無個性化
ゴミに捨てられていたボロボロの防具や服が、新品のように綺麗になって交換されるのが…
【廃品回収】スキルの嬉しい誤算的な不思議作用だなと、しみじみ思う。
防具も服もデザイン的に特徴があった筈なのに
回収品は特徴のないシンプルなものになっている。
どうやらリサイクル品の無個性化のような現象が起きてる。
これだと回収品を俺が使っても元の持ち主にバレないのが有り難い。
普通、防具などは製作者を表すマークが何処かしらに付けられているものだが…そういった特徴も削ぎ落とされている。
綺麗になったなら返せ!
だのと元の持ち主が言い掛かりを仕掛けてきても
それが元の持ち主のものだと証明される証拠が一切無い。
【廃品回収】スキルは
「廃品を生まれ変わらせている」
のだと思う。
(すげぇ、万能だな…)
と感心する。
そこで
「是非とも一度試してみたい!」
と思ったのが…
本来なら焚き木代わりにされる雑木林の小枝を回収してみれば
「どれだけ紙が得られるんだろうか?」
という事。
割れた木桶でノートがゲットできた。
(今日はじきに日が暮れる…。明日の朝になったら郊外へ出て、小枝を回収・交換してみよう…)
そう予定を立てながら素泊まり用のお馴染みの宿屋へ寝に帰る事にした…。
****************
「冒険者がパーティーを組める人数は5人まで」
と決まっている。
そして俺が定宿にしている『丸葉の木蔦亭』は素泊まり用の安宿で、各部屋に二段ベッドを押し込んで宿代を稼いでいる宿だ。
個室がない。
全ての部屋が4人部屋か2人部屋。
5人パーティーの冒険者達が泊まると、どうしても1人仲間外れになってしまう…。
少し前まではサンティーの所属パーティーもこの宿の常連だったので、俺は2人部屋でサンティーと一緒だった。
だがサンティーが所属するパーティーは着々と実力を付けて稼げるようになるにつれて
「飯の出る、もっと良い宿に泊まりたい」
という意見が出るようになったらしく
サンティーはメンバー達と共に『丸葉の木蔦亭』を引き払って行った。
サンティー所属のパーティー『三日月の細弓』は依頼達成率も高い、そこそこのベテラン揃いなのだ。
「装備に金をかけて生還率を上げたい」
という方針で宿代をケチり続けていたようだが…
「あまりにもケチり過ぎると人生が楽しく無くなる」
という真理にも気がついたらしく、ワンランク上の宿へと移ったのだった。
なので今現在、俺と同室のヤツは孤児院時代からの友達ではない。
基本的に年齢が近い者同士が同室に割り振られる事が多く、今現在、俺と同室のヤツは14歳。
ロッカという名前で『銀の酒杯』パーティーの仮メンバー。
近所の子供同士で作った、いわゆる幼馴染みパーティーらしい。
ロッカ以外の他の4人は16歳・17歳で皆、歳上。
ロッカは17歳のサデーロの弟なので、歳下で尚且つ未だスキルをもらってない14歳だが、パーティーに加えてもらえている。
ロッカが冒険者になってからはずっと同室だが、なかなか仲良くはなれない。
ロッカはサンティーと違って性格面での大らかさに欠ける。
神経質な性質なので…室内で匂いの出る食べ物を食べるだけで文句を言うのだ。
なので今日も俺はロッカに気を使い、室内での食事はいつも通りに固い黒パンと水で済ませた。
金柑に似た果物をゲットしたので早速食べたいが、ロッカが戻って来るまでに換気できなければ文句を言われそうだ…。
野菜は…ピーマンとミニトマトが出たので
(ミニトマトだけでも食べておくか…)
と思い、ミニトマトを口に含んだ。
(タネが交換されて出たこのミニトマトのタネでまたミニトマトが出てくるんだったら延々ミニトマトがゲットできるよな…)
と思ってタネを吐き出してから【廃品回収】すると…
嬉しい事にミニトマトが交換品で出てきた。
これだと金柑もピーマンも延々と食べ続けられる事になる。
あとカボチャとかリンゴでもイケるだろう。
今後は一生飢えとはおさらばできる。
(…ピーマンはスライスしてチーズと一緒にパンに挟んで食べると美味そうだ)
と食べ方に関して思いついたが…
ピーマンもチーズもニオイがする。
明日の朝パンとチーズを買って昼に野外で食べるのが良さそうだ。
(1人部屋のある宿屋へ移れる余裕があれば、誰に文句を言われるでもなくゆっくり好きな物が食えるのにな…)
と思わず考える。
素泊まり用の安宿の中には「オール個室」をウリにする宿も無くはない。
寝てる間に物を盗まれるという犯罪を警戒しての「オール個室」なので当然、各部屋には内側から鍵が掛けられる。
そういった宿は飯も出ず清掃も行き渡ってない割には宿代が高い。
睡眠中の物盗り被害が嫌だと言う人間は多いのでセキュリティ重視の「オール個室」は需要があるという事だ。
(順調に稼げれば、そのうち宿も移れる筈…)
そう思う事にしておく。
ミニトマトと黒パンの食事を終えて、服を脱いでからブラシで服の表面のゴミを落とす。
手拭いで顔と手を拭ってから下着を履き替えてベッドに入る。
(とりあえず今日はもう寝よう…)
と思い目を閉じると
ドアが開いてロッカが入ってきた。
俺は二段ベッドの上の段なのでロッカからは俺が見えないだろうし、そのまま気にせずに眠ろうとしたが
「イリシオ…。もう寝てるんだ?」
とロッカが話しかけてきたので
「…寝ようとしてたところだよ」
と答えてやったところ
「そうなんだ?俺はもうちょっと起きとくから、それまでランプの火は消さずにおくけど、良いよね?」
と言われた。
「うん。大丈夫。もう寝る。お休み」
「お休み」
ロッカは短剣の手入れをしているようだ。
俺のようなソロ冒険者は町中の雑用で日銭を稼いでいるがパーティーを組んでる連中は郊外へ出て魔物を狩る依頼を受けている。
今日は魔物との戦闘でロッカも短剣を使ったという事なのかも知れなかった…。
因みに俺は雑用しかした事がないので短剣すら持っていない。
薬草採取やら普段の生活でもナイフが一本あれば色々と事足りる。
戦闘面では歳下にさえ差を付けられているが、俺は冒険者でありながらそこまで強さを求めてない。
食べていける。
暮らしていける。
それが一番だ。
だから今のところの目下の望みは
「そのうちリンゴのタネとカボチャのタネをゲットしよう」
という食べ物確保だ…。