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デリカシーの無さと鈍感脳筋

挿絵(By みてみん)


「おい、イリシオ!どうだった?」

と一つ年長のサンティが尋ねてきた。


孤児院を一足先に抜けて

冒険者登録を一足先に済ませたヤツなので

「先輩兼友人」

という位置付けになるのだろうが…


サンティは去年【飛脚】スキルを得たお陰で格上冒険者パーティーの斥候役メンバーに加わっている。

俺とは違って需要がある。


思わず溜息が漏れる。


(去年授与式に出たなら「スキルには当たり外れがある」ってことも、ちゃんと理解してるんだろうに…。コイツやっぱり「デリカシー」というものをカケラも持たない鈍感脳筋なのかもな…)

とガックリくる…。


悪いヤツではない。

寧ろ良いヤツだ。


かと言って

「悪いヤツを撃退出来るだけの頭脳と度胸があるのか?」

と言えば、それはない。


人間は「悪人」か「悪人未満・善人未満の中間」か「鈍感脳筋の善人」の三種類しか居ないのかも知れない。


前世の母親がよく言っていた。


「世の中、意地の悪い人間ばかりじゃないし、善い人が多いのは分かるけど。

基本的に善い人達は事なかれ主義で勇気がないから、意地の悪い人間に目を付けられてイジメられてる人が居ても庇ったりしない。

それどころか意地の悪い人間がカネや人脈を持ってたり、組織的反社会性を後ろ盾に持ってたりすると、意地の悪い人間に媚びて仲良くするし、『自分の卑怯さが誰にも見抜かれない』と思うと、どこまでも卑怯者に成り下がれる」

という話。


それと似たような話は孤児院でも度々耳にした。


積極的に悪を為す悪人は少ない。

大半が悪人ではない。


だが善人も善人未満の人達も悪を牽制できないし、しない。

自分にリスクが降りかかる人助けはしない。

卑怯さに転がり堕ちて得できるなら…人は簡単に転がり堕ちる。


善人が善人であれるのは

ある意味で鈍感脳筋過ぎるからだ。


複雑な駆け引きを必要とする悪人から

「空気読めないヤツを仲間にすると思わぬ場面で足を引っ張られる」

と忌避されるからだ。


頭の良い悪人は鈍感脳筋の善人を仲間に引き込もうとはしない。

猿が犬を飼い慣らせないのと同じだ。


そういった図式があるが故に

悪人側からの籠絡という悪魔の誘惑が降りかかりにくい鈍感脳筋の善人は悪の複雑さを知らないまま鈍感脳筋の善人でいられるのだと思う…。



「どうだったも何も…。【廃品回収】とか言う聞いた事もないスキルだったよ」

と俺が答えると


「ん?何ソレ?」

と首を傾げられた。


「知らんがな…。俺もどんなスキルか全然知らんし、明日から少しずつ何が出来るのか検証していくつもりでいるけど、今の時点では何か訊かれても何も答えられないな」


「でも面白そうなスキル名だよな?」


「そうだな【脱毛】なんてスキル名のヤツなんて特に意味不明だよ。嫌いなヤツの頭ハゲさせて復讐する『復讐代行』の仕事でもするのかな?って思った」


「いや、ソレ、普通に怖い…」


「あー。だけど逆に女がワキ毛とか脱毛したい場合には『ムダ毛処理』とかで仕事になるのか?」


「どうなんだろうな?毛が生える場所って要は急所だろ?」


「言われてみれば…。…一切暴力と無縁に生きられる人間だらけなら『ムダ毛処理』も充分仕事として成り立ちそうだけど…わざわざカネ払って脱毛するヤツとかお貴族様以外ではいなさそうだよな」


「平民がお貴族様相手に商売するなら『貴族が怒り出すツボ』とか『貴族が嗜虐心出すツボ』とか心得ておかないと絶対モメる気がする…」


「…だったらやっぱり使い道無いな【脱毛】スキル」


「その点、【廃品回収】なら貴族相手に限定されるとかじゃ無さそうだし、何とか商売になりそうじゃね?」


「かもな…」


「ガンバレよ」


「うん。ありがとう」


そう言って笑顔を向けたものの…。

俺は自分の先行きが明るいとは到底信じられなかった…。



********************



ともかく自分のスキルがどう使えるのか検証が必要だ。

なので宿屋のゴミ箱を前に一度スキルを使ってみる事にした。


教会で教えられたスキル取り扱い説明によると

スキルには常態起動型と選択起動型とがある。


常態起動型は「視力微上昇」とか「聴力微上昇」みたいに身体機能がちょっとだけ(常識的範囲で)上昇するスキルに多い。


サンティの【飛脚】による脚力アップは常識的範囲を逸脱しているので、そういうスキルは常態起動しない。


そして選択起動型にも適正化選択と任意選択とがある。


サンティの【飛脚】などは適正化選択。

当人が意図的に「スキルを使う」と思わなくても「スキルが必要な場面で自動的にスキルが起動する」のだ。

便利だと思う。


一方で俺の【廃品回収】のような変わり種スキルは大抵任意選択。

自分で「スキルを使う」と意図してスキル名を唱える事で起動できる。


教会でも

「任意選択の選択起動型スキルの人達は懺悔室でスキル名を唱えてみてください」

と勧められた。


懺悔室ではスキルの影響が抑えられるので、変なスキルの変な影響を受けずに、スキルがちゃんと起動するかどうかだけ確かめられるのだ。


そこでスキル使用の意志を持って「【廃品回収】」と唱えてみると、ブウゥゥンと蜂の羽音みたいな音と共にB5版ほどの大きさの透明タブレットが出たので「あっ、ちゃんと起動した」と分かった。


画面には

「回収対象選択」

と出たが当然ながら懺悔室に回収対象はない。


「キャンセル」をタップすると透明タブレット自体が消えた。


とりあえず

「ゴミを前にして起動しない事には仕様が分からない」

ので

「コレは明らかにゴミだ」

と明確な宿屋内のゴミ箱内の生ゴミを前にしてスキル起動してみる事にした。


ゴミ箱内には串や楊枝、果物の皮や種、魚の骨・皮などの、要は食後のゴミが入っていた。


それを前にして

「【廃品回収】」

と唱えると…


やはりブウゥゥンという音と共に出てきた透明タブレットの

「回収対象選択」

の所に

「選択項目一覧表示」

「範囲指定表示」

と選択肢が出ていたので先ずは

「選択項目一覧表示」をタップしたところ

「選択項目一覧」が薄灰色の表示で出た。


一覧の上の方に

「ストレージ保存」

「回収・交換」

と出ているので

「回収・交換」をタップ。

一覧の薄灰色の字が黒字に変わった。


一覧に串やら楊枝やら果物の皮や種やら魚の骨や皮が

項目ごとに並んでいるのを改めて眺め…


串→紙ナフキンor懐紙

楊枝→紙ナフキン

果物の皮→ビタミンCサプリメント粒

果物の種→果物

野菜の種→野菜

魚の骨→カルシウムサプリメント粒

魚の皮→ DHA・EPAサプリメント粒


という表示の

「串→紙ナフキンor懐紙」

を選択。


紙ナフキンor懐紙

の選択では懐紙の方を選んだ。


すると懐紙が3枚

目の前にフワリと出現した。


「続けて廃品回収しますか?」

「YES NO」

と出たので

「YES」

を選択して次々とゴミを回収する事にした。


結果ーー


懐紙

紙ナフキン

ビタミンCサプリメント粒

果物

野菜

カルシウムサプリメント粒

DHA・EPAサプリメント粒

という交換品をゲットできた。


コレはちょっと…

いや何というか…


サプリメント粒などこの世界の人達にとっては

「良さが分からないモノ」

だと思う。


サプリメント粒がポチ袋くらいの大きさのベージュの紙製の小袋に入って出てきたが…

コレを目の前で交換してあげても多分誰も喜ばない…。


(そう言えば「ストレージ保存」という項目があったよな…)

と思いサプリメント粒を回収対象選択してストレージ保存してみると…


スキル起動時の最初の画面が

「回収対象選択」のみだった状態から

「回収対象選択」or「ストレージ一覧表示」へと変化した。


…思ったのだが。

コレっていわゆる「魔法収納」なんじゃないだろうか?


手ブラで出歩いて、必要時に必要な荷物を取り出せる。

ちょっと言うなら行商などの荷運びに超便利なスキルなんじゃ無かろうか…。


以前、小耳に挟んだ事があるのだが…


【魔法収納】スキルを授かった子供が兵糧などの荷運びの仕事に従事して大活躍した反面。

敵陣営にその能力が露見して

「アイツを殺せば兵糧攻めも簡単だ」

と弱点を突かれる形で殺されたのだと言う話…。


スキルで荷運びできるメリットは客観的に荷運びしてる事がバレないので、戦争などの武器運びや食糧運びで活躍できる点だろう。


それと同時に、それが敵側にバレた場合には真っ先に命を狙われるのがデメリット。


ともかく、こういう超便利スキルは

「誰にもバレずにこっそり使う」

のが絶対一番良い。


(…俺、凄いスキルを授かった割には、やっぱり今後もウダツの上がらない生活を送りそうだな…)

と思ったのは言うまでもない…。




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