを思い出させてくれるでしょう』
理不尽。意味をなさない蔑み。それでも胸に鋭い棘となって突き刺さる。リリアナは文を握り締め、視界が滲むのを堪えた。
その時、背後から灰色の瞳が彼女を見つめた。
「……怯えるな」
アルフレッドが文を奪い取り、火鉢に投げ入れる。紙は瞬く間に燃え、灰となった。
「価値なき言葉に耳を貸すな。お前は俺の妻だ。それ以外の何者でもない」
低く落ち着いた声。けれど、その掌が彼女の肩に触れた瞬間、確かな熱が伝わった。胸にこみ上げる涙をこぼさぬよう、リリアナは深く頷いた。
「……はい」
夜。帳簿を閉じた後、リリアナは机に短く記した。
「姉の影は消えない。けれど、影を越える灯がある――隣にある炎を信じる」
窓の外、雪原に星が瞬いていた。冷たい光の中で、城館の灯だけが確かに温かく輝いていた。
最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。次の刻は、王都の動きが領地へ押し寄せる場面をお届けいたします。どうぞご期待くださいませ。




