表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/67

第016話 ー布告の場ー

おかえりなさいませ。本日は公の場にて並び立つお二人の姿をご覧いただきました。冷たい石壁の広間にも、確かな温もりが芽吹いたかと存じます。

翌朝、領都の議場には人々が集まっていた。石造りの大広間は天井が高く、冬の冷気をそのまま抱え込んでいる。商人、鉱山の親方、孤児院の院長、そして町の代表者たち――皆が一斉に中央の壇へ視線を向けた。


 壇上にはアルフレッドが立っていた。灰色の瞳は冷静に、だが揺るぎなく人々を見渡す。その隣に並ぶリリアナの姿に、ざわめきが広がった。

「奥方ではないのに……?」

「辺境伯様のすぐ隣に?」

 ひそひそ声は抑えられていたが、耳に届くには十分だった。リリアナは胸の奥に小さな痛みを覚えたが、背筋を真っすぐに伸ばした。彼の隣に立つ以上、迷いは許されない。


 アルフレッドは杖を持つマティアスに合図し、場内に静けさが落ちる。

「領民よ。王都の査閲は去ったが、揺さぶりは続くだろう。新たな税、関税、噂――それらは我らを弱らせるためのものだ」

 彼の声は石壁に響き、冷気を震わせた。

「だが、我らは揺るがぬ。港も鉱山も市場も、命を守る規則を持ち、笑う日常を積んでいる。数字も、暮らしも、すべてはここにある」


 言葉に合わせて、リリアナが帳簿を掲げた。孤児院の物資支出、鉱山の休憩規定、市場の出入り。紙に刻まれた数字は、人々の目に確かな形を与えた。

「わたくしは見ました。市場で俵を支える人々を。孤児院で笑う子どもたちを。鉱山で呼吸を整える作業員を。これらは数字の裏にある日常です」

 声が震えそうになるのを抑え、彼女は言葉を継いだ。

「王都の噂がどうであれ、この地は“当たり前”を積み上げることで強くなれると、そう信じています」


 場内のざわめきはやがて静まり、代わりに誰かが手を打つ音が響いた。孤児院の院長だった。その拍手が波紋のように広がり、次々と音が重なる。

「……おお」

「そうだ、俺たちの日常を守るのはここなんだ」

 人々の目に迷いは消え、壇上に立つ二人をまっすぐに見ていた。


 その夜。議場から戻った城館の回廊で、リリアナは深く息をついた。

「……わたしで良かったのでしょうか。皆の前で隣に立つなど」

「良いも悪いもない」

 アルフレッドは足を止め、灰色の瞳で彼女を見た。

「俺が選んで隣に立たせた。揺さぶりが来ると分かっている以上、示さねばならぬことがある」

「示す……?」

「俺の隣に誰が立つかを、だ」


 短い言葉だったが、胸に熱が広がった。義務のようでいて、義務だけではない。そんな気配がその瞳にはあった。

 リリアナは両手を胸の前で重ね、灯火の揺らぎを見つめた。

「……ならば、わたくしは明日も隣に立ちます」

 返答はなかった。ただ、彼の横顔がわずかに和らいだように見えた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。次の刻は、王都からのさらなる波が押し寄せる様をお届けいたします。どうぞご期待くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ