終話
その後は幽霊は出なくなった。
犯人達を俺が殺してしまったので
「くやしい…」
と思い続ける理由がなくなってしまったのかも知れない。
俺は結局、シャンナの野糞回収を放棄せず、ちゃんと町の裏通りを全部回った。
俺を不審者扱いで殺そうとした男とも再び遭遇したので
(ああ、そう言えば、ピエールとジャンがポラーノ人殺しを繰り返してた外国人だったって事は、幽霊もポラーノ人で、幽霊と友達だったらしいこの男もポラーノ人なんだよな)
と改めて思った。
「おお、また会ったな…」
「ですね」
「お前、野糞回収だっけ?スキルを使いながら、この町をうろついてたんだろ?…その、俺は人探しのためにこの町に滞在してるんだが…。こういう感じの男を見かけなかったか?ナニーノって名前の男なんだが…」
そう言われて似顔絵らしきものを見せられれば…
そこにはまさに、あの幽霊の姿が描かれていた…。
(…墓場で幽霊として見ました、とか言うのもなんだかな。…でも死んでる人を探し続けるのも虚しいのかも知れない…)
なので
「実は、俺、墓場に寝泊まりしてるんですけど、たまに外国人達が穴掘って死体を埋めに来て、度々安眠妨害されてるんですよ…。
この町で誰か行方不明になったとしたら、不自然な場所に掘られたらしい土の箇所を掘り返してみれば出てくるかもです。
勿論、死体で、ですが…」
と忠告してやる事にした。
「…なるほど。嘘を言ってる訳でもなく、嫌味を言ってる訳でもないんだな…。そうか…お前は『もう死んでる』と思ってるんだな」
「お気の毒ですが…」
「そうか。…分かった」
俺は軽く頭を下げてから男の側を離れようとした。
「俺はゼノーニだ。ゼノーニ・コンチャトーリ。国内で騎士団に絡まれて困った時には『ゼノーニ・コンチャトーリの捜査に協力した事がある』と言うと良い。結界魔道具を使って町中をうろついてるヤツなんて如何にも不審者っぽいからな。お前の無害さと無実を俺が先に通達しておいてやる」
と急に声を掛けられて驚いた。
俺が振り返ると
「また何処かで会う事もあるかも知れないんで、『じゃあな』じゃなく『またな』と言っておく」
と言うなりゼノーニが踵を返した所だった。
手を上げたままの後ろ姿を見せつけられて、不覚にも
「かっこいいな…」
と思ってしまった…。
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シャンナを出て、街道を西へ進み再び川を越えるとーー
(ああ、本当にポラーノ王国領に帰って来たって気がして安心するな…)
と感じた。
おかしなものだ。
ピエリもシャンナも歴としたポラーノ王国領なのに、実際に足を運ぶと外国へ出たかのような妙なアウェイ感に呑まれていたのだから。
今回は
ヴァロブラ→ネスタ→パーチ→マウロ→タマロ→ソルミ→マンナ→イゾラ→ピエリ→シャンナ→パーチ→ネスタ→ヴァロブラ
という道順での野糞回収巡礼の旅だったが
次回からはピエリとシャンナは避けて
ヴァロブラ→ネスタ→パーチ→マウロ→タマロ→ソルミ→マンナ→イゾラ→マンナ→ヴァロブラ
へ変更した方が良さそうだ。
マウロ、タマロ、ソルミ、マンナ、イゾラと外国人が多い土地柄だったが、ピエリとシャンナ程の「手遅れ感」は無かった。
ゼノーニ・コンチャトーリが騎士団の一員だと言うのなら、ゼノーニが探していたナニーノも騎士団関係者だったのだろう。
その騎士団関係者が入り込んでは殺されている事からしても、シャンナは絶対民間人が立ち入って良い土地ではない。
ピエリも同様に既にポラーノ王国領ではないかのように外国人達が大手を振ってのさばっていた土地だった。
(一応、ああいう状態を国は把握はしていて騎士を派遣してるが有効な対策を取れていない、といった所か…)
と予測できる分、尚更、俺は関わりたくないし、関わってはいけない気がする…。
俺は密かに
「国の有事とかとは無縁に平和を貪ろう」
と決意したのだった。
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ただ、この時の俺は知らなかったーー。
盗賊や海賊を心臓抜き取りで殺して、それが「ブルフォード人組織の仕業に違いない」と噂が立った事の意味を…。
俺はこの時には既に
「犯罪を他国人の仕業に見せかけて相手国の名誉と信用を毀損する」
という
「諜報工作」
を行う気もなく結果的に行ってしまっていたのだった。
勿論、自分で
「俺はブルフォード人だ」
などと国籍を偽った事はないので誰がどう見ても俺は工作員ではない。
周りが勝手に誤解して
「ブルフォード人の請負人の仕業だろう」
と思い込んだのだ。
後日、違和感を感じた人達が
「ブルフォード人の請負人とは違う別の暗殺者が心臓を抜き取り盗賊達を殺している」
と気が付いたのだが、心臓抜き取りが不気味なのには変わりがない。
そんな事情がアングラにあって数年後にはーー。
「請負人」という語は
「葬儀屋」という意味でも使われるようになっていた。
そして葬儀屋の意味の方のアンダーテイカーは
「正体不明の心臓抜き取り殺人者」
を意味する語となったのだった…。