パーチ
パーチの検問は緩い。
というか検問所である門が四つもあるから、という事もあるのだろう。
身分証明書の確認はほんのチラッと見られただけ。
ただ通行料は高かった。
そうやって門の中へ入るとーー
人の多さに驚いた。
よそ者を排除する空気が無いせいか、人が集まりやすい町なのだろう。
大きな商会の本拠地がある町でもある。
建物のテイストが統一感を欠くのも特徴の一つだろうか…。
異国風の建物も多く、チグハグな印象。
屋台の食べ物も見慣れないものが多い。
人々の服装も多様だ。
人の出入りが多い町ならではの雑多さがある、という事なのだろう。
【剣術】スキルをゲットしたので剣を買いたいのだが、武器屋に行ってみると、コレまた異国風のデザインの刃物も置いてあった。
俺はシンプルに
「折れにくい剣で重さも値段も手頃なものはないかな?」
と店番のお兄さんに訊いて
「ここら辺のが売れ筋の商品だ」
と勧められたコーナーの中の品を選んで購入した。
使い捨てとかじゃなく長く使うものなだけあって剣は高い。
バディオリから菓子代でせしめた現金がゴッソリ減った。
どうせログハウスで寝泊まりするから宿代はかからないものの
(現金を調達する算段が必要だな…)
と早速思った。
道具屋へのチリ紙の持ち込みには身分証明書の提示が求められた。
盗んだ物を売りに来るような者をこの町ではそうやって牽制してるようだ。
盗まれた物が売りに出された場合、元々の持ち主に盗品を返す義務がないので、商人はその点は気楽だ。
仕入れ先を明確にしておく事で盗品だと知らずに仕入れても、盗みの疑いは商人の元へ商品を持ち寄った者へ向かう。
なので身分の証明と仕入れ方法を教えておく必要があるものの、頭ごなしに盗品だと決め付けて警備隊を呼ぶ事態にはならない。
目の前でスキルを使い
「木の枝や木製の物が有れば紙を生み出せるスキルなんだ」
と言えばすんなり納得してくれた。
「どこまで需要があるか分からないから」
と、そこまで大量に買ってはくれなかったが…
防具屋で皮の盾を買えるくらいの金はできた。
以前ゴミ集積所で拾った防具は胴当てだったので、盾も揃い、見た目は本当に冒険者らしくなった。
また金ができれば腕や足をカバーする防具も買いたい。
(一応冒険者ギルドに寄って、この町での依頼もチェックしておくか…)
と思い、冒険者ギルドへ行ってみた。
張り出されている依頼票を見てみると…
近隣の農村からの依頼が結構あった。
羽虫型魔物や鳥型魔物の討伐依頼。
盗賊討伐の依頼は「騎士団の補助、斥候役」のようなものなので、この辺だと騎士団の巡回コースの末端にギリギリ入っているようだ。
ヴァロブラやネスタは騎士団の駐屯地よりも海軍が行き来する港町マンナに近いため、海軍の管轄地になってるという事なのかも知れないが…
考えてみれば俺が生まれ育った町ヴァロブラでは今まで騎士団が巡回に来たのを見た事が無かった。
町中の雑用として公衆トイレの清掃、広場のゴミ拾いなどがあった。
他にも子守や手工芸の流れ作業の手伝いなどもあり、普通に依頼が残っていた。
人の出入りが多い町では冒険者の固定も少ないという事なのか…
「いつも決まった人が受けるから他の冒険者はあえて特定の依頼を無視しなければならない」
などといった気遣い(という名の依怙贔屓)を受付嬢に諭される事も無かった。
ただ「子守」に関しては、容姿や性格に指定があり
「そこそこ身綺麗で子供に怖がられない見た目を必要とする」
ようだった。
(トイレ掃除で良いか…)
と思い、公衆トイレの清掃の仕事を受けた。
(試してみたい事もあるし…)
俺としては
「範囲指定表示」
で選択すれば何でも廃品回収できるという点で
「公衆トイレの汚れやバイ菌なんかも回収対象にできるんじゃないか?」
と思ったのだ。
場所を訊いて、公衆トイレに行ってみると…
人の出入りが多いせいか凄まじく汚れていた。
(こんな所で用を足すと病気になるんじゃないか?)
と不安になるレベルで汚い。
早速【廃品回収】スキルで回収するとーー
どうやら野糞同様にリサイクルポイントが貯まる仕様での回収になるようだった。
便槽を覗き込むと尿や便が溜まってるのが見える…。
コレはコレで汲み取り業者の仕事なので、他人の仕事を奪うべきでは無いと思い、回収しなかった。
野糞は誰も回収しないので拾い放題だが…
流石に便槽の汚物はソレ専門の仕事があるのだから専門家にお任せだ。
汚れやバイ菌をスキルで回収したので見るからに綺麗になったのだが…
「手動で掃除しましたよ感を出すためにモップで床を水拭きしておいた方が良いだろう」
と思い、掃除道具を出した所…
壊れてたり、道具自体がバイ菌だらけだったので、コレもまたバイ菌を回収してから使用した。
壊れてた道具を治してやるかどうか、少し悩んだが…
ここで修理しても次に来た時にはまた壊れてる可能性が高い。
(リサイクルポイントで掃除道具を自前で揃えてストレージ保存してた方が効率良さそうだ)
と思ったので修理はせずにおいた。
ギルドには道具が壊れてた事を報告した。
「お前が壊したんじゃないのか?」
と疑われるかも知れないと警戒していたが…
「ああ、もう古いですからね」
とすんなり納得してもらえて拍子抜けした。
良い意味で事務的な町だ、というのがパーチの印象となった。
若い人が活発で、情緒的ではなく事務的。
皆善人でも悪人でもない。
田舎の閉鎖的かつ感情的な対応と違って
「過ごしやすい」
と感じた。
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この町の墓地は近くに雑木林などがない。
なのでログハウスをどこに出そうかと迷ったのだが…
(そう言えば、見えてない筈なのに自動的に避けて通るような感じになる訳だし。墓石の前とかに出さない限り、墓場の隅とかで良いのかもな?)
と思い直した。
裏通りの野糞拾いを終えるまでの滞在になるが、やはりこの町でも墓場が俺の宿泊場所となった。




