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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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115/189

第115話 ー触れない距離ー

おかえりなさいませ。

本日は、言葉にせずとも通じる距離の変化をお届けいたします。

王都の夕暮れは、どこか人の心を試すように静かだった。


 宿へ戻る馬車の中、リリアナは窓の外を眺めていた。通り過ぎる街並みは見慣れたはずなのに、今はどこか他人行儀に見える。自分の居場所が、もうここではないと、無意識に理解しているからかもしれない。


 「……王都にいると、少しだけ疲れますね」


 独り言のような声だった。


 アルフレッドは、すぐには答えない。馬車の揺れに合わせ、視線を外へ向けたまま、ほんの一拍置く。


 「無理をしている自覚はあるか」


 「はい。でも……放っておくわけにもいかなくて」


 誰かの視線にさらされること。評価されること。慣れているはずなのに、以前とは違う重さがある。辺境伯の妻として見られる今、その重さは彼と共有するものになっていた。


 「お前が前に出る必要はない」


 アルフレッドの声は低く、だが柔らかい。


 「俺がいる。だから、下がれ」


 命令ではない。選択肢を奪う言い方でもない。ただ、そうしていいのだと、静かに示される。


 リリアナは、少し驚いたように彼を見る。


 「……それは、逃げではありませんか」


 「違う」


 即答だった。


 「役割分担だ」


 その言葉に、リリアナは思わず息を吐く。王都では、誰かに役割を預けることなど、ほとんどなかった。自分で耐え、自分で立つしかなかったから。


 「……頼っても、いいのですね」


 問いかけは小さかったが、意味は重い。


 アルフレッドは、視線をこちらへ戻す。


 「最初から、そのつもりだ」


 それ以上の言葉はない。だが、馬車の中で流れる沈黙は、先ほどよりも穏やかだった。


 リリアナは、ふと気づく。馬車が揺れるたび、彼の肩が、ほんのわずかに近い。触れてはいない。だが、離れてもいない。


 (……この距離)


 王都にいた頃には、なかったもの。


 「辺境へ戻ったら……」


 リリアナは、思いついたように口を開く。


 「静かになりますね」


 「そうだな」


 「……それが、少し楽しみです」


 その言葉に、アルフレッドの口元が、わずかに緩んだ。


 触れないまま、距離だけが縮んでいく。


 それは、王都の視線よりも確かに、

 リリアナの心を支えていた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

寄り添う形は様々ですが、触れない距離にも確かな温度がございます。

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