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クラスのお嬢は身の程なんて構わない!  作者: 舟渡あさひ
筆談少女は諦め知らず
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第44話 バーネロンド家へようこそですわ!

 果たしてレインコートを着た意味はどれほどあったのか。

 なかったよりはマシ程度にはびしょ濡れになったまま、自転車を道の脇に停めて見上げる。


「モデルハウスかな……?」


 暑中見舞いの裏に書かれていた住所。そこに建っていたのは、それはそれは機能的な見た目のデザイナーズハウスだった。


 これが、一般家庭……?


 確かに、端が見えないほど長い塀で囲われた立派なお屋敷、みたいな豪邸ではないけれど。

 ないけれど。変にリアルなお金持ちっぽさが余計に生々しい。


 未だ雨の勢いは衰えるところを知らないというのに、すっかり見上げて放心してしまうこと数分。


 いけないいけない、とかぶりを振ってインターホンに指を伸ばし、「あれ、そういえば親御さんが出てきたらなんて言えばいいんだ?」と逡巡することこれまた数分。


「……吹?」


 なにもしないうちに勝手に開いた扉から、ひょっこり出てきた金の瞳に捉えられた。


「あ、ディナ」


「な、なにをしているんですの? こんな天気の中こんなところで」

「あー、いや、ええと……」


 本気で困惑している視線が俺のびしょ濡れレインコートに刺さる。


 別に親じゃなくても言い訳には困った。結果。


「急に電話切れたし、外見たら大雨だったから、何かあったのかと心配になって……?」


 恥を忍んで素直に打ち明けることしか出来なかった。


 そうすることしか出来ないから耐え忍んでいるだけであって、好きで苦境に置かれているわけではないので、どうか口に手を当てて俯きながらプルプル震えだすのはやめてほしい。


「貴方と……いう人は……っ!」

「笑うならいっそ盛大に笑ってよ……」

「……っはぁ。いえ、これは感激ですわよ」


 笑ってくれたほうがよかった。


「とっとにかく、別になにもなかったんだよね?」

「ええ。心配かけてすみませんわね。次からはもう少し充電に気を配りますわ」


 やっぱり充電切れか。

 なんでもなくてよかったけど、肩透かし感がすごい。


「無事ならよかったよ。それじゃ、俺はこれで」

「それじゃあって、この雨の中自転車で帰るつもりですの? 危ないですわよ」


「来れたんだから大丈夫だよ」

「そういうわけにも行きませんわ。ちょっと上がって休んでいきなさいな」


「いや、そんな、悪いよ」

「風邪でもひいたら大変ですもの。それとも、本当に看病イベントを用意してくださるんですの?」


 こちらがディナに慣れてきたように。

 ディナもまた、どう言えば俺が折れやすいのかわかってきていることが伺える物言いだった。


「はぁ……それじゃあ、まあ、雨が弱まるまでお邪魔します」

「よろしい」


 ディナはご満悦の笑顔で頷くと、ドアを開け放ち俺を迎え入れ、鼻歌を口ずさみながらスリッパを並べていく。


 広い玄関。なのに不自然に靴が少ない。


「……もしかして、今家の人いない?」

「いえ、セバスがいますわ」


 セバス。そうだセバス!

 ディナが初めてウチに来たときに聞いた名前だ。確か掃除夫。


 ……こんな広い家に住んでて掃除夫を雇っているなんて、やはりそれはもう一般家庭の枠に収まらないのでは?


「セバスー? お客様ですわよー」


 まずい! まだ心の準備が――!


「あっあの! すみませんこんな急にびしょ濡れ……で?」


 脱いだ靴を整えてすぐ、勢いよく振り返った先には誰もいなかった。


 ――ウィィィガッ! ガッ! ガッ!


 代わりに足元から聞こえる機械音。それと連続する謎の小さな衝撃。


 視線を落とす。


「あら、セバスがこんなにすぐ懐くなんて。流石は吹ですわね」


「掃除……機?」


 そこには、俺の足に執拗に体当たりをかましてくるロボット掃除機がいた。


「セバスって、こr……この子?」

「ええ、ウチの掃除夫ですわ。かわいいでしょう?」


 残念なことに、ロボット掃除機のかわいさを判断できる目は持ち合わせていない。


 ただ、ディナの口調や温かな眼差しが、俺がかつぶしに向けるものと相違ないことに気づけたことが僥倖だった。

 そうでなければ失言していたと思う。


 かわいいかどうかにはどのみち言及しないけど。


「これ懐いてるの? めちゃめちゃ頭突きされるんだけど」

「愛情表現ですわよ。妬けてしまいますわね。わたくしには滅多にしてくれませんのに」


 ほんとにぃ?

 いや、でも確かにかつぶしもやる。

 ドンと頭をぶつけて、それから擦りつけてくるのはおねだりするときなどの必殺技。

 あれは確かに懐いてもらえている証拠だ。


 そう思えば意外とかわいく見えて……いやダメだな。


 白いボディに無機質に印字されたSEBASの文字がやけに敵意に満ちている気がする。


「ほら吹、タオルですわ。いつまでも突っ立ってないで上がりなさいな。レインコートはそこらに掛けておいて構いませんから」


「ああうん、ありがとう」


 言われた通り、レインコートは玄関で掛けさせてもらっておいて、借りたタオルで頭を拭く。


 落ち着く匂い。これはディナの家の匂いだろうか。


「さて、まずはシャワーですわね」


「……はい?」


「体を温めなければいけませんもの。浴槽にお湯を溜めるのは時間がかかりますけれど、先にシャワーだけでも浴びてしまいなさいな」


 クラスメイトの女子の家。

 降りしきる雨。濡れた体。

 そしてシャワーを借りるというシチュエーション。


 ――ウィィィガッ! ガッ! ガッ!


 なによりこの責め立てるような足への衝撃が、俺の第六感を刺激する。


 こ、このイベントは――――!

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