表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/68

第013話 ー嵐の前触れー

おかえりなさいませ。本日は王都からの揺さぶりの影をお目にかけました。嵐を前にした静けさを、どうぞ胸に留めていただければ幸いにございます。

査閲官の馬車が去って三日。城館の中は一見落ち着きを取り戻したように見えたが、人々の表情の奥にはまだ緊張が残っていた。市場の人々は荷を並べながら周囲を気にし、鉱山の作業員たちは規則を守りつつも、どこか息を潜めている。


 リリアナは朝の光に照らされた城館の回廊を歩きながら、胸の奥にざわめきを感じていた。机に並べた記録の束が重く見える。数字は正しい。改善も進んでいる。けれど、王都の目は領地から離れてはいない。次に何を仕掛けてくるのか、分からないままだ。


「お嬢様」

 エマが足早に近づき、手紙を差し出した。封蝋は王都の商会のもの。開けば、冷ややかな文が目に飛び込む。

「王都より、羊毛取引に関する新たな規則が定められた、と……?」

 紙には細かい条文が並び、辺境からの出荷には追加の関税を課すと記されていた。まるで査閲の直後を狙ったような一手だ。

 リリアナは唇を噛んだ。

「……揺さぶりは終わっていなかったのね」


 執務室では、アルフレッドが地図の上に新たな印を加えていた。港、鉱山、市場、そして街道の分岐点。

「王都は財を絞るより、人心を削ぐことを狙っている。暮らしが揺らげば、声は容易に折れるからな」

「どうすれば……?」

「答えは単純だ。暮らしを止めぬこと。それだけだ」

 アルフレッドの声は静かだが、灰色の瞳は確かに火を宿していた。


 その午後、リリアナは市場に足を運んだ。人々は関税の噂にざわめき、商品の値をどうするか口論が起きていた。ミリアが帳簿を抱えて駆け寄る。

「王都の商人たちが、すでに値を吊り上げ始めたよ。このままじゃ暮らしが苦しくなる」

「値を吊り上げるより、暮らしを回す方が大事です」

 リリアナは俵の積み方や帳簿を確認しながら、声を落ち着けた。

「まずは食料を優先して確保しましょう。布や贅沢品は一時的に控えても、人は生きていけます」

「……分かった。子どもたちの冬の上着だけは外せないから、毛糸を先に抑えるよ」

「ありがとう、ミリア」


夕暮れ、孤児院を訪れると、子どもたちが縄跳びをしていた。だが院長は眉を寄せ、手元の帳簿を見ている。

「薪の値が一気に上がりましてね。冬を越すには心許ない」

 リリアナは俯いたが、すぐに顔を上げた。

「港の倉庫に残っている燃料を調べます。……それと、木炭の粉や泥炭を混ぜて固めれば、代わりの燃料にできます」

「木炭の粉を……?」

「はい。炭を割る時に出る屑を粘土や藁と練って乾かせば、団子のように燃えます。泥炭も、湿地で取れるものを干せば火力は十分です」

 院長の目に希望が灯った。

「なるほど……高価な薪だけに頼らずとも、生き延びる手はあるのですね」

「必ず冬を越しましょう。そのために工夫できることは、まだいくらでもあります」


 夜。リリアナは机に向かい、今日見たことを紙に記した。王都の冷たい一手に対して、辺境が選ぶのは暮らしを守る小さな工夫。薪一本、毛糸一巻き。それを守ることが、領地全体を守ることに繋がるのだ。

「嵐は来る。でも……燃やす火を絶やさなければ」

 窓の外では、雲が厚く広がり始めていた。風はまだ静かだが、確かに嵐の前触れが空気を重くしていた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。次の刻は、この嵐に抗う人々の知恵と力をお届けいたします。どうぞお楽しみにお待ちくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うーむ。 新鮮な文体で良いと思うが リリアナがなぜ辺境に?誘われて行くにしては描写が足りない感じが。 ちなみに婚約者を奪われた描写はいずれ出るのか? 辺境に行ったのは嫁いだからなのか? どれもそれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ