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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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120/194

第120話 ー交わる視線ー

おかえりなさいませ。

本日は、用意された席に到着し、最初の視線が交わる刻をお届けいたします。

会場に近づくにつれ、馬車の数が増えていった。


 王都北区の公的施設。

 石造りの外観は質素で、華美な装飾はない。慈善名義の催しに相応しい佇まいだった。だからこそ、余計な緊張が生まれる。ここは飾る場所ではなく、見られる場所だ。


 馬車が止まる。


 先に降りたのはアルフレッドだった。周囲を一瞥し、動線を確かめる。その仕草に、警戒はない。だが油断もない。


 差し出された手に、リリアナは一瞬だけ視線を落とし、静かに預けた。触れたのは一瞬。けれど、その短さが、かえって落ち着きを与える。


 「……行きましょう」


 小さく頷き、二人は並んで歩き出す。


 入口を越えた瞬間、空気が変わった。


 声は控えめ。

 笑みは丁寧。

 だが、視線だけが、遅れてこちらへ集まってくる。


 誰かが名を呼ぶことはない。

 挨拶も、すぐには来ない。


 ――測られている。


 それを、リリアナははっきりと感じ取った。王都で過ごした日々が、身体に覚えさせた感覚だ。だが今回は、視線の重さが違う。ひとりで受け止めるものではない。


 アルフレッドは、歩調を変えない。

 前にも出ず、後ろにも下がらず、ただ並ぶ。


 その並びが、ひとつの答えだった。


 「辺境伯様……辺境伯夫人」


 控えめな声で、主催側の文官が近づく。形式的な挨拶。必要最低限の案内。過度な親しさはない。だが、無視もされない。


 案内が終わると、再び視線が戻る。


 その中で、ひとつだけ、動きのある気配があった。


 少し離れた位置。

 柱の影に近い場所。


 セレナだった。


 扇子の向こうから、視線がこちらに向けられる。隠そうとしたわけではない。ただ、近づかないという選択をしている。その距離が、意図を語っていた。


 (……来たのね)


 驚きはない。

 だが、想定より早い。


 リリアナは、無意識に息を整える。

 視線を逸らさない。

 逸らす理由が、もうなかった。


 その瞬間、セレナの目がわずかに細まった。


 比較が、始まったのだ。


 装いでも、言葉でもない。

 立ち方。

 間合い。

 隣にいる人物との距離。


 リリアナは、肩の力を抜いた。


 ここは戦う場ではない。

 弁明する場でもない。


 ただ、立つ場だ。


 アルフレッドが、ほんのわずかに視線を向ける。問いではない。確認でもない。そこにいる、という合図だった。


 リリアナは、静かに前を向く。


 交わったのは、ほんの一瞬の視線。

 だが、その一瞬で、十分だった。


 この席が、

 用意された“場”であること。

 そして、その場に立つ覚悟が、

 すでに整っていることを。


 王都は、まだ静かだ。


 だが今、確かに、

 何かが始まろうとしていた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

交わされた視線は、言葉よりも雄弁に立ち位置を示してくれるもの。

次の刻では、その場で生まれる小さな波紋が描かれてまいります。

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