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クラスのお嬢は身の程なんて構わない!  作者: 舟渡あさひ
ガールズバンドは平穏知らず
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第72話 そらみたことか! ですわー!

「ほら吹! 金魚すくいがありますわ! 次はアレにしましょう!」


 射的屋から出禁を食らったことなど気にもとめず、金魚すくいの屋台に爆進するディナ。


 俺の手には駄菓子。出禁にしつつも取った景品はちゃんとくれるあたり優しいおっちゃんだったな。


「店主。一回いくらかしら?」


「おっ! 嬢ちゃんウチの金魚よりいい色の髪してんじゃないの! ポイ一個サービスしたろか?」


「いえ、でしたら後ろの彼にもやらせますので、二人分の値段を少し割り引いていただけます?」


 えっ俺?


「カーーッ! 商売上手だねぇ! よし! 二人で千円のところを八百円! これでどうだ!」


「ではそれで」


 決まってしまった。目を白黒させている間にちゃっかり俺の分まで支払われ、ポイと器を渡される。


 美人って得だなあと思っていたら隣にいただけの俺まで得してしまうなんて。美人ってすごい。


「さて吹。金魚すくいのコツはご存じかしら?」


「えーと……確か頭から狙うといいんだっけ?」


「ええ。魚は後ろには泳げませんから、進行方向からポイを入れ、なるべく水の抵抗が少なくなるよう水平に動かすのがいいとされていますわ」


「とはいえ金魚って素早いし、頭から狙っても普通に方向転換されたりするんだよね。だからって焦るとすぐ破けちゃうし」


 結論として、個人的にはどこを狙うとかポイの角度とかよりも、警戒されないようゆっくりと、金魚と呼吸を合わせてすくうのが確実だと思っている。


 けどこれは、ディナの性には合わないだろうな。


「そうですわね。だから一番力を入れなければいけないのは――ズバリ、速度ですわ」


 ほらみたことか。脳筋プレイの極みみたいなこと言い出した。


 ほら、そこの少年少女たち。聞き耳を立てないの。絶対参考になんかならないから。


「まず、振りながら空気を切り裂き、ポイの周囲に真空を作り出しますわ」


「なんて??」


 少年少女たち。君を塞ぎなさい。真空というワードに目を輝かせないの。


「真空ですわ、真空。そうするとポイが濡れずに済むでしょう?」


「それはそうかもしれないけども」


 まず普通に振っても真空なんて出来ないとか、その前に風圧で破けないかとか、物理法則ねじ曲がってないかとかについて詳しく。


「そしてそのまま金魚周囲の水ごと抉り取るんですの」


 ディナ気づいて。屋台のおっちゃんがやべえやつ招いてしまったかもしれないみたいな顔してる。


 俺もしてる。やべえって顔。気づいて。そして止まって。


「あとはそれを器で受ければ完了ですわ。まあ百聞は一見にしかずといいますし、実際にやってみせたほうが早いですわね」


「うん、その前に一回止まろうか。もう既に大惨事の予感が――」


「行きますわよ――!」


「振りかぶらないで! ちょっまっ――」


「せぇいッッ!!」


「ぶわぁーー!?」


 右から左へ。ディナが振り抜いたポイが、抉り取った水を豪快にまき散らす。それを俺が食らう。そして肝心の金魚はというと――


「うわー!? 隣の金魚が飛び込んできた!?」


「すげえ! 水流に乗って回転するスーパーボールを避けながら泳いでる!」


「デッドレースの始まりだぜ!!」


 隣の屋台で男子中学生の群れを賑わせ始めた。


「……とまあ、このように。この技を使うときは隣がスーパーボールすくいやヨーヨー釣りの屋台であることを確認すること。間違ってもたこ焼きなどの屋台がある場所では使ってはいけませんわ」


「謝りに行くよ」


「はい」


 金魚掬いが金魚救いになって、金魚はスーパーボールごとディナに救助され。そしてディナは二店舗から同時に出禁をくらいましたとさ。


 現在累計出禁三店舗。そのうち祭りそのものに来れなくならないか? これ。


「あっ吹! ほらそこ、輪投げの景品にハンドタオルがありますわよ! 今獲ってきますわね!」


「いいよ、このくらいならすぐ乾くから。それよりいい加減教えて欲しいんだけど」


「なにがですの?」


「……なにをそんなに焦ってるの?」


 自分の口から自然に出てきた単語で腑に落ちる。今日の空回り具合は格別でどうしたのだろうと思っていたけど、そっか。焦っていたのか。


 図星を突かれて気まずそうな顔を見るに、どうやら合っているっぽい。


「だって! 仕方ないじゃありませんの!」


 わっ、と堰を切ったように感情を爆発させるディナ。なにをそこまで溜め込ませてしまっていたのか、それも心配だけど、ここが人混みの真ん中だということも大概心配だ。


「あの、ディナ、せめてもう少し端に――」


「なぜか途中から依頼者は女子ばかりですし!」


 それはちょっと俺も思ってた。


「面子もなんなんですの!? 趣味が『友達の目を覚まさせること』だとか! 放火魔スレスレキャンパーとか! フリーダムなさみしがりとか! 筆談大食い女子とか年中漫才ガールズバンドとかー!」


「合ってるけど! 合ってるけど単語のチョイスがひどい!?」


「濃い!! 濃いんですのよ!! 誰も彼もみんな!!」


「そうだね、すごいよね、わかるけど一回落ち着いて――」


「こんな見た目で『ですわ』とか言っちゃってるのにキャラの薄さに悩むことになるなんて思ってませんでしたわよーーー!!」


「悩んでたの……?」


「そりゃそうですわよ! 吹の周りに女子ばかり増えて! 吹も吹で全員に優しいんですもの!」


「だって依頼者だし……」


「そうでなくても変わらないでしょうに!」


 それはそうかもだけど……そんなことを言われても俺にどうしろと言うのか。


 いや、俺にはどうしろとも求めてはいない。だから自分が変わろうとして……こんなに空回っちゃったのか……。


 正直、十分過ぎるほどディナも濃いのに。


 告白からの距離の詰め方とか。意味不明な寝相とか。料理するたびに発動する炎上癖とか。


「ごめん、わかったから一旦落ち着いて」


「なんですの大食いくらい! わたくしだってたこ焼きくらい二十パックくらいはーー!!」


「破裂する! 流石にそれは破裂するから――!」






〚へいおっちゃん! たこ焼きおかわり百パックーー!! (≧▽≦)ノ〛


「さっきも食ったろ!? 勘弁してくれ! 花火より先に在庫が尽きちまうよ!!」


 困る店主にホワイトボードを突きつける規格外ホンモノを見て、ディナが膝から崩れ落ちた。

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