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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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第018話 ー小さな騒動ー

おかえりなさいませ。本日は市場での小さな騒動と、それを共に鎮めるお姿をご覧いただきました。人の暮らしに寄り添う力を感じていただければ幸いにございます。

王都の使者が去った翌日、領都の市場はどこか落ち着かない空気に包まれていた。関税や出荷制限の噂が広まり、人々の表情は強張っている。そんな中、正午過ぎに一つの騒動が起きた。


「返せよ、それは俺の物だ!」

「嘘を言うな、こっちが先に代金を払った!」


 広場の一角で二人の行商人が布の束を取り合い、声を荒げていた。周囲に人だかりができ、ざわめきは次第に大きくなる。布は貴重で、冬の衣に欠かせない。皆が敏感になっていたのだ。


 リリアナは躊躇せず人垣を抜け、二人の間に歩み出た。

「お二人とも、声を荒げても解決にはなりません」

 はっきりとした声に周囲が静まる。だが男の一人が吐き捨てた。

「辺境伯様の客人が口を出すな!」

 その瞬間、背後から低い声が響いた。

「客人ではない。俺の家の者だ」

 アルフレッドがいつの間にか立っていた。灰色の瞳が人々を一瞥し、空気を引き締める。


 リリアナは布の束を受け取り、丁寧に広げて見せた。

「片方の布は染料がまだ乾いておらず、色がにじんでいます。きちんとした商品は一つだけ」

 広げられた布の端に、確かに赤い染料の滲みがあった。

「こちらは染め直す必要があります。ですから、代金を払ったのはこちらの方ですね」

 彼女の判断に周囲からどよめきが起きた。争っていた男たちも言葉を失い、やがて渋々と頷いた。


 騒ぎが収まると、人々の間から安堵のため息が漏れた。子どもを抱いた母親が近づき、深々と頭を下げる。

「ありがとうございます。喧嘩が広がれば、もっと怖いことになっていました」

 リリアナは微笑み、布を畳んで渡した。

「小さな炎も放っておけば大火になります。だからこそ早く鎮めなければ」


 市場を後にする途中、リリアナは小声で呟いた。

「……出過ぎたことをしてしまったでしょうか」

 隣を歩くアルフレッドは足を止め、彼女を見た。

「いいや。お前の目は正しかった。俺の目よりも、ずっと人の暮らしに近い」

 その一言に、胸が熱くなった。彼の声は冷静なのに、確かに支えてくれている。


 夜、机に向かったリリアナは今日の出来事を記した。

「争いを鎮めるのは、数字ではなく人の目。けれど数字に残すことで、次の安心になる」

 墨の色が乾いていくのを眺めながら、彼女はそっと微笑んだ。胸の奥で、小さな灯がまた一つ強くなっていた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。次の刻は姉からの影がさらに濃く迫る場面をお届けいたします。どうぞご期待くださいませ。

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