人間以外の生き物は美しい
町から町へと渡り歩いて野糞を回収する予定についてバディオリに話すかどうか…
少し迷ったが結局話した。
野糞を回収するとリサイクルポイントが貯まり
ポイントを使えば交換品カタログに載ってる製品を得られる事も。
さすがに
「俺は前世で地球って世界に住んでて、交換品カタログの製品はどれも地球製だ」
という点までは話していない。
エイリアンみたいに思われると、俺に対する好意が捻じ曲がる可能性がある。
別に俺は地球人と繋がってる訳じゃないし
こっちの世界の資源を地球人達に啜らせる気もない。
というか、地球のヤツらがこっちの世界に転移・転生してきて、こっちの世界の資源を啜って金と権力を得たり、挙句地球世界の連中にまでこっちの世界の資源を啜らせようとするなら…
多分俺の方がキレる。
(普通に「心臓抜き取り」で殺すと思う)
素朴な国を搾取し植民地化していた地球世界の搾取者の皆様が
「宇宙資源を搾取しようと宇宙進出しよう(!)」
と野心をたぎらせるのみならず…
「位相の異なる異世界まで搾取しよう(!)」
と言うのなら…それはもう有害過ぎる。
強欲過ぎる。
大気圏を越えて
世界を越えて
あくまでも寄生し侵略し続けるなど…
そんな行為、俺は絶対に、認めない。許してはいけない。
棄民意識が無いと
人は別世界・新天地へ行っても
先住民との同化へは向かえないのだろう。
棄民意識が無いと
文明レベルの低い別世界・新天地の先住民を侮るのだと思う。
異世界転生者は
「在住世界の人達といずれ同化する」
のを前提に真っ白な状態で臨むべきだ。
そういう部分の潔癖さが無い連中の侵入など
搾取と侵略へ至ってしまう。
俺以外の地球人が地球の記憶を持ったまま転生・転移して来ると
その手の罪を犯しまくり、罪を罪とも思わない可能性がある。
俺はそんな連中と同じ轍は踏みたくない。
だから俺の中身が
「地球人である」
事をいちいちこっちの世界の人達に意識させたくない。
俺はちゃんとこっちの世界の人達と同化してしまえる。
地球に戻りたいなどと全く思わないのだから。
俺は便利で衛生的で物が溢れた地球世界よりも、人々が素朴で欺瞞に耽りきる事ができないシンプルな世界の方が心地良く感じる。
素朴な世界は「空気が美味しい」。
物理的にも精神的にも。
俺は
「同種のものに対して生き物は等価交換を原則として関わる」
ものだと思う。
こうした同種間等価交換原則はバディオリも同じ考えのようだ。
「【因果応報】ってスキル。人間相手にしか使えないの?」
と訊いてみたら
「生き物全般に使える」
との事だったが、バディオリは悪人以外には使う気がない様子。
「野良猫に【因果応報】を使ってみると、猫同士の喧嘩の場面の模倣が起きた。
…俺は前々から『殺し』が加害者に跳ね返るギフトなら猟師や肉屋はこのギフトで全員死んでしまうんじゃないかと気掛かりだった。
だがどうやら猫が鼠をどれだけ殺しても、このギフトで猫は死なない。
『同種の相手へ行った攻撃・嫌がらせが跳ね返る仕様』のようだから、もしかしたらこのギフトをくれた神様は『同種間の殺し合いを禁忌と考える』方なのかも知れない」
「…猫も利害関係が対立すれば喧嘩するだろうし殺し合いにも発展するんじゃないか?」
「まぁそうなんだろうが…。猫は人間と違って生きるために多くのものを必要とする訳じゃない。
そもそも利害関係の対立図は縄張りとか餌の取り合いが殆どで傍目にも明らかだ。猫は人間のように貪欲じゃない」
「人間以外の生き物は活動範囲と餌の確保が露骨に同種間争いの原因だと明確な分、潔いね…」
「人間は欲深いからな。猫はせいぜい自分と自分の子供の分の活動範囲と餌を必要とする程度なのに、人間はそうじゃない。
貪欲で尚且つ『ただ仲良くしたいだけ』のフリをする演技も巧みだし、本気で自分達の大嘘を自分達で信じていたりもする。
『人間は助け合って生きるべき』と善意を搾取して恩を受けながら恩ある相手の欠点を粗探し。恩を仇で返す理由をアレコレ探って捏造したりもする。
人間以外の生き物は人間と違って『嘘を真実と思い込んで罪を隠蔽し続ける』ような浅ましさを持っていない。
思考力が未発達だから自己正当化虚妄や欺瞞を積み重ねる事自体が成立しないがゆえの無垢さなのだろうな。
人間以外の生き物は美しいよ。【因果応報】で贖罪強制する必要性を感じられないほどに…」
バディオリの言葉を聞いて
(正論だ…)
と思った一方で
(何故バディオリがモテないのか判った気がする…)
とも思った…。
人間以外の生き物は美しい。
人間だけが醜い。
そう思う感性は俺には如実に理解できるが…
そう思う感性が
「人間の女性に受け入れられるものでは無さそうだ」
という事も如実に理解できるのだった…。
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我ながらおかしなものだと思う。
友達のサンティにも腐れ縁のロッカにも【廃品回収】は紙を出せるだけのスキルだと言ったのに、この町に来て初めて出会ったバディオリには正直にスキルの事を話したのだから…。
バディオリのスキルが殺人者にとって物騒なスキルなので、それを知ってしまったことで共犯意識が芽生えてる感じか…。
(ヤバいスキルを持ってしまった後ろ暗さは、同じようにヤバいスキルを持った者にしか理解できないのだろう…)
と自分の心理を自覚した。
ともかく、その後は一週間かけて町中の野糞を回収した。
現金を得るために冒険者ギルドの依頼も受けるつもりだったが、俺がリサイクルポイントで引き換える景品の食料をバディオリが気に入り、その代金として現金を気前よくくれたので現金入手はそれで事足りてしまった。




