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よそ者を見たら泥棒と思え

挿絵(By みてみん)


(もしかしたら気付かれてログハウスまで乗り込んで来られるかも知れない…)

という恐怖心があったせいで、よく眠れなかった。


夜が明けると墓場は静けさに包まれていて

血痕すら残っておらず

そこで惨劇が繰り広げられていた痕跡が

何一つなくなっていた。


俺は結界魔道具を稼働させたままログハウスをストレージへ戻して

忍び足で林を抜けて町の裏通りへと出た。


(平和だな…)

と思うのが…


(ここでも野糞がたんまり転がってる…)

という日常的風景だ。


非日常的な惨劇の光景を見た後では

野糞まみれの裏通りという日常風景が何気にホッとするのだ。


臭くて汚くて姦しい日常3Kが

凶悪な恐怖と血痕まみれの非日常3Kを上書きしてくれる…。


野糞の不衛生な匂いにまみれた人々の暮らしのある町が、人知れぬ墓場の血と死肉の匂いを紛らわせてくれる…。


人糞の匂いで徐々に自分の意識がグラウディングしていくのを感じながら…


(野糞回収のリサイクルポイントが高いってのも、この世界の神様が「人間が生きる事と、人間の生理現象を肯定している」ってことの表れなのかもな…)

と感じた。


まぁ本当に「神様」が居るのかは謎だが…

俺に【廃品回収】スキルを持たせてくれた存在は俺に

「生きろ」

「自分自身の可能性を試せ」

と言ってくれてる気がする。


ただ、昨夜の悪夢のような惨劇を引き起こしていた連中もまた何かのスキルを悪用してて犯罪執行・断罪回避のアドバンテージを得てる可能性はある。


神様が人間に対して平等に

「生きろ」

「自分自身の可能性を試せ」

と言って

「悪党にも悪用可能なスキルを与える」

せいで世の中が地獄になるのだとしたら報われないが…


俺のような人畜無害な人間に【廃品回収】のような最恐スキルをくれてる訳だし、わざわざ初めから悪用すると決まってる悪人に有用スキルを与えている可能性は低い。


神様はもしかしたら

「人畜無害な人間と犯罪者予備軍とを明確に識別する識別力を持っていない」

のかも知れない。


ーーともかく

この町でもやる事は決まってる。


野糞回収してリサイクルポイントを貯める。

チリ紙とノートを出して道具屋へ売る。

需要があるようなら

「定期的に卸す」

「売れた分だけのカネを後払いでもらう」

ように約束をする。


町の大きさと不衛生度を考えると

野糞の回収は一週間近くかかりそうだ。


その間に道具屋と交渉を進める事になるだろうと思った。


********************



運が良いのか

運が悪いのか

どちらとも言い切れない…。


道具屋に行って

「チリ紙とノートを買って欲しい」

と話を持ち掛けると


店主のオッサンから

「誰もそんなもん買わねえよ。引き取り料までは取らないから、持ってても無駄になる分だけ置いて行きな」

と言われた。


(あっ、こいつクズだ…)

と分かったので

「サヨナラ」

と言ってソソクサとその場を立ち去ろうとしたのだが…


「待てや!コラッ!」

と怒鳴られて腕をつかまれた。


近所の人達らしい人達が

「どうした?」

「なんだ?」

と様子を見に寄って来たら


「よそ者だ。盗品を売りに来たみたいなんで足止めしてた所だ。早く警備隊を呼んでくれ」

と道具屋のオッサンがまるで自分を正義の味方とでも思ってるらしい言い草で宣うた。


「………」

思わず唖然となるが…


盗賊出現率が高く

盗品が日常的に出回る治安の悪い町では

「よそ者を見たら泥棒と思え」

的な価値観が普通に普及してるという事なのだろう。


「すぐ呼んで来る!」

と近所のオッサンが走って何処かへ行ってしまった…。


こちとら成人したての15歳。


悪人面でもないし

寧ろ弱そうな少年だというのに…


この町の人達は過剰防衛を装った誤認制裁・過剰搾取で旅人から身包みを剥ぐのが日常行動なのだろうか…と疑問に思った。


警備隊の人達は町の人達よりも多少は冷静だったので

「何があったんだ?」

と普通に質問してくれた。


なので俺は地面に落ちてる小枝を拾って

「俺のスキルは木から紙を作れるスキルなんです」

と言ってから目の前でチリ紙とノートを出現させてやった。


「紙を買ってくれる人が居る土地なら手ブラで旅が出来るので荷物も持ち歩いてないし、紙を泥棒して仕入れる必要もない」

と説明。


俺を盗品を売りに来た泥棒扱いした道具屋の店主以外のオッサン達は

「「「おお〜っ!」」」

と感心していた。


警備隊員のオッサンもその例に漏れず、すぐに濡れ衣は晴れたーー


筈なのだが

「そんな怪しい紙を仕入れる程、ウチの店は落ちぶれてないんだよ!」

と道具屋のオッサンだけは頑なに俺を拒絶した。


濡れ衣を着せて他人を陥れようとした挙句に

意地になって自分の非を認めず

謝罪もせず

延々と嫌い続け

延々と疎外し続ける。


そんなクズな人間は地球世界でも少なくなかったが

この世界でも通常モードで普通に湧いているものらしい…。


「…紙を買い取ってくれそうな店って、何処か有りませんかね?」

と俺が尋ねると


「そうだなぁ…。道具屋はここ一軒だけだが、古道具屋なら二軒ある。ただ、古道具屋は基本的に中古品を安く売る店だから、物を買い取ってもらう場合の金額もバカみたいに安い。それで良ければ案内するが…どうだ?」

と警備隊員のオッサンが答えてくれた。


ヴァロブラの古道具屋は高く買い取り安く売るスタイルの庶民の味方だが、ヴァロブラの古道具屋のオッサンみたいな人は社会全体で見て確実に少数派。


(買い叩かれるんだろうな…)

と予想がついた。

こういう町だと「定期的に卸す」ような取引きは考えるべきじゃないのだろう。


それでも一応

「有り難うございます。是非案内してください」

と頭を下げた…。



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