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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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113/185

第113話 ー静かな視線ー

おかえりなさいませ。

本日は、言葉なき視線が交差する、

王都の静かな一日をお届けいたします。

翌朝の王都は、昨夜と変わらぬ顔をしていた。


 街路を行き交う人々の足取りは軽く、

 噂を孕んだ気配は、表には出てこない。


 だが、

 何も起きていないように見える時ほど、

 水面下では、視線が交差している。


 ◆


 アルフレッドは、政庁から届いた定例の書簡に目を通していた。


 内容は平凡だ。

 会合の予定、 通商の報告、特に波風の立つ

ものではない。


 それでも、

 彼は最後の一行で、指を止めた。


 ――「近頃、セレスティア家に関する話題は沈静化の傾向にあります」


 沈静化。


 その言葉は、終わりを意味しない。


 むしろ、“次に動くための間”だ。


 「……見られているな」


 独り言のように呟くと、

 マティアスが一歩前に出る。


 「はい。表立った動きはございませんが、

  視線は、確かに夫人に向けられております」


 アルフレッドは頷いた。


 攻撃ではない。探りだ。


 噂が通じないと知った者たちが、

 次に選ぶのは、“直接の評価”。


 「……だからこそ、

  こちらが崩れぬことが重要だ」


 彼は書簡を畳み、机に置く。


 感情を見せず、揺らがず、

 ただ事実として立つ。


 それが最も効く。



 ◆



 同じ頃、

 リリアナは王都の街を歩いていた。


 護衛は控えめに。

 目立たぬ距離を保っている。


 彼女自身も、

 派手な装いはしていない。


 かつて住んでいた街。

 見慣れた通り。


 それでも、どこか違う。


 (……見られている)


 誰かが指をさすわけでもない。

 声をかけられることもない。


 ただ、視線が、すぐに逸らされる。


 好奇ではない。

 敵意でもない。


 評価だ。


 王都に生きる者たちが、

 何かを測る時の、あの沈黙。


 リリアナは、足を止めなかった。


 背筋を伸ばし、

 視線を前に向ける。


 (……私は、私でいるだけ)


 それでいい。


 誰かの物語に、

 自分を当てはめる必要はない。



 ◆



 一方、

 セレナはその様子を、

 遠くから聞き知っていた。


 「……何も、言われていない?」


 返ってきた答えに、

 苛立ちが混じる。


 噂もない。

 批判もない。


 それは、

 自分が望んでいた形ではなかった。


 (……無視されている?)


 その感覚が、じわじわと効いてくる。


 かつては、自分が中心だった。


 話題の輪の中に、自然と名が出た。


 それが今は、

 リリアナの名が出ても、

 自分の名は添えられない。


 「……そんなはずはないわ」


 扇子を握りしめ、

 セレナは唇を噛む。


 まだ、終わっていない。

 終わらせない。


 だが、

 その思いとは裏腹に、王都の視線は、

 確実に別の場所へ向かい始めていた。



 ◆



 夕刻。


 リリアナが戻ると、

 アルフレッドが迎えた。


 「……街は、どうだった」


 問いは短い。


 リリアナは、

 少し考えてから答える。


 「静かでした。

  でも……見られている気は、しました」


 アルフレッドは、

 それを否定しない。


 「それでいい」


 「……え?」


 「今は何かを言われるより、

  何も言われない方が、

  ずっと安全だ」


 リリアナは、

 その意味を、

 すぐに理解した。


 守られている。

 だが、

 閉じ込められてはいない。


 彼女は、小さく頷く。


 「……信じています」


 その一言で、十分だった。


 王都の空気は、

 今日も静かだ。


 だが静かな視線は、 確かに、

 次の局面を待っている。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

語られぬ評価は、やがて形を持って現れてまいります。

次の刻も、どうぞお楽しみくださいませ。

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