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姉に婚約者を奪われた令嬢、辺境伯の最愛の妻になって王都を見返す  作者: 影道AIKA


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103/172

第103話 ー噂が形を変えた夜ー

おかえりなさいませ。

本日は、公爵家の中立の記録によって明かされる、

“色被り”から生まれた歪んだ感情と、噂の源をお届けいたします。

夜会を催したラングフォード公爵家――

 王都でも最古の名門であり、どの派閥にも属さぬ中立の雄。


 公爵家は、この夜会に限り“独自の警備強化”を敷いていた。

 王妃派と改革派の緊張を察し、

 巡回する補佐官と侍従の数を倍に増やしていたのだ。


 この情報は、公爵家の内部だけに共有され、

 王妃派であるセレナの耳に届くことはなかった。



 アルフレッドは、手にした記録の一枚をめくる。


 「……ここからは、当夜の“事実”だ」


 セレナが小さく身じろぎした。



 「『回廊にて、

   リリアナ嬢へ侮辱に類する発言を行うセレナ嬢を、

   増員巡回中の補佐官が確認。

   同時刻、後方にいた侍従二名も同様の発言を聞き取った』」


 広間に、薄いざわめきが走る。


 リリアナは静かに目を伏せた。

 驚きはない。

 公爵家があの夜の出来事を記録していたことは、

 すでに理解している。


 (……そう。

  あの時、誰もいないと思っていた場所にも、

  目があったのね)


 胸の奥に、静かな納得が生まれる。



 セレナの扇子が震える。


 「そ、それは……!

  わたくし、てっきり……誰もいないと思って……」


 その言葉は、

 “人に聞かれていないからこそ口にした侮辱”だと

 自ら認めたに等しかった。



 アルフレッドは、淡々と続きを読み上げる。


 「次は、噂の拡散についての記録だ」


 紙がめくられる。


 「『セレナ嬢はその後、

   親しい二名の令嬢へ

   “妹がわたくしを傷つけた”

   “昔からあの子はそうなの”

   と説明』」


 セレナの肩が震えた。


 「ち、違いますの……!

  あれは……わたくしが少し気落ちして……

  ただ、愚痴をこぼしただけで……!」


 しかし記録は、容赦なく続く。


 「『令嬢二名はセレナ嬢の言葉をそのまま信じ、

   いずれも内容の誇張・改変は行っていない。

   後日、公爵家の聞き取りにて確認。』」


 広間が大きく揺れた。


 令嬢二名は“悪意の加害者”ではない。

 セレナの言葉を、

 そのまま“事実”として受け取ってしまっただけだった。


 リリアナは胸の奥に鋭い痛みを覚えた。


 (……姉様は……

  あの時、そんなふうにお話しになっていたの……)


 アルフレッドは紙を伏せる。


 「セレナ嬢。

  あなたが口にした“嘘の前提”が、噂を生んだのだ」


 セレナの瞳が揺らぐ。


 「わ、わたくしは……!

  あの夜……とても惨めで……」


 言葉が途切れ、

 それでも絞り出すように続けた。


 「……わたくしのドレスの色が、

  よりにもよってリリアナと被ってしまって……

  本来なら、目を引くのは姉であるわたくしのはずなのに、

  “控えめな妹が新鮮だ”なんて声ばかりで……

  皆の視線が、あの子の方へ向いて……」


 セレナの指先が扇子を強く握りしめる。


 「それが全部、

  あの子がわたくしの真似をしたせいに思えてしまって……

  昔から、そうやって……

  わたくしの立場を、少しずつ奪っていくのだと…… 」


 その告白は、

 幼い頃から積み重なった劣等感と見栄の重さをにじませていた。


 中立派の老貴族が静かに言う。


 「だが、あなたのその感情の発露は、

  妹の人生を縛る噂へと姿を変えた。

  その責は、いずれあなた自身が負うことになるだろう」


 セレナは唇を噛みしめ、言葉を失った。


 リリアナは瞳を閉じる。

 怒りよりも、ただ静かに胸が痛んだ。


 (……姉様……

  あの日の色被りは、偶然でしかなかったのに……

  わたくしは、ただ……

  同じ家の娘として、恥をかかせぬようにと願っていただけで……)


 だが真実が明らかになった今、

 もう噂が彼女を縛ることはない。


 アルフレッドが締めくくる。


 「以上が、公爵家が記録し、中立の立場から保管していた“事実”だ」


 広間は静かな、しかし確かな理解の空気に包まれた。


 噂という影は――

 いま、確かにその形を露わにされたのだった。

最後までお付き合いくださり、誠に光栄にございます。

セレナが自ら生み出した噂の影が姿を現し、

物語は次なる裁きと決着へと静かに歩みを進めてまいります。

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