「人生の真理」
今朝は起きて早々に便意を感じたので、厠で排泄し、チリ紙で尻を拭いて拭き心地を試してみた。
(…うん。コレコレ)
と思わず納得。
前世では…トイレットペーパーを使い放題だった。
とは言っても俺は前世では重度の知的障害者。
先天的に自閉症でもあり、相当狂ってた。
自分の尻さえ自分では拭かない生活。
家族に自分の尻を拭かせて、風呂で身体を洗うのも全部お任せ。
飯を食うのも、抗精神病薬の影響で微妙に手が震える事もあり超不器用。
大抵スプーンかフォークを使って食ってたし、茶碗や皿の中身が少なくなると上手く掬えない事もあり、食事の最後は家族に食わせてもらってた。
迷惑ばかり掛けまくっていた。
その上に、何故か俺は窓のサッシレールにトイレットペーパーを、ちぎって丸めては詰め、ちぎって丸めては詰めして埋め尽くす行為に熱中していた。
何年も何十年も。
「そうしなければならない」
という不思議な強迫観念に憑かれて…
何故か俺は延々とトイレットペーパーをサッシレールに詰めて
窓が開かない状態にしたところで
今度は人差し指や小指をサッシレールに突っ込み
ギュウギュウに詰めたトイレットペーパーをほじくり出し
ゴミ箱に捨てていた…。
我ながら資源の無駄遣いも甚だしい馬鹿げた行動だと思う。
あの人生を終えた後でなら事実を事実として認識できる。
だがあの人生の最中では
「そうしなければならない」
と感じる強迫観念は絶対的だった。
俺はそういった強迫観念に人生を操られ続け
人生を壊され続けて
不毛かつ有害無益な人間として
周りの人達に迷惑をかけ続けた…。
皮肉だと思う。
前世でトイレットペーパーを無駄に浪費し続けた俺が今世では木製のゴミからチリ紙を出せてしまうのだから…。
この世界では紙は貴重品だ。
前世の俺と同じような事をする障害者がこの世界で生み出されたなら、ほぼ確実に虐待され殺されるだろうと思う。
あの世界だからこそ、あの状態の俺のような人間が不毛な状態のまま生かされていた。
今思っても
「二度とあんな人生を送りたくない」
と思う。
全身全霊で
魂かけて
そう思う。
一方でーー
この世界では皆がスキルを貰える。
この世界が地球世界と同様のダブルスタンダードなクズ世界なら
「金持ちに有用スキルを取得させて、貧乏人には滓スキルを押し付ける」
ような事が行われた筈。
だけどそうはなってない。
この世界は地球世界とは違う。
圧倒的多数の人達が身体能力の一部を微妙に向上できる程度のスキルしかもらえないこの世界で、俺は随分と良いスキルをもらえたと思う。
地球世界の神からネグレクトされていたとするなら…
この世界の神様からは逆に依怙贔屓してもらえてると思う。
嬉しい。
「良いスキルをもらえて、人生がイージーモードになる」
という事以上に
「大事にされてる気がする」
と感じられる事が嬉しい。
俺はここでは
知的障害もなく
精神障害もなく
有用なスキルを取得している。
親もいない孤児でありながら
飢え死にしないので精一杯の貧乏人でありながら
ちゃんと這い上がれるチャンスを
世界の意志によって与えられている。
ありがたい。
クズ世界の地球では
俺はボロ雑巾のように
初めから切り捨てられる予定で存在していた。
強迫観念と妄執に縛られて
家族を苦しめながら
自分も苦しんで
ただ存在していた。
あの人生を送らされた屈辱を…
俺は絶対に忘れない。
あの不条理を絶対に許さないからこそ
「俺はこの世界ではちゃんと生きるんだ」
と心底から思える…。
二度と大切な家族を苦しめ憎む狂気に陥りたくない。
心の奥底からそう思うからこそ…
この世界では心機一転して
「やり直したい」
と思える…。
前世の母は時折
「人生の真理」
を口にしていた。
「人間なんて、衣食住が満たされて、他人から親切にされる、他人に親切にできるっていう、たったその程度の事で幸せだと感じられてしまえるくらい、本当は単純で素直な生き物なんだよ」と。
当時は全く意味が分かって無かったが死後に自分の人生を俯瞰してみて意味が分かった。
意味が分かって俺が思った事は
「幸せを感じるという点については個人差が大き過ぎる」
という事だった。
何故なら、価値観や世界観が狂うと人は得られる筈の幸福感が得られにくくなるからだ。
地球の人類の大半が
「他人から奪い格差を喜ぶ事で幸福感を得ようとしていた」
あの社会では
母が言っていた真理は
「本来なら人間とはそうだ」
という綺麗事に落ちていた。
だけど俺は
だからこそ俺は
「人間なんて、衣食住が満たされて、他人から親切にされる、他人に親切にできるっていう、たったその程度の事で幸せだと感じられてしまえるくらい、本当は単純で素直な生き物なんだよ」
という「人生の真理」が本当に真理として
「そのまま現実化するように」
この世界を
この社会を
変えてやれたらと思ってしまう。
俺の周りだけでも。
チート能力で巨悪を倒して世界を救う?
誰がそんな事するかよ。
俺に必要なのは自己顕示欲を満たす勧善懲悪じゃない。
そういうものじゃない。
俺は俺自身のために存在しているんだ。
巨悪を倒す正義などになろうとすると自己犠牲が強いられる可能性がある。
冗談じゃない。
前世の俺は家族の心を壊し続けていたんだ…。
自分がそう望んだ訳でもなく。
錯乱状態の人生で足掻いて
業深く生き恥を晒した…。
ーーどうせ誰にも分かるまい。
一緒に幸せになりたかった
そんな身近な人達を
「自分自身がこの手で苦しめてしまった」
…あの精神錯乱状態を。
…あの状態で在り続ける苦痛を。
屈辱を。
怒りを。
誰も理解できる筈がない。
だから俺は
「前世の俺自身と前世の家族が体験したあの精神の地獄」
を消し去るためにチートを使いこなしてやる…。
やるせなさを消すために自分の能力を発揮してやる。
「人間なんて、衣食住が満たされて、他人から親切にされる、他人に親切にできるっていう、たったその程度の事で幸せだと感じられてしまえるくらい、本当は単純で素直な生き物なんだよ」
という「人生の真理」が本当に人生の真理としてそのまま現実化する社会を、俺が俺の周りに創造していくのだ。
報われなかった諸々の怨念を
無力ではなくなった今のこの俺が昇華していく…。
前世の母が語った「人生の真理」が「本当に人生の真理なのか」は分からないままだ。
それでも俺がそれを「人生の真理であるべきだ」と心底から感じたから…
それを自分の人生の真理にするべく「活きる」のだ。
俺に這い上がるチャンスをくれた
この世界でーー。




