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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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121/197

第121話 ー立ち位置の差ー

おかえりなさいませ。

本日は、同じ場に立ちながら生まれる立ち位置の差をお届けいたします。

会場の中央では、淡々とした進行が続いていた。


 孤児院の運営報告。

 寄付の内訳。

 次年度に向けた支援計画。


 どれも真新しい話ではない。だが、形式的であるがゆえに、参加者は安心して周囲を観察できる。誰が熱心に聞き、誰が退屈そうにしているか。誰が頷き、誰が視線を外すか。


 それらすべてが、評価の材料だった。


 リリアナは、席を立つことなく話を聞いていた。頷きすぎない。だが、無関心にも見えない。必要な箇所だけ、視線を向ける。王都で身につけた、静かな距離感だ。


 (……以前と、同じ)


 そう思いかけて、すぐに否定する。


 以前と違うのは、隣にいる存在だった。


 アルフレッドは、終始動かない。

 だが、その動かなさが、場に一種の安定をもたらしている。


 誰かが声を張り上げれば、それだけで浮く。

 誰かが過度に共感を示せば、それもまた目立つ。


 その中で、二人は“基準”として扱われ始めていた。


 「……夫人は、よく聞いていらっしゃる」


 小声で囁かれた評価が、背後を流れていく。褒め言葉とも、牽制とも取れる曖昧な言い回し。リリアナは、気づいていないふりを続けた。


 しばらくして、簡単な歓談の時間が設けられる。


 人が、動く。


 だが、リリアナの周囲には、すぐには誰も来なかった。


 (……来ない)


 それは、避けられているわけではない。

 “様子を見られている”。


 誰が最初に声をかけるか。

 誰が、どの位置から入るか。


 その判断を、皆が待っている。


 その空気を切ったのは、意外にもセレナではなかった。


 中立寄りの貴族夫人が、ゆっくりと歩み寄る。

 声は低く、表情は穏やかだ。


 「ご無沙汰しております。

  ……今日は、良いお話でしたね」


 無難な入り口。

 だが、その後ろに、視線がいくつも続く。


 リリアナは、静かに微笑んだ。


 「はい。現場の声が、きちんと反映されていると感じました」


 それ以上でも、それ以下でもない返答。

 だが、相手の夫人は、わずかに目を細める。


 ――逃げない。

 ――盛らない。


 それが、伝わった。


 少し離れた所からその様子を見ていたセレナは、扇子を閉じる。


 (……位置が、違う)


 同じ場に立っているはずなのに、

 立っている“位置”が、違う。


 前に出てもいない。

 目立つ言葉もない。


 それでも、中心に近づいている。


 (……どうして)


 答えは、見えていた。


 リリアナは、場に合わせていない。

 場が、彼女に合わせ始めている。


 それを決定づけているのが、

 隣に立つ辺境伯の存在だと、

 セレナは理解してしまった。


 アルフレッドは、何もしていない。


 ただ、崩れずに立っているだけだ。


 その事実が、

 セレナの胸に、じわりと重く沈んだ。


 この席で示されたのは、

 言葉ではない。


 ――立ち位置の差。


 それが、最も残酷な評価だった。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

言葉より先に示される評価は、ときに何より雄弁でございます。

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