ログハウス
雑木林へ入って小枝を10本ほど拾った。
早速【廃品回収】でノートに変えた。
ノートに変えても余る分は懐紙に(チリ紙に)変えた。
当初の目的は果たせた…。
内心でウズウズしてるのは
「野っ原の草同様に雑木林の木は誰のものでもない」
という事実に基づく可能性…。
そうーー
範囲指定でさっきの草同様に根元からバッサリ回収してしまえるのではないのか?という事。
薬、調味料、植物油が得られたのは有り難かった。
ここの木々からは何を得られるのか。
楽しみだ。
「ふふふ…。範囲指定表示ボタンをタップ…」
思わずニヤケながら作業してしまう…。
「何に交換されるのかなぁ?」
と期待しながら
「回収・交換」
を選択するとーー
木材各種→ログハウス(小)or箪笥+ベッド+机+椅子
と表示された。
…ログハウス…。
ログハウスですか?
家?
小さいとはいえ、住む場所…。
それが製品化されて出て来るの?
(…うわぁ〜)
すごい、この世界、すごい…。
思わずアホの子みたいに口をポカンと開けて
呆然とした状態で数十秒フリーズしてしまった…。
「地球世界のあの地獄ぶりは一体何だったんだろうなぁ…」
と何故か虚しさを感じつつ…
当然、ログハウスを選ぶ。
(小)と付いてるとはいえ家だ。
ある程度以上の強度がある筈。
人の来ない場所に出して寝泊まり出来るようなら今後宿屋に泊まる必要すらなくなる。
これはマジで嬉しい。
ワクワクしながら目の前にログハウスが出現するのを見守る。
うん。ログハウスだ。
ホントにちっちゃい。
中は3畳くらいか。
天井も低い。
大型犬の犬小屋みたいにも思えるが…ちゃんと家だ。
ドアは内側からつっかえ棒で開かなくできる仕様。
ベッド一台くらいは入るくらいの広さだ。
(よし。次はベッドを出してもらおう)
と思いながら再び範囲指定して木を回収する。
木材各種→箪笥orベッドor机+椅子
と出たので勿論ベッドを選ぼうと思う。
ベッドを出現させる前にログハウスの中に入ってベッドを置きたい場所の前に立った。
それから半透明タブレットに表示されてる「ベッド」の文字をタップ。
思った通り、ベッドはログハウス内に出現してくれた。
そしてログハウスから出て、ログハウスを前にしてストレージ機能を使えば…
「ベッド付きログハウス(小)」がストレージ保存一覧にその名を連ねた…。
(…この世界の神様はマジで神様だ…)
何故か急に涙が溢れた…。
(…ああ、そうか…。俺は今やっと安心してるんだな…)
と分かった。
特定の人間を不公平に嫌い憎み苦しめ切り捨てるクソ過ぎる地球世界の神にいつも脅かされていたから…
やっと「クソ過ぎる絶対者の影響下から逃げ切れた」と本当に安心する事が出来て、嬉しくてホッとして気が緩んだ。
そういう状態なのだと
自分でも自覚できた…。
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急いで町へと戻った。
俺にとって郊外は資源の宝庫だと分かったが、長居はできない。
何せ、郊外では魔物が出没する。
魔物討伐は冒険者達のメインの仕事でもあり、町の近くは大概魔物狩りが行われているので比較的安全だが油断はできない。
(急いで戻ろう…)
と小走りに門へと向かった。
これまでも世話になってきた古道具屋のオッサンにノートを見せて
「スキルのお陰で小枝を小冊子に出来るようになりました。小冊子にするのに足らない分はチリ紙にしてます」
とスキルの機能の一部を説明してやると
「…そんな変なスキルも存在したんだな…」
と呆れられた。
「…『大食い』とか『脱毛』とか、もっとわけわからんスキルもあったし…。俺のスキルは当たりの方だと思うんですが?」
「この際、冒険者辞めて製紙業で身を立てるか?」
「それもアリだと思ってます。俺、戦った事も無いし、強くなれそうな気はしないし」
「だよな?」
「それで、幾らで買い取ってもらえますか?」
「そうだな…。スキルで作れるんなら、今後も簡単に作れるんだろう?…その割りに買う人間が増えないなら、そんなに多くは払えないな…。
だから、どうだろう。お前さんが今日持って来てくれた20冊のノートは1冊大銅貨3枚で買い取ろう。
チリ紙100枚は1枚小銅貨1枚で買い取ろう。
その後の納品は売れ行きを見て、売れた分を補充する形で納品するようにしてくれないか?」
ノート1冊300G。6000Gの収入。
チリ紙1枚10G。1000Gの収入。
人目に付かない場所にログハウスを出して寝泊まりすれば宿代はかからない。
黒パン100Gを1日2個買ってチーズ一欠片100Gを1日一個買っても食費は1日300G。
約23日分の食費を手に入れた事になる…。
「はい。それで良いです!宜しくお願いします!」
と二つ返事で引き受けた。
古道具屋に買い物に来る人達が買う品物は様々。
必ず売れるとは限らないがチリ紙で尻を拭く便利さに慣れると生活に余裕のある人ならチリ紙が欲しくなるだろう。
ノートもメモを取ったり帳簿を付ける人達には需要がある筈。
毎週ノート20冊、チリ紙100枚売れてて、その分の納品・収入が見込めるとは限らないが、徐々に需要は上がると思う。
草で編んだ綱やらデカい葉っぱやらで尻を拭くとタダではあるが、草や葉っぱに付いてた虫が手や尻に触れるし、何気に不衛生だ。
便利さや清潔さは
「それを知らない」
なら、さほど求めはしないが
「それを知ってしまう」
と求めずにはいられなくなるものだ…。
(ともかく、今日からはあくせく働かずにゆっくり過ごせるな…)
と思った。
俺がすべき事はあくせく働くことではない。
黒パンとチーズを買うこと。
ログハウスを出せる人目に付かない場所を見つけること。
その二点だ。