第118話 ー用意された席ー
おかえりなさいませ。
本日は、静かに用意された“場”の輪郭をお届けいたします。
その“場”は、特別なものではなかった。
王都では、季節ごとにいくつもの催しが開かれる。
夜会、茶会、寄付の集い、学術の報告会。
名目は違えど、貴族が顔を揃える理由はいくらでもある。
だからこそ、今回もまた、違和感は薄かった。
「……慈善名義、か」
アルフレッドは、届けられた予定表に目を落とした。
王都北区の公的施設。
主催は中立寄りの貴族家。
後援に、王妃派の名がいくつか連なっている。
露骨ではない。
だが、偶然とも言い切れない。
「孤児院への寄付と、運営報告。
それに合わせた、小規模な社交の場……」
マティアスが淡々と補足する。
「表向きは善行。
しかし、出席者の顔触れは、慎重に選ばれております」
アルフレッドは、ゆっくりと頷いた。
「噂を広げる場ではない。
“確認する場”だな」
誰がどう振る舞うか。
誰が誰に声をかけるか。
そして――誰が、どの位置に立つか。
それを見せるための席。
◆
一方、その話は、セレナの耳にも届いていた。
「……孤児院、ですって?」
意外そうな声を出しながら、彼女は内心で納得する。
夜会ではない。
華やかさもない。
だからこそ、警戒されにくい。
(上手いわね……)
公の場でありながら、感情を表に出しにくい。
同情と評価が同時に生まれる。
しかも――
「辺境伯夫人も、出席予定だそうです」
その一言で、セレナの指先が止まった。
(……やっぱり)
用意された席。
だが、立つ位置までは指定されていない。
ならば、自分がどう映るかは、まだ決まっていない。
(同じ場にいれば……比較される)
それが、狙いだとわかっていても、
乗らずにはいられなかった。
◆
リリアナは、その招待状を静かに眺めていた。
慈善。孤児院。
王都で過ごした頃、何度も足を運んだ場所だ。
「……行くべき、ですよね」
確認するような声。
アルフレッドは、即座に答えなかった。
彼女を見る。
迷いではなく、覚悟を測る視線。
「無理に、とは言わない」
それでも、逃げ道を塞がない。
リリアナは、少し考えてから、顔を上げた。
「……逃げたくはありません」
昔の自分なら、そう言えなかった。
だが今は違う。
「ただ、静かに。
必要以上に、前へ出ずに」
アルフレッドは、その言葉に、わずかに頷く。
「それでいい。気負いするな。」
守る、と言わない。
だが、支える意思は、はっきりとそこにあった。
◆
王都では、すでに噂が一歩だけ進んでいた。
「次は、あの席で分かるでしょう」
「何が、ですの?」
「……どちらが“相応しいか”」
誰も断定しない。
だが、誰もが期待している。
用意された席で、
何かが“見える”ことを。
その期待こそが、
この場の正体だった。
そしてアルフレッドは、
そのすべてを把握した上で、
静かに時計を進めていた。
席は用意された。
あとは――
誰が、どう立つか、だ。
最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。
席が整った時、人は自らの立ち位置を試されるもの。
次の刻では、その場で交わる視線が描かれてまいります。




