友誼を結ぶに値する
「…『ブッ壊れスキル』と言われれば、そうなのかも知れないと納得できるが…。そういうお前は一体どんな『ブッ壊れスキル』なんだ?ただ紙を出すだけだろ?」
バディオリは尤もな質問をしてきた。
「…本当にただそれだけのスキルだと思うか?」
と俺が訊き返すと
「………」
何とも言えないと思ったのか、またも沈黙した。
「調べればすぐに判るだろうから言うけど、俺のスキルの名前は【廃品回収】って言うんだ。
廃品、つまりゴミを回収するスキルだが、それだけじゃない。回収したゴミを原料とした製品を抽出できて、それが交換品として出てくる。
木製品を回収して紙を出せるのみならず、果物の種から果物が出せるし、色んなものが回収可能だ。
それこそ魔物や人間の死体の心臓を回収すれば交換品候補として魔石かスキルを抽出できる。
スキルを抽出すればそれが俺の【廃品回収】スキルに組み込まれて、枝スキルさながらに使えるようになるんだ。
『一人に一つしかスキルが授かれない』という原則を無視して幾らでもスキルを取り込んで増やしていける。
なろうと思えば最恐の犯罪者にもなれるし、最恐の犯罪者を追い詰める対抗者にもなれる。
欲や正義感で自分自身を強化していこうと思えば幾らでも強くなれるからこそ、欲や正義感のような上面だけで強くなろうとしてはいけない気がしてる。
俺としては自己保身を最優先して、後は無難な社会適正化のために自分の力を使うので良いと思ってる。
役人でも無いし貴族でも無いからな。ワルと敵対して正義を貫くのに命と人生をかけるとか思える程、この世の中に愛着を持ってないし、恩恵も受けてない。
ただ『被害者を詐称する加害者』のような生き物に誑かされて味方するような短慮な正義を俺は否定している。
基本的に自分の命と生活優先で、社会に対しては中立的な立場を取り続けるつもりだ。
それこそ自分の命と生活を犠牲にしてでも、自分以上に大切だと思える何かに出会って、それを護りたいと思った時にはその限りではないだろうがな」
俺がそう言うと
「…自分自身が一番大事、という事か?家族はいないのか?」
とバディオリが尋ねた。
「俺を作るだけ作った父親は何処かでまだ生きてるのかも知れないが…俺を育ててくれた祖父母は、俺の家族は、もう居ない。孤児だ。
今更父親がノコノコ出てきて『家族だぞ、大切に思え』とか馴れ馴れしく近付いて来ても相手にする気はない」
「…そうか」
「…この犯罪者の死体に近付こうとしたのも実はこの犯罪者のスキルをもらおうと思ったからだ。
冥福を祈るより、根本的に色々間違ってたこの男のスキルを俺が有効利用して生き残り、俺が社会貢献するなら、多少はこの男の罪の贖罪にもなるのかも知れないし…。俺としては迷う必要がないと思ってる」
「…モノは言いようだな」
「そうだな。一人に一つと決まってるスキルを頂くことは本当は罪深いのかも知れないな。
だがそのスキルを悪用しかしなかった犯罪者からスキルを頂くのは、そのスキルの可能性を良い意味で展開する事だと思うよ。
盗賊が使い続けた剣が盗賊に使われてた時には無辜の人々を殺すために使われ、盗賊の手から離れた途端に無辜の人々を護るために使われるようになるのなら、その剣に染みついた呪いや憎しみも悲しみも昇華していけると思わないか?
だから俺は悪事をする人間に使われ続けたスキルも無辜の人々を殺す道具として使われ続けた剣と同じように悪ではない者に使われるべきだと思う」
「………」
「…だが、一つ訊いておきたい。犯罪者の死体から心臓が抜き取られたら法的に何か問題があるか?という点だ。
例えばゴミなんかも捨てられた途端に国の所有物という事になって、勝手にゴミを漁るのは犯罪だ、とか決められてる国や地方自治体もあるだろう?
犯罪者の死体と言えども破損してはいけない、とかいうルールも俺が知らないだけであるのかも知れない。その辺はどうなんだ?」
「…そうだな…。死体の保護に関しては『捜査妨害』に該当する場合は刑罰対象になる」
「捜査妨害?」
「犯罪者という生き物は犯罪歴が公的に共有される程活動が制限される事になる。だからなんだろうが『死んだ』という事にして、別の土地で犯罪歴のない人間に成りすまし、行き詰まった状態を脱しようとする事がある。
その際に自分とよく似た死体を用意するものだ。
だからこそ犯罪者の死体が見つかった時には身元確認と本人確認が必要になるし、『よく見たら違う箇所』を潰したりといった確認の妨害に当たる死体破損は『捜査妨害』という罪になる。
この男の場合は『青髭』盗賊団に襲われた事のある商人が本人確認し終わっているし、身元も宿屋にあった身分証から割り出されているので、死体の顔が潰されようが心臓が抜き取られようが法的に問題はない。
盗賊に殺された者達の身内が怨恨で死体に八つ当たりする事はよくあるから、誰も気にしないだろう…」
「そうか…。教えてくれて有り難う」
「…お前のスキルは俺のよりずっと便利だな…。『ブッ壊れスキル』にしても羨ましいよ…」
「…この世界の神様がどういうつもりで俺にこのスキルをくれたのかは分からないけど…。でも『善意の筈だ』と思う事にするよ。
アンタのスキルみたいな物騒な殺人者必殺スキルにしても、それを持たされたのがアンタみたいな善良なオジサンだったお陰で、余計にこの世界の神様の善意と良心を信じる事ができる。有り難いなって思うよ…」
「…それにしても俺は『オジサン』なんだな…。一応まだ29歳で、30未満で独身なのにな…」
「俺は15歳だし…。比較したら倍近くだし…。『オジサン』が気に入らないなら『オニイサン』って呼ぶべき?」
「…いや、名前で呼んで良い。バディオリだ。バディオリ・パガーニ。曾祖父が貴族家の三男だったから姓がある。そのコネで警備隊内でも出世の見込みはある。何故誰も嫁に来ないのかが不思議な優良物件だ」
「へぇぇ〜。スゴイね。なんで誰も嫁に来ないの?」
「知らん。女の考える事は謎だ」
「だよね」
(確かに女の考える事は謎だらけだ…)
「父は殉職して、母は去年流行り病で亡くなったから、一人暮らしだ。嫁も居ないし、宿無しの居候を住ませても問題ない環境だ」
「ん?」
「宿代も高くつくだろうし、この町に居る間は俺の家に泊まれば良い」
「えっ?」
「…普通は、耳慣れない変な名前のスキル持ちは、自分のスキルに関して他人に説明したりしないし、むしろ秘密にするものだ。
それを互いに打ち明けるという事は義兄弟の契りをするのにも等しい事だ。俺はこのままお前と分かれるのは『惜しい』と思った。だから…」
「…それは…。年齢差を越えた友情を育みたいとか…。そういう解釈で良いのか?」
「…そうだな。端的に言えば、そういう意向だ」
バディオリは照れてでもいるのか…
仏頂面をしながら耳が赤くなってる…。
ここは茶化す場面ではなく真摯に応えるべき場だろう、と思い
「…有り難う。俺を友誼を結ぶに値する人間だと認めてくれて、嬉しい」
と言うと
グニャリと仏頂面が崩れてバディオリが満面の笑顔に変わった…。




