盗賊
「どのくらいのペースでこの町に来る事になるのか、自分でもよく分かってないけど。多分2ヶ月くらいしたら、また来ると思う」
とバディオリに告げると
「…そうか。是非また来いよ。というか、2ヶ月もお前のスキルで買える菓子が食えないのかと思うと口寂しいな…。まとめ買いってできるのか?」
と訊かれた。
バディオリは日本製の菓子類がお気に召したようだ。
ポテトチップスは勿論、煎餅、チョコレート類、クッキー、ナッツ、スルメ。
塩辛いものも甘いものも酒のつまみも何でもござれだ…。
「食い過ぎは身体に悪いぞ?」
「だが『生き甲斐』になり得る程の美味さだと思うぞ?チリ紙を売って回るんじゃなくて菓子を売って回った方が絶対稼げると思うんだが?」
「あんまり変わった物を出すと尾けられて襲撃されたりしそうだし、監禁されてひたすらスキルを使うよう強要される可能性もあるんじゃないか?
…俺は人間不信なんだ。世の中が安全だと確信できないからには絶対目立たないぞ。たとえ稼げなくてもな」
「そうか。それならイリシオから菓子が買えるのは信用特権だな。俺がお前の事を搾取しないと信用したから、お前は俺に紙以外の物も出せるって見せてくれたんだろ?」
「うん。そう言われてみればそうだな」
「ふっふっふ。自分だけが美味い物を食える特権を持ってるって、良い気分だな。2ヶ月分買い溜めしたいから、出せるだけ出してくれ!」
「…アンタ、食費の殆どを菓子に充てて、ちゃんと普通の食事代は賄えるの?」
「…趣味もなく、嫁も恋人も居ない生活だったから、これでも貯金はそれなりにある。
まぁ、貯金に手を付けなくても、無趣味な人間は生活費がそんなに掛からないんだ。家も持ち家だしな」
「分かったけど…。健康管理にはちゃんと気を付けてくれよな?」
「そうだな。長生きして美味い物を少しでも長く味わいたいからな。1日分の量はちゃんと定量を守るよ」
短い間ながら居候させてもらって分かったが、バディオリは真面目で意志も堅い。
食べ過ぎずに毎日少量ずつ味わうと決めたら、その通りに実行するのだろう。
60日分として60袋の菓子を出した。
「何度見ても不思議だなぁ…。何もない虚空から食い物が出てくるってのは…」
バディオリが感心する。
俺に見える透明画面は俺以外の誰にも見えてないらしい。
見せてやれれば、バディオリに好みの菓子を選ばせてやれるのだが…
俺が片っ端から出した物を消費して、気に入った菓子の袋をバディオリが取っておいて再度発注する感じだ。
因みに交換品カタログは菓子だけでなくハンバーグやら高級肉やらの肉類もある。それもバディオリが好きそうだが…金額が高くなるし、何より面倒なので出さない事にしている。
「おおっ!そうそう。コレコレ」
とバディオリがポテトチップスの袋に頬ずりするのを横目に
「まとめ買い割引きで一割引にしておいてやるよ」
と声をかけた。
ヴァロブラ→ネスタ→パーチ→マウロ→タマロ→ソルミ→マンナ→イゾラ→ピエリ→シャンナ→パーチ→ネスタ→ヴァロブラ
といった順番で各町を回る事も話しているので
「次にイリシオが来た時はそこまで買い溜めは必要なさそうだな。ヴァロブラに戻った後はまたネスタに来るんだろ?」
と訊かれ
「ああ、そうだ」
と答えた。
行商人のように定期的に巡回してくる人間との別れを寂しがる者もいない。
バディオリもあっさりしたものだ。
「元気でな」
と笑顔で見送ってくれた。
魔物や盗賊の襲撃が心配だが、結界魔道具の不可視化効果でだいぶん危険回避率が上がる。
魔物も盗賊も遠くから街道を見張っていて襲撃できそうな人間が通りかかるのを待ち構えているらしいが…不可視化して自転車で通り過ぎる分には遠目から気付きにくい。
余程気配察知に長けたものじゃないと俺の街道通過は見過ごされる事だろう。
心配要素があるとすれば、すぐ近くを通りかかる時に音で気付かれる可能性だ。
その点の配慮は俺もちゃんと考えてるので、俺の身に危険が降りかかる可能性を俺はあまり気にしていない。
俺も寂しがる事なくネスタを発った…。
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街道をマウンテンバイクで走っていると前方に立ち往生している馬車と戦闘中の人間の姿が見えた…。
見た所、盗賊が馬車を襲撃して戦闘になっているようだ。
…俺が強くて自己顕示欲の強い正義の味方なら何の迷いもなく盗賊退治に協力するのだろうが、生憎と俺は弱い。
(でも…「範囲指定表示」でゴブリンが廃品回収範囲内に入った時には「ゴブリンの心臓→魔石orスキル」「心臓部以外のゴブリン→堆肥」という表示になって心臓をスキルに変えられたんだよな…)
と思い出し、興味はわく。
馬車の護衛との戦闘に気を取られてる盗賊を「範囲指定表示」に入れて心臓を盗って退治するとか、できるならしてみたい。
その際に俺にどれだけリスクが掛かるのかが分からないというのが難点だが…
スキルを盗れる。
盗賊を退治できる。
上手くいけば一石二鳥なのだ。
結界魔道具は視覚だけでなく聴覚も誤魔化してくれるようなので、すぐ近くまでマウンテンバイクで乗り付けて、気配を感じさせないように近付き、「範囲指定表示」で盗賊の1人を廃品回収範囲内に入れた。
(剣を振るって動き回ってる奴を範囲内に入れておくのは難しいが、少し離れて弓で仲間を援護してる奴を標的にするのは簡単なんだな…)
と思いながら廃品回収する事にした。
草も廃品回収対象になってるが、それは無視して
「盗賊の心臓→魔石orスキル」
「心臓部以外の盗賊→堆肥」
という表示にだけ注目。
「盗賊の心臓→魔石orスキル」
のみを選択・執行。
途端に盗賊は胸を押さえて呻き出して倒れた。
俺は冷静に
(すごいな…。心臓抜き取っても数秒は動けるものなんだな…)
と考えた。
他の盗賊がそれに気付いて
「ズッキ?!どうしたんだ?!」
と顔色を変えたので
(仲間を思いやる気持ちは持ってるのか…)
と盗賊の人間性に関して複雑な心境になった。
仲間を思いやる気持ちがあるのなら、それと同じ物を平和に暮らしたい人達にも向けてやればいいのに、仲間以外の人間を平気で襲って略奪するのだから、盗賊という人種は倒錯している。
何故かむしょうにイラッとして
(広範囲を範囲指定すれば動き回られても心臓を回収できる筈だ)
と思い、辺り一帯を範囲指定した。衝動的に。
草の名前がズラッと並ぶ中
「盗賊の心臓→魔石orスキル」×4
「心臓部以外の盗賊→堆肥」×4
とか
「護衛冒険者の心臓→魔石orスキル」×4
「心臓部以外の護衛冒険者→堆肥」×4
とか
「商人の心臓→魔石orスキル」×2
「心臓部以外の商人→堆肥」×2
と出たので
「盗賊の心臓→魔石orスキル」×4
を選択・執行。
弓士の盗賊に続いて、剣や斧を持ってた盗賊達がやはり急に胸を押さえて倒れたので、冒険者達も商人達も
((((((えっ?))))))
と驚愕して目を見開いた。
唐突に不自然に悪人が目の前で倒れれば誰だって不審に思う筈。
(もしかしてやらかしたかな…)
と冷や汗をかきそうになったが…
「…一体何だっていうんだ?悪党どもが勝手に倒れてくれてコッチは助かったが…まさか何か変な伝染病か?」
「いや、遅効性の毒をそれと知らずに食ってたという可能性もあるだろうな…」
「どの道、コイツらは賞金首だ。今のうちに首を刎ねておこう」
「首は冒険者ギルドに提出するとして身体の方はどうする?」
「金目の物は剥ぎ取ってから穴掘って埋めるしかないだろ?放置してたら魔物が寄ってきて後続の行商隊が魔物に襲われるだろうからな」
と冒険者達が話し合うのを聞いて
(なるほど。遅効性の毒をそれと知らずに食ってたとかだと、悪党が集団で次々倒れても不自然ではないよな)
と思った。
5人もの盗賊をブッ壊れスキルで一方的に攻撃してしまったが…
俺は罪悪感よりも不自然さゆえに自分の関与がバレる不安を感じた。
(…俺の自分勝手さは今世でも健在なんだな…)
と少し自嘲したくなったが
(今はそれで良いんじゃないか?)
と、本気でそう思った…。




