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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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111/182

第111話 ー届かなかった声ー

おかえりなさいませ。

本日は、静かに引かれた線が、

誰の声を内に残し、誰を外へ押し出したのかをお届けいたします。

噂は、思ったよりも早く足を失った。


 茶会の翌日。

 王都の社交の場では、

 同じ話題が、同じ熱量で繰り返されることはなかった。


 「……確認が回ってきましたわね」

 「ええ。正式な婚約の記録は無い、と」


 断定はされない。

 だが、“筋”として語られていた物語は、

 行き場を失っていく。


 アルフレッドが回したのは、

 事実だけを並べた整理文だった。

 余白を埋める言葉は、ひとつもない。


 その静けさが、

 噂を語る者たちの舌を重くした。



 ◆



 同じ頃、セレナは違和感を覚えていた。


 いつもなら、

 半日もあれば返ってくるはずの返書が、

 届かない。


 扇子を閉じ、

 机に置かれたままの便箋を見る。


 (……おかしいわ……)


 自分は、

 何も言っていないはずだ。

 ただ、

 “そう受け取られても仕方のない話”を

 置いただけ。


 それなのに、

 王都の空気が、

 こちらを避けるように動いている。


 (……どうして……)


 助け舟が来ない。

 同調の囁きも、減っている。


 代わりに聞こえてくるのは、

 「確認が回った」という、

 どこか距離のある言い回し。


 “確認”。


 それは、

 味方が使う言葉ではなかった。


 セレナは、

 胸の奥が、じわりと冷えるのを感じる。


 (……まだ……

  まだ、取り返せる……)


 そう思おうとするほど、

 根拠が薄れていく。



 ◆



 一方で、

 リリアナは、

 その変化を知らない。


 窓辺で、

 書類に目を通しながら、

 ふと、顔を上げる。


 「……王都、

  今日は静かですね」


 何気ない一言だった。


 アルフレッドは、

 その横顔を見て、

 短く答える。


 「そうだな」


 それ以上、

 何も付け加えない。


 知らせないのは、

 隠すためではない。

 守るためだ。


 リリアナが、

 噂の重さを背負う必要はない。


 今はまだ。



 ◆



 その日の夕刻。


 セレナの元に、

 ようやく一通の返書が届いた。


 短い文面。

 丁寧だが、

 温度はない。


 ――「事実関係が整理されました」

 ――「これ以上の言及は控えるのが賢明でしょう」


 それだけ。


 味方でも、

 敵でもない。


 ただの“距離”だった。


 セレナは、

 便箋を握りしめる。


 (……届かなかった……)


 自分の声が、

 もう、

 届く場所がないことを、

 はっきりと理解してしまった。


 王都の空気は、

 今日も穏やかだ。


 だが、

 その穏やかさは、

 誰にでも等しく与えられるものではなかった。


 静かに引かれた線は、

 確かに、

 彼女を外側へと押し出していた。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

語られぬまま失われる声もまた、王都の現実でございます。

次の刻では、その線を越えようとする動きが現れてまいります。

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