第024話 ー王都の罠ー
おかえりなさいませ。本日は王都の新たな罠と、それに抗うお二人の姿をご覧いただきます。冷たい矛盾の中に、確かな炎を感じていただければ幸いにございます。
冬の気配が深まる頃、城館にまたも王都からの使者が現れた。前回よりも人数は多く、帳簿や文を抱えた役人たちがぞろぞろと執務室へ入ってくる。冷えた空気が一層重くなった。
「辺境伯閣下、リリアナ様」
代表を務める中年の役人が書簡を広げ、朗々と読み上げる。
「王都評議会は、新たに“特別貢納”を命ずる。辺境の鉱石と羊毛を規定量より多く納めよ。違反すれば……」
役人の声がわざとらしく途切れ、灰色の瞳がこちらを伺う。
「……王都の信用を失うこととなる」
場の空気が張り詰める。アルフレッドは無言で書簡を受け取り、紙を睨む。
「規定を超える要求だ。王都は我らを飢えさせるつもりか」
冷たい声に、役人は肩を竦める。
「規定か否かは王都が決めること。辺境の意見は……些末にすぎません」
リリアナの胸に怒りが込み上げた。だが声を荒げれば彼らの思うつぼ。深呼吸し、紙を覗き込み、冷静に告げる。
「おかしいですね。こちらに記された数量、前回の査閲で“過剰”と指摘された量をさらに上回っています。つまり、王都の判断が揺れているのでしょう」
役人たちがざわめいた。まさか令嬢に数字を突かれるとは思わなかったのだろう。
アルフレッドはその隙を逃さず言葉を重ねた。
「矛盾は明らかだ。王都の評議会に伝えろ。“辺境は従うが、従うのは筋の通る理のみ”と」
低い声が石壁に響き、役人たちは顔を曇らせながらも退いた。
使者が去った後、執務室に静寂が訪れた。リリアナは思わず机に手を置き、震えを抑えた。
「……怖かった。けれど、言わなければならないと思ったのです」
アルフレッドが彼女を見つめ、短く頷く。
「恐れを抱いても言えた。それが力だ」
そして少し声を和らげた。
「俺の隣に立つ以上、恐れるなとは言わぬ。ただ、共に立て」
その言葉に、胸の奥で何かが熱く広がる。義務婚で始まった関係に、少しずつ違う意味が芽生え始めていた。
夜、リリアナは机に向かい、今日の出来事を記録した。
「王都は矛盾を武器にする。だが、矛盾は数字で突ける。……私たちは必ず立ち向かえる」
外では雪が舞い始め、嵐の前触れのように白く世界を覆っていた。
最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。次の刻は、雪の中で夫婦の絆がさらに深まる場面をお届けいたします。どうぞお楽しみにお待ちくださいませ。




