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クラスのお嬢は身の程なんて構わない!  作者: 舟渡あさひ
ガールズバンドは平穏知らず
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第52話 教室では大人しくなさい!

「二人には、新曲の詞を出してほしい」


 そう告げる奈須さんの表情は相変わらず、感情の読み切れないフニャっとした笑顔だった。


「ええと……いくつかお聞きしたいのですけれど、まず、後夜祭にオリジナル曲で挑むおつもりですの?」


 動揺が見て取れるディナの問いに、留目さんが答える。


「当たり前でしょ。あたし達はプロ目指してバンドやってんの。いつだってどこだって、あたし達が演るのはあたし達の曲じゃなきゃ」


「他にできる曲がないってのが一番でかいけどなー」

「私たち、みんな音楽の趣味バラバラだもんねぇ」


「ちょっ!? なすびもきゅーりもしー! しーっ!!」


 今更黙ってももう全部聞いてしまったので、奈須さんも瓜守さんも、人差し指を立てる留目さんをスルーする。


「そんなわけだからさ、わざわざコピー曲の練習に時間かけるくらいなら、『おやさい販売機』ってバンドを知ってもらう機会にしたいんだよ」


「ダダすべりしたらごめんねぇ」


「いや、一緒に出る以上はそこはこっちの責任にもなるわけだし、全然大丈夫だよ」


「けれど、こちらも素人ですわよ? 詞を出せというなら努力はしますけれど、品質は保証できませんわ」


 わざわざ断るということは、ディナにもバーネロンド流作詞術的なものはないらしい。


 え? 俺?

 もちろん、右も左もわかりませんとも。


「まあ聞いてよ。ウチはあたしが作曲、とめとが作詞、そんで編曲しながら歌詞も調整して曲を完成させるのがきゅーりって役割分担なんだけどさ」


 瓜守さんの負担大きくない?


 面くらうこちらに構わず、ピッと。奈須さんが細い棒状のスナック菓子で留目さんを指す。


「とめとがスランプ中でなー。全然新作上げてこないんだわ」

「上げてんでしょ! なすびが却下するだけで!」


「面白くもないフルーツネタばっか上げるからだろ」

「面白さで曲作ってねーんだわ!」


 気を抜くとすぐケンカ始めるなこの二人。特に止めもせず微笑みをたたえたまま見守る瓜守さんの気持ちも少し分かる。


 キリがない。し、仲がいい故のケンカは、見ていてどこか微笑ましいんだ。

 ちょいちょいエスカレートしすぎるけど。


「そんな文句ばっか言うならなすびが書いてくればいーじゃん!」

「そう言うと思って、書いてきました」


「「「「え?」」」」


 流石に予想外だったのか、留目さんどころか瓜守さんからも驚きの声が上がる。


 ディナからも。奈須さんが書いてきてそれが採用されるなら俺たちに頼む必要はないはずだけど――。


「ふぅん? 殊勝な心がけじゃん。聞かせてみせてよ」


 ――ああ。なんとなく察した。


 少しずつ奈須さんの表情が読めるようになってきた気がする。


 かかった。留目さんの言葉にそんな顔をした。


 この詞、なにかある。


「じゃあはい、フッキー」

「えっ?」

「読んだげてよ。第三者に読んでもらったほうが余計な情報入りこまないし」


 訝しんだとたん、一枚のルーズリーフをほいと渡される。

 留目さんの目もつられてこっちに向いた。見定めてやるという目が。


 これ、中身がどうでも俺のせいになったりはしないよね? ええと、その肝心の中身は……。


 ……………………えぇ……(引)。


「どーしたの多々良? 早く読んでよ」


 留目さんはもう待ち切れないようだ。

 逃げ場がない。逃げ場がないから仕方なく読む。読むけども。


 あぁ、不憫だなぁ……。


「『あのね きっと 嫌だと思ったの

  あのね きっと 怒るんじゃないかって

  話してみなくちゃなんにも

  わかるわけないのにね』」


「えっ? なにこれ切ない系? なすびが? マジ?」


 まあ……ある意味……留目さんは切ないかもしれない…………。


 うっすら察し始めてるっぽいディナ、もうほぼほぼ察してるっぽい瓜守さん、もはやニヤけるのを堪えきれていない奈須さんに見守られながら続きを読む。


「『四六時中 一緒にいても

  わかんないこと

  たくさんあるね

  明日もまた 一緒だから

  伝えなきゃって思ったんだ』」


「えー!? なにこれエモいじゃん! なすびあんたこんなの書けたの!? もしかしてラブソング!? ラブソングだったりする!?」


 あぁ……良心が痛い……。

 留目さんには奈須さんが肩を震わせているのが見えていないのだろうか。


「『ごめんね ずっと言えなくて

  ごめんね ずっと隠してて

  今更だけど 聞いてくれる?』」


「めっちゃ焦らすじゃん! きゃー! 聞く聞く! いくらでも聞くって!」


 視界の端でスッと、奈須さんが僅かに椅子を引いたのが見えた。


「ちょっと多々良! そんなひっぱんないでよ気になるじゃん! 早く早く! ハリー!」


 そしてなにも気づかず急かしてくる留目さん。


 本当に、本当にこれを読むのか……。


 ゴクリと生唾を呑んでから、覚悟を決めて最後の二節を読み上げる。


「……『あのね とめとのお気にのピック』」


「んっ??」


「『うっかり割って 埋めました』」



 ガタンッ! ダッ――――!


 ガタンッ! ダッ――――!



「なすびーーーーーーっ!!」

「くははははっ! すまーん!」

「すまんで済むかーーーーっ!!」


「ちょっと! 夏休み中とはいえ教室ですわよ!」


 椅子を吹き飛ばす勢いで立ち上がって追いかけっこを始める二人。

 ディナの制止も耳に届いてなさそうだ。


「探してたのに! 探してたのにっ! お前のせいかーーっ!!」

「くははっ! だから謝ったじゃーん」

「あれが謝ったうちに入るかーっ!!」


「お二人とも! おやめなさい!」


「ピックなんて消耗品じゃんか。そんな怒んなよ」

「割れちゃったのは仕方ない! 勝手に使ったのも百歩譲っていいとする! なぜ埋めたァーッ!!」

「くはははははっ! ひーっ! 腹いてーっ!」


「笑うなこのおたんこなすびーーーっ!!」


「やめなさいと言っているでしょうッッ!」


「「ウワァーーーッ!?」」


 そしてディナのバーネロンド流格闘術が炸裂し、駆け回る二人は宙を舞った。


☆今日のLyrics☆


『とめとすまんのうた』


作詞:なすび


あのね きっと 嫌だと思ったの

あのね きっと 怒るんじゃないかって

話してみなくちゃなんにも

わかるわけないのにね


四六時中 一緒にいても

わかんないこと

たくさんあるね

明日もまた 一緒だから

伝えなきゃって思ったんだ


ごめんね ずっと言えなくて

ごめんね ずっと隠してて

今更だけど 聞いてくれる?


あのね とめとのお気にのピック

うっかり割って 埋めました

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