第114話 ー測られる価値ー
おかえりなさいませ。
本日は、王都が人の価値を量る、その静かな視線をお届けいたします。
王都の社交は、言葉よりも視線で人を測る。
リリアナが通り過ぎると、会話は一瞬だけ途切れ、すぐに再開された。名を呼ばれることも、露骨に噂されることもない。ただ、判断だけが静かに下されていく。その空気を、彼女はよく知っていた。王都で暮らしていた頃から、何度も味わってきたものだ。
「……変わっていませんね」
馬車に乗り込んだ後、思わず零れた言葉に、アルフレッドは視線を向けた。
「懐かしいか」
「いいえ。どちらかと言えば、思い出した、という感じです」
王都は人を迎え入れるが、決して守らない。価値があるかどうかを見極め、不要と判断すれば、何も言わずに距離を取る。それが、この街のやり方だった。
「だが、以前とは違う」
アルフレッドの声は低いが、断定的だった。
リリアナは小さく首を傾げる。「そうでしょうか」
「以前は、お前一人を見ていた。今は――」
彼は言葉を切り、馬車の外へ視線を向けた。
「俺と並んで見ている」
その意味を、リリアナはすぐに理解した。誰かの付属物としてではなく、辺境伯の妻として、対等な位置で測られている。好意か悪意かは問題ではない。ただ、立ち位置が変わったのだ。
「……少し、息が詰まりますね」
正直な感想だった。守られているのはわかる。それでも、視線が増えるということは、責任も増える。
「無理に応えなくていい」
アルフレッドは即座に言った。「評価は、結果で返すものだ。今は立っていればいい」
その言葉に、リリアナは胸の奥が静かになるのを感じた。何かを証明しろとは言われない。ただ、ここにいろ、と。
その頃、セレナの元にも、同じ空気が届いていた。
「……最近、夫人の名がよく出ますね」
何気ない一言。だが、その後に続く言葉がないことが、何よりも苛立たしかった。否定も、同調もない。ただ、話題が次へ移る。それは、意見を述べる価値すら与えられていない、ということだった。
(……測られているのは、私じゃない)
セレナはそれを認めたくなかった。かつて中心にいた自分が、いつの間にか外縁に追いやられている。その事実が、じわじわと効いてくる。
一方で、王都の流れは止まらない。
リリアナは静かに立ち、アルフレッドは何も誇示しない。ただ並び、崩れず、余計な言葉を持たない。その姿勢そのものが、王都にとっては最も厄介だった。
測っても、揺らがない。
その価値に気づいた者から、視線は離れなくなっていく。
最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。
測られる側が揺らがぬとき、視線の意味は少しずつ変わってまいります。




